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脳内を覗きたくなる芸術 カンボジアのピダン

カンボジアのピダンに魅せられる外国人も多いと思うのですが、詳しくないわたしでも、あの芸術性に心を奪われました。言っておきますが、わたしはアート的センスは持ち合わせていない人間です。

ピダンというもの

カンボジアはクロマーをはじめとして、布を上手に使う国だなぁと思っていて、さまざまな織物を目にします。女性が履いているスカートもおばあちゃんが腰に巻いている布も、素敵なものがたくさんあるのですが、ずっとずっと昔から織物が盛んで、とくにシルクが有名です。カンボジアに来てからピダンという布の存在を知りました。ピダンはお寺に奉納されたり、自宅で仏教行事や冠婚葬祭を行う際に使われた織物のことを指します。ピダンは天井という意味らしく、お寺などで天井を覆っている布から由来して、その名前がついたそうです。そのようなものがあるというのを知ったのですが、へぇ、そうなんだ、これ織物でプリントじゃないんだ〜、すごいね〜、くらいのわたしでした。

仏教のお話が描かれているピダン(国立博物館で撮影)

とんでもない技術じゃないか!

これがただの織物ではないことを知ったのは最近のこと。日本の絣のようなもので、織る前に糸を括って草木で染めて、染め上がった糸で織ると、絵柄になるというもの。「え? 糸の段階で? 絵柄を考えて染めているの?」嘘でしょ? と思ったのですが、図柄を脳内で考えながら糸を括っていくというやり方だそうです。縦の糸はあなた横の糸はわたし、なんて簡単なものではないと、仕上がったピダンを見て思うのです。ピダンのすごいところは、この絵柄が繰り返しを用いているものもあれば、端から端まで違う絵柄で織り上げているものもあるということ。これは、完全に天才の脳です。だって、見本があるわけではないものを頭の中で設計図を作ってから糸を括って染めて織るということでしょ?

糸を括って染めたところ(国立博物館にて撮影)

内戦を乗り越えて伝えてきた伝統

図版というか設計図がなく、製作者が脳内で図柄を考えて作っていくということに感動を覚えてしまったわけですが、つまり、職人さんたちが口伝えで守ってきた技術だというところも驚きポイントです。カンボジアにはポル・ポト政権時代から酷い内戦がありましたが、それを乗り越えて伝わってきたものだと思うと、絵柄ひとつひとつがとても愛しいものに感じます。アート的センスのないわたしですら、そう感じるのです。

守って伝えて、その次は?

すごいなぁ、すばらしいなぁと思ったのが、現在若手の職人がピダンの技術を受け継いでいるということを聞いたことです。そうすることで守られていくし、守るだけでなくて新しい考えが取り入れられたりしてブラッシュアップされて後世にも受け継がれていくでしょう。でも、自称世界遺産マニア(一応世界遺産検定1級です)は思うのです、これは世界遺産になってもいいくらいなんじゃないかと。ピダンの芸術性や傑作性を理解する人たちは、高額で購入するそうですが、そうすることで職人たちの収入も増えると思います。それから、カンボジアには遺跡以外にもすばらしい伝統技術があるんです! ってなったらかっこいいなぁと思ったりしています。

現在、プノンペンにある国立博物館で、ピダンの特別展示がされています。ピダンのすばらしさを目にすることができるとともに、ピダンの収集に尽力されたピダン・プロジェクトの方々の熱が伝わってくる展示です。6月21日まで開催しているそうなので、ぜひ、足を運んで、脳内を覗きたくなる芸術を味わっていただきたいなと思います。ほんと、すごいですよ。


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