風が吹けば桶屋が儲かる

続・AI vs 生身の人間 - 「風が吹けば桶屋が儲かる」がAIの弱点?

 「風が吹くと土ぼこりがたって目に入り盲人が増える。 盲人は三味線で生計を立てようとするから、三味線の胴を張る猫の皮の需要が増える。 猫が減るとねずみが増え、ねずみが桶をかじるから桶屋がもうかって喜ぶ。」

 有名な「風が吹けば桶屋が儲かる」であるが、三味線のところなど論理の飛躍が凄い(笑)。AIに詳しい知人と話したときに、AIがどこまでできるのか聞いたことがあるが、定型的な学習機能は凄いが、こういった関係のなさそうなものを結びつけることまではまだ出来ないらしい。

 最近の「損切丸」でこれに近いのが、「JPモルガンのダイモンCEOがリブラを批判するとドル円が上がる」だろうか。論理の展開はこう。 ↓ 

 「ダイモンCEOがリブラは発行できない、と発言。リブラを阻止する即効薬はドルの金利が上昇することなので、自分達の仕事が奪われるのを恐れた銀行が揃って米債券を売る。その結果ドル金利が上昇し円との金利差が開いたため、ドル円は買われた。」

 これはあくまで「損切丸」オリジナルだが、それ程突飛な発想でもない(少なくとも三味線理論よりは普通(笑))。カオス理論やゲーム理論など曖昧なものについての研究も進んではいるようだが、一見ばらばらに見える材料を有機的に結びつける思考は、AIはまだ苦手のようだ。

 もしこのような「風→桶屋」理論のAIを開発しようとすれば、日々変化する材料の組み合わせや変数の更新が膨大になるだろう。これではプログラムの更新自体が大変で人が考えた方が早そうだ(笑)。人間の脳の働きの複雑さを考えれば、このあたりがAIの限界かもしれない。もっともある程度のファジープログラムの作成は可能だろうが、その成果の程は結局プログラマーのセンスによるところが大きい。依然「人の能力」は必要なのである。

 それでは市場取引でAIが力を発揮するのはどういった場面か。「チャート分析」などは有力ではないかと思う。↓ に「なだれ三羽ガラス」という有名な急落チャートを付してみる。単純に解説すると、暴落相場では、下落は一度では終わらず、二度目、三度目と下げがきつくなるというもので、三度目の下げの底値を拾え、などと言われている。

なだれ三羽ガラス

 筆者はチャートとは*「人の心理・生理」の動きを表した線図形であり、それを「統計学」で補完したもの、と考えている。

 例えは悪いが、お酒を飲んで気持ち悪くなった時、嘔吐 は1回では終わらない。大体3回ぐらいで終わるが、最初は我慢しようとするので2回目、3回目の戻しが酷くなる。市場取引も人がやる以上、同じ心理・生理の動きが現象として必ず出る。

 過去の急落相場のパターンデータを何千、何万とAIにインプットすれば、人より速く「なだれ三羽ガラス」を予期できるかもしれない。それこそ「機械的に」チャートだけで取引するトレーダーもいるが、AIプログラムの精度が高ければ、この分野では人を上回る売買益を上げることも可能だろう。

 それでは最近株などで流行っている「AI投信」はどうだろうか。基本は企業業績やPER(株価収益率。15倍以下だと割安、と言われている)などをインプットして売買いを判断するのだろうが、これには大きな疑義がある。

 まず企業業績は過去の一時点のデータに過ぎず、株価の売買材料として十分ではないこと。加えて株価は過去の実績値よりも「将来価値」で動く場合が多いこと。例えば突然の社長交代「粉飾決算」「社内の雰囲気」などの変数はどう処理するのか。これらを数値化してAIに入れ込むのは至難の技だ。アナログなやり方だが、実際にお店を見に行くとか、商品を精査するとか、社員の様子を探るとか、地道な作業が「将来価値」の算定には依然有効だと思う。(これらもAI化できたら、それはそれで凄いが...)

 つまりトレードにしても投資にしても「AI任せ」は危ない、と言うこと。AIは**「打ち出の小槌」ではない「相場はよくわからないから最新のAIにお任せ」という感覚なら「AI投信」などはやめておいた方が賢明だろう。短期的に上手くいくことはあっても、最終的には資産を減らす結果になる。もし「AI投信」に投資するなら、少なくともそのAIがどういうプログラムで動いているのか、随時確認しておく必要があると思う。

 **日本の銀行にいた時に、「オプションをやれば絶対に儲かる」と言ってきかない上司がいた。こういう人は盲信していて非常にたちが悪い。ドル円を直接スポット(2営業日後渡)で買っても、3か月のコールオプションを買っても実は同じなのに。餅に例えれば、丸餅を引き延ばして細長くしたようなもので、どちらも食べる量は一緒。形が変わっただけで本来価値は変わらない。マーケットに「絶対に儲かるもの」など「絶対に」存在しない。イギリス流の慣用句でいうと " Never Say Never " である。

 筆者はAI否定論者では決してない。投資やマーケットには非常に優れたツールだとさえ考えている。ただ、過去のデリバティブオプションがそうだったように、いつの時代も革新技術に盲従する傾向があるのは危険だ。

 まずは使いこなすこと

 うまく使えばきっと役に立つ道具になる。そのためには使う自分自身も Update していかなければ。(変化が速くてキツイ...ため息。)

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