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気がはやる "群衆" を留めるのは大変

 ウィリアムズNY連銀総裁: 「3月の利下げを考え始めるのは早過ぎる」
 ボスティック・アトランタ連銀総裁:「来年後半に2回の利下げしか予測していない」
 ナーゲル・ドイツ連邦銀行総裁:「ECBの利上げサイクルは恐らく終了したが、利下げを検討するのはなお時期尚早」

 パウエルFRB議長の ”配慮” が効き過ぎたため、FRBもECBも慌てて "火消し" に走っている。コンサートでも一度ステージに殺到した観客は半ば暴力的になってしまうが、気がはやる "群衆" を留めるのは大変FOMC後の米国債+欧州国債の怒濤の買い戻しがまさにそれだ。

 この発言で2年以内の金利は押し戻されたが長期金利は下がったまま。結果として「逆イールド」が深まった。展開としては今年初めにウォール街主導で起こした「金利2%・3%運動」と同じで「偽りの逆イールド」に近い"反動" を引き起こす可能性が高く、中銀にとってはあまり好ましくない。

 押し戻されたといっても2024年の「利下げ」織込みは未だ▼0.25%×5回ボスティック・アトランタ連銀総裁の言うとおり:「来年後半に2回の利下げ」ならとんでもない"反動" が来る。どうしても「インフレは一時的」(2021年)後の "苦い記憶" が想起され、この先が思いやられる。

 確かにパウエル議長が言及したように来年 "recession" (景気後退)のリスクはある。だがこれだけ ”薪” ≓「金利低下」を投下すると「勇み足」だった場合後始末が大変。だからこうやって連銀総裁に "火消し" に回ってもらっているのだろうが、飢餓状態の投資銀行業界はもう言うことをきかない。最高値を更新したNYダウなど、今後実態がついていかないと厳しくなる。

 ヨーロッパでは独DAXの急伸が止まらないが、その理由が "recession" 。結局「利下げ」による「過剰流動性」頼みが明白で、肝心の「景気後退リスク」は完無視。これでは株価が何を示しているのかわからず 世界は「過剰流動性」中毒Ⅲ ー  それでも彷徨い続ける「お金」|損切丸 (note.com) からの脱却は難しい

 筆者は1つ気になっていることがある。SOFR金利 ↓ の高止まりだ。

SOFR = Secured Overnight Financing Rate

 11/30には@5.54%をつけており「市場流動性逼迫」が指摘されている。つまり「お金」が足りない「過剰流動性なのに何で?」株や不動産を「借金」までしてガンガン買えばこういう事は起き得る2019年9月には一種の "エアーポケット" に陥って@10%に急騰したが、「お金」が足りないとパニックを引き起こす

 今の日本人と違ってアメリカ人は「借金」が大好き株でも不動産でも値が上がると思えばドンドン「借りる」。結果「お金」がなくなって "クラッシュ" する歴史を繰り返してきた。まあバブル期の日本も同様だったが、「本物の危機」の時、金利は上昇する。|損切丸 (note.com) 

 普段はあまり注視しない短期金利市場だがしばらく見ておいた方がよさそう。これをクレジット・クランチ(Credit Crunch、信用収縮)と捉えれば十分な「利下げ」の理由になる。ひょっとすると議長発言の裏側にはそういう状況があるのかもしれない。

 しかし300兆ドル(≓4.2京円)も「借金」して尚クレジット・クランチに陥るとすると、これはかなりの重症副作用がわかっていても心臓を動かすために「輸血」=「資金供給」し続けるしかない。日本はずっとこの状態に近かったがやっと「正常化」できるのか、正念場に来ている。

 大統領選もあって「株本位制」のアメリカでは株価を落とす選択肢は取り得ない。それが先日の議長発言の "真意" だが果たして上手くいくのか。

 「少しは資金繰りも気にしてくれ」

 筆者が20年以上投資銀行で「資金繰り」を担ってきた間、リーマンショック(2008)を含め「過剰流動性」と "クラッシュ" の繰り返し。立場的に愚痴りたくもなる(苦笑)。だが実情は「正常化」どころか「人工心臓」は肥大化するばかり。もう ”普通” に戻る事はないのか...。せめて日本だけでも「マイナス金利」から「低金利」ぐらいまでは持ち直して欲しいものだ。12/18,19の政策決定会合を待とう。

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