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短編小説:キャンドルの炎のように(前編)〜心の闇シリーズ〜

幸せの切符を掴むために

輝く未来を手に入れる為に

人は恋をする。

しかしその恋の形にも光と影がある。

終わるための恋…破滅型恋愛。

なぜ終わるとわかっていても彼女達はその恋に溺れてしまうのだろうか…

それとも破滅型恋愛ほど燃え上がるものなのだろうか…

しかし、彼女達自身、解っているのかもしれない。

炎が消えるまでのキャンドルの長さを…

美佳…長身でスレンダー、モデル風のこの美女から連絡があったのは昨晩のことだった。

いつもならメールで用件をすませる彼女だったが、この日はめずらしく、着信音を鳴らした。

「遅くにごめんね…ちょっと相談があって…」

声のトーンから、かなり落ち込んでいる様子がうかがえた。

そして後日、会う約束をした。

週末の午後、

暦の上ではもう春なのにこの日はまだ風が肌を突き刺すような感覚に襲われた。

待ち合わせの下町の喫茶店に着き、私は店のドアを開けた。

チェーン店ではないこの店はやけに薄暗く、静けさが漂っていた。

マスターの趣味なのか、店の壁には沢山の絵画が飾ってあった。

薄暗い店内がその絵画の存在を際立たせていた。

手前の席に大学生のカップルらしき客が一組隣り合わせで座っていた。

私は1番奥の席でコーヒーを注文し、美佳の到着を待った。

10分くらいで彼女は現れた。

長身でスレンダー
そしてファッション雑誌にも常に目を通しているらしく服のセンスも申し分ない、

しかしいつもとは違う、寂しげな表情は、

この美女をさらにミステリアスな女性へと造りあげていた。

美佳は私を見つけ向かいの席に座った。

「ごめんね。少し待たせちゃったね…」

店内の薄暗い照明が彼女の表情を捉らえた時、

アイシャドーの奥に隠された、腫れた瞼が私の胸に突き刺さった。

「注文、何にする?」

私は彼女に問いかけた。

「そうね…じゃあ私もコーヒーにしようっと、あ、でもホットのほうで」

彼女は少し苦笑いをし、ホットコーヒーを注文した。

美佳はしばらく、入り口のドアの方を見つめていた。

無言の美佳に私は

「この店の絵画いいよね…」

呟くように語りかけた。  

美佳はやはり無言のまま頷くと、やっと私の目を見つめた。

そして…

                続く
#短編小説
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