トランプ元大統領弾劾裁判の終結

 アメリカ時間2月13日にトランプ元大統領の弾劾裁判が終結し、結果は無罪となった。今回は共和党上院院内総務のミッチー・マコーネル議員によるこの結果に対して行った演説を考察する。

 まず、トランプ元大統領の無罪が確定したからといって1月6日に起きた出来事が帳消しになるわけではない。

 1月6日、議会では大統領選挙の結果の確認と承認行為が行われていた。一方でトランプ元大統領はホワイトハウス前で支持者を前に演説を行い、議会で行われている一連の事象に対して疑義を述べて支持者を議会に向かうよう示唆している。これに端を発する暴動及び襲撃によって議会は大混乱、トランプ支持者はペンス元副大統領の殺害をほのめかし、警察官と戦闘を行い、結果多数の逮捕者、死傷者を出すに至った。トランプ支持者はペンス元副大統領が選挙結果を否定すると信じ、その夢が破れると裏切り者として殺害を言及、この一連の行動は革命やクーデターを画策する者に他ならない。ペンス元副大統領は1月6日の選挙結果承認に際し、文書を発表し米国憲法を順守すると述べている。テロリストと化したトランプ支持者によって引き起こされたアメリカの民主主義の危機はその後もアメリカ社会に異様な緊張感と本来であれば必要のない州兵の過労を強いた。以上のことだけを鑑みても一連の行動の発端となった選挙結果を認めないトランプ氏の責任は十分に感じられる。

 しかし、トランプ元大統領は無罪となった。だが、責任は存在している。マコーネル氏も演説の中でトランプ元大統領に「実質的にも道徳的にも責任がる」と明言している。しかし、弾劾とはならなかった。これについてマコーネル氏は憲法とかつての最高裁判事であるジョセフ・ストーリー判事を挙げ、上院に民間人となった元大統領を裁く権限は与えられてないと説明する。トランプ元大統領が1月6日に行った演説も煽動ではないと刑事上の規定における一般論を述べつつも、弾劾裁判以外の民事・刑事裁判では責任を問われる可能性を否定しなかった。この発言を見るに政治判断から司法判断へ審査する場所を移動させたように思える。

 マコーネル氏の演説の中で私が注目したのは選挙においてトランプ氏に投票した有権者とトランプ氏の言葉を信じて議会を襲撃した有権者は違うという部分だ。これは非常に重要だと考える。トランプ氏に投票したからと言ってそれは今回の議会襲撃をした暴徒を支持することとはならないということだ。

 さらにこの弾劾裁判で興味深いのは採決の迅速さと証人を呼ばなかったということだ。ここからこの裁判がいかに形式的だったかが推測できる。共和党も証人を呼ばない方向で動き、民主党もそれを批判せず、そして表決の日を迎えた。全てあらかじめ調整されていたように思える。

 この弾劾裁判が無罪という形で終わったからと言って「トランプ氏が間違ってなかったことの証明だ」などとは感じてほしくはない。なぜなら演説の中でマコーネル氏がトランプ氏を擁護している節はまったくないからだ(むしろ批判している)。上院の一議員として、共和党の院内総務として、憲法に仕えるものとして、マコーネル氏は演説を行い、上院の決断を支持している。これは決してトランプ氏を支持しているのではない。トランプ氏の弁護団もこの判決を支持しているが、何度も述べるようにトランプ氏の責任がなくなるわけでも、許されたわけでもない、あくまで弾劾裁判という政治的な形での判断をしなかっただけなのだ。むしろ司法判断となればここからが重要なのである。そしてその政治判断もまた民主党、共和党、そしてトランプ氏の弁護団の間で調整されながら進んだようなものだということも重要なことだ。ようするに弾劾裁判は茶番だったということである。



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