突っ走る「金利正常化列車」。ー 米国債では「逆イールド」が進行中。
いよいよ「金利正常化列車」が突っ走る気配。世界中で国債金利が一斉に上昇し始めた。10年はイタリアが@2%乗せ、オーストラリアも近年高値の@2.7%台に乗せ。ドイツの@0.5%、フランスの@1%も目前である。
この金利上昇をリードしているのが米国債。こちらは典型的「利上げ初期」相場であり、「利上げ」開始と同時にシナリオがどんどん変化している。2年債は@2%を超えたと思ったら、あっという間に@2.18%。「2%上限説」はどこへやら、FRBの政策金利@3%を織込み始めた。
「明確な理由もないのに5年債金利が10年債を上回るのはおかしい!」
理屈に拘りがちな金利トレーダー、特に経験の乏しい勝ち気なトレーダーにありがちなのだが、ここまであからさまに5ー10年の「逆イールド」が進行すると、どうしても「スティープニング」(e.g. 10年を売って5年を買う。長期の金利が短期を上回ることを狙った取引)を組みたくなる。
だがこれは典型的な相場の「罠」。
まず「利上げ」初期には「ベア・フラット」=金利上昇局面で短期金利が長期を上回る現象、が起こるのが「経験則」。当然そちらの取組が増えるので「スティープニング」は多勢に無勢で勝ち目はない。その「損切り」が誘発されると更に酷い「フラットニング」が起きる悪循環となる。
それから前稿.2022年「金利」の "Conundrum" (謎)。ー 株高を支援する「イールドスプレッド」。|損切丸|note で説明した「キャリートレード」も厳禁。長短の金利差がこれだけ開くと、どうしても目の前に落ちている「日銭」が欲しくて5年債@2.36%買い-O/N@0.32%レポ=@+2.04%の利益が欲しくなる。だがこれも「罠」。5,000億円の取引で:
キャリー:1日+28百万円利益(年間+102億円)
時価会計:+0.01%の金利上昇で▼2.5億円損失
前稿の時点で5年債@2.14%で「キャリートレード」に入ったトレーダーはこの時点で▼30億円のやられ。1日+25百万円なんて利益は吹き飛んでしまい、更に肝心の「日銭」も政策金利が@2.14%を超えた時点で「損失」に変わる。そこで「損切り」しようと思っても、その時には5年債が@3%なんて事態もある訳で、そうすると何と▼217億円の大損。
筆者も若気の至りでえらい目にあった事があるが(苦笑)、安易な「キャリートレード」、特に「利上げ」局面は危険。今でも ”阿鼻叫喚” の叫びが世界中で聞こえているが、「金利」は結構怖ろしい。
そもそも(一部ブラジルなどを除いて)物価上昇率に対して今の金利水準は著しく低いまま。今回の金利上昇は「暴走」というより「正常運転」への回帰と捉えた方がいい。
そして最も肝心なのがマーケットに供給される「流動性」。FRBもECBも5月にやっと「テーパリング」を始めるが、それでも「お金」の供給は止まらない。真の「引締め」=余った「お金」の回収、はまだ先であり、現在の「金利上昇」はそれを先取りした動きと読める。
この程度の金利ではまだ「投資」としての魅力は低く、回収されない「お金」は「株」や「原油」「ガス」「穀物」「金属」など「インフレ資産」に向かう。だから本格的な「調整」はまだ起こらない。
先進国で最も心配なのが1人列車に乗り遅れた我が日本。面子なのか意地なのか、現・日銀総裁はてこでも「利上げ」に舵を切るつもりはない模様。それを見透かしたように、ドル円は何の抵抗もなくあっさり@120円乗せ。*エネルギー高と「円安」のダブルパンチで、生活コストは上がる一方だ。
「円安」に光明がないわけではない。
ここまで日本が安くなれば、海外に出した工場の一部は戻せる。「経済安全保障」上も有効だし、何より国内雇用に貢献する。再度100円を切るような「円高」もほぼないだろう。最近日経平均が他市場に比べ健闘しているのはそういう面もある。問題は「人手不足」。これが経営者に二の足を踏ませている。
もう1点、「インフレ」は「高コスト体質」の日本には追い風。
例えば、ここまでエネルギー価格が上がれば「水素発電」のハードルは下がる。今日(3/22)は電力逼迫で「節電協力」が呼びかけられ、ネットでは「原発再稼働が必要」の主張が盛んだが、今回の "侵略" で相手の武器に転じるリスクは証明されたし、やはり危険。時限を区切っての再稼働はありだが、**王道は高性能蓄電池等を含む電力の多元化だろう。
「投資」「お金」の面から見ると 買い向かう「日本人」の「円安デモクラシー」。 ー ”Trend is NOT Friend !” |損切丸|note でますます「お金」は日本の外に向かう。日米の10年国債の金利差が2%以上に開くのは一体いつぶりだろう。***いくら「インフレ」に差があるとはいえ、これでは円から「お金」が逃げ出すのはやむを得ない。
乱暴な言い方になるが、今起きている戦争も「インフレ」を起点とした「脱・炭素戦争」。「金利上昇」はその ”大きな変化" の象徴でもある。歴史が証明するように、時代の転換点では様々な ”痛み” を伴う。綺麗事は抜きにして、我々生活民も「覚悟」が問われており、自分の頭で考えて自ら行動する必要性が増すだろう。まさに正念場である。
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