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女の子にピンク色をやすやすと贈れなくなった話

小学4年生の時だった。担任の先生が言った。

「女子は緑ばっかり選ばないで、ピンクも取って。男子がかわいそうでしょう」

たしか、A4用紙を入れる用の紙ファイルで使う、真ん中を固定する留め具の色だったと思う。

生徒は、教室の前までいって、好きな色の留め具をとるように言われたのだ。色の種類は3色くらいしかなくて、女子が好きな色をとったら男子にはほとんどピンクしか残っていなかった、というような何気ない一幕であった。

その時私は、「あーそうか~じゃあ私の緑を返そうかな~」と考えたような、考えなかったような。結局どうしたのかも忘れたし、先生の言葉にも特に疑問を持たなかった。

それなのに、なぜかこの記憶だけは鮮明に覚えている。

今になって思う。もし、あのとき、女子がピンクばかりとっていたら。男子に緑ばかり残っていたら。

先生は、「男子が(ピンク色がなくて)かわいそうだから、女子は緑も選びなさい」と言ったのかな。

***

「女の子」に生まれると、何かとピンクや赤に囲まれることが多いと思う。

幼少期に「女の子」が通る道の一つとして(少なくとも私は通った)、「リカちゃん」があるが、

リカちゃんの好きな色は白と「ピンク」、ドレス、家具、家等の商品にはピンク色が多い。ホームページのほとんどを占める色はピンクである。

幼稚園の頃、書き方教室に行くために使っていた「ディズニープリンセス」のかばんも、たしかピンク色だった。

そして、小学生のランドセル、私はピンク色を選んだ。ピンク色は好きだと思っていたから。

今でも私はピンク色が好きだ。薄いピンク色のセーターはお気に入りでよく着ているし、財布も薄いピンク色を基調としたえんじ色のものを自分で選んで使っている。

しかし、ふと考える。私はもともとピンク色が好きだったからピンク色を選んでいるのか、

ピンク色に「囲まれる機会が多かったから」見慣れているピンク色を選んできたのか。

私は「無意識に色を選んでいること」に、無自覚に生きてきたのだと思う、。

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私がこんなことを考えるようになったのは、卒論でピンク色を分析の観点として使う機会があったからである。私も、それまでは自分とピンク色の関係について振り返ることもなかった。

ピンク色について、よく言われるのはファッション雑誌とかでよく見る「ピンク色はフェミニンな色」というやつ。「フェミニン」、つまり「女性らしさ」。

私も、ピンク色が「女性らしさ」と結びつけられることについて特に疑問を感じていなかったが、このピンク色と「女性らしさ」の関係性は古くない。

ガヴィン(2017)によれば、1950年代頃まで、ピンク色はどちらかというと「男性らしさ」を表す色として捉えられ、

「血の色」、つまり赤色は、「強さ」の象徴として男性性(マスキュリニティ)と結びつけられ、ピンク色はその明るいバージョンとして小さい男の子とかの色に用いられていたとか。

1920年代後半になると、アメリカの一部地域においてピンク色は「女の子の色」として販促されはじめ、1960年代には化粧品の広告などでピンク色が「女の子の色」として再定義されたそう(Gavin, 2017)。

2015年あたりにネットでわいた「ダサピンク現象」のように、「女だったらピンクあげとけばええやろ」みたいな、

女性性とピンク色が、企業の販売戦略などの要因もあって結びつけられてきたことがわかる。

逆に、このような流れを逆手にとって、女性がピンク色を自らを象徴する色として、あえて取り入れる場合もある。

こうした、ピンク色と女の関係性を知ってしまうと、普段何気なく目にしていたものをとたんに意識してしまうようになる。

年末に放送される「女芸人NO.1決定戦 THE W」というテレビ番組でもそのテーマカラーはピンクだし、

もっと政治的な感じの話だと、乳ガンの啓発運動も「ピンクリボンキャンペーン」である。

きっと、このような例は探せばもっとあるだろうし、見慣れすぎて忘れている例もあると思う。

そんなこんなで、卒論に取りかかってからの私は、何かとピンクに敏感な女になってしまった。

友達(女性)に贈り物をする機会があって、これいいなと思ったものには黄色、紫、青、そしてピンクの4種類の色があった。

卒論を書く前の私だったら、間違いなくピンク一択だっただろう。

それが一番きれいでかわいいなと思ったのは事実だった。

ピンクを選ぶことが良いとか悪いとか、そういうことではない。


私も自分用に買うんだったらそこまで考えないし、ピンクが良いと思ったらそれを選ぶ。

でも、人にあげるとなると話が変わってきて、

あげた相手に「ピンク色を押し付けられた、どういう意味かわかってるの」と思われたらいやだな…とか、エゴが働いてしまう。

結局は、見た目も匂いも万人受けしそうな別の色を選び、

「ピンクのやつはちょっと匂いキツかったしな…」と心のなかで言い訳しておいた。

物を学ぶと知見が広がるというが、選択のしづらさを生むこともあるのだな、とひとり文房具屋で頭を抱えたのだった。

(卒論は出したよ!)

おわり

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《参考文献》

Gavin, E. (2017). The Story of Color; An Exploration of The Hidden Messages of The Spectrum.Michael O'Mara Books Ltd.

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