ユーロ円がドル円と同じ価格になる日。
「あれ、@114円台? 随分円安になったなぁ...」
最近こんな風にドル円と見間違えた人も結構いらっしゃるのではないか。@114円台はドル円ではなくユーロ円である。円高が進行する中で、*実はこのところ対ドル、対円でユーロ安が急激に進んでいる。
*個人的に思い出すのは2000年7月のイタリア旅行。1ユーロは@97円台で旅行も買い物も随分安く済んだ(ドル円は@107円台)。その後リーマンショックの2008年にユーロ円は@169円台まで高騰したが、その時期にドイツ旅行をした知り合いはコストが高くて気の毒だった。
それではユーロ円がドル円と同じ価格になる可能性はあるのか?「損切丸」でも「ヨーロッパがおかしい」シリーズで指摘してきたが、それは即ちユーロドルが1ユーロ=1ドル、パリティ(Parity)になることを意味する。
過去にユーロドルがパリティ割れになったのは1999年のユーロ発行直後、2000年から2002年半ばまでの一時期しかなく、あまり記憶にない。それ以外では2016年の@1.06台が安値だが、これには十分な理由があった。トランプ大統領の登場とそれに伴うドイツの「貿易政策大転換」である。
「米国第一主義」を標榜したトランプ大統領は欧州にも為替で**ドル安圧力をかけてきた。そこでドイツは対米よりも対中貿易重視に転換。それまでアメリカが最大の貿易相手国だったが、2016年には貿易総額で1位中国 1,700億€が3位アメリカ 1,650億€を上回った(2位フランス 1,670億€)。
**「主要通貨ドル」を擁するアメリカが為替を人質にして貿易交渉を迫るのは常套手段。日本もドイツ同様何度も煮え湯を飲まされてきただけに「中国傾斜」戦略は判らないでもない。事実日本も中国向輸出を増やしてきた。ただ1点違ったのは安倍政権が日米同盟関係を強化してきた事だ。
その後「米中関税合戦」で米国優位の構図が出来上がるにつれ中国経済が減速。ドイツは苦境に立たされた。そこへ「コロナ危機」が世界を襲った。
慌てたのはアメリカだ。何せ株式時価総額+22兆ドルを誇る国。それは株価が下がれば一気に経済が暗転する事も意味し、アメリカ経済の「アキレス腱」でもある。経済が止まるパンデミックの衝撃は凄まじかった。
米政府、FRBはなりふり構わず5兆ドルにも及ぶ「フリー・ドル」(Free Dollar)をばらまいて株価下落阻止に動いた。結果「余ったドル」は様々な市場に溢れだし、ユーロドルも一旦は@1.11台までドル安が進んだ。
パンデミック対策に成功したドイツは一転「勝ち組」に回ったかと思いきや、事はそれほど単純ではなかった。今のユーロが「ジャブジャブに余ったドル」を更に上回って安くなっているのは一体どういうことなのか。
これは「中国との距離感」につきる。「コロナ後」ドイツ、アメリカを含む世界中の自由主義国家に突きつけられる大きな課題でもあるが、「安全保障コストの見直し」と言い換えても良い。
実際この10年余り、世界は「安価な商品」を求めて「世界の工場」として「中国傾斜」してきた。経済原理からすると間違った選択ではなかったのかもしれないが、今回の「コロナ危機」で中国が自由主義陣営とは全く違う思想の国である事に改めて気付かされた。
医療や基幹物資などの「必需品」を一国に頼ることの大きなリスク。
「マスク外交」がその典型だが、特にそれを「人質」に外交を展開する国ならなおさらである。「安全保障コスト」を考えると「中国傾斜」は決して「安い」とは言えない。多少値段が高くとも、より「安心できる国」へ購入先を分散させるのが正しい対処方となるだろう。
ドイツは難しい立場にある。自動車を売ろうにも「はい、それではアメリカに」とはなるまい。中国と距離を取ろうとすれば「自動車」を「人質」に取られる懸念も大きい。アメリカ向輸出を増やせなければ、対ドルでユーロ高にはなり得ないわけで、***そういう苦悩を「パリティ」に向かう今の「ユーロ安」相場は示している。
***折しも今日(5/7)トルコリラが1ドル=@7.20台となり対ドルで市場最安値を更新。鍵となるのが「アメリカとの距離感」だ。ブラジルレアルや南アフリカランド、アジアでは人民元に韓国ウォンが対ドルで安くなっている。アメリカはまさに中国を外した「ブロック経済」を目論んでおり、米国向輸出が減ればドルの確保は困難となり、自国通貨は対ドルで安くなる。
対照的に円高に向かう日本。アメリカ向輸出販路を確保している日本の円が高くなるのは整合的でもある。「値段は高いが高品質」ならドイツと日本が双璧だが、その点は「コロナ後」日本がより恩恵を被る可能性もある。何より安全保障上も安心だろう。
今回は「ドルが余っているからドル安」という単純な相場ではない。「コロナ後」対立が激化するであろうアメリカ、中国の2大国との距離感を各国がどうするのか、大きな選択を迫られる。中でもユーロが鍵を握るのは間違いなく、特にドイツは「中国傾斜」一辺倒とはいかなくなるだろう。
今後ユーロの為替相場が荒れそうである。
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