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「円高」のマグマ

 5月経常収支(海外とのモノやサービスの取引・投資収益の状況):
 +2兆8,499億円(前年比+41.8%)16カ月連続黒字、5月として過去最大
第1次所得収支(利子や配当金の収支)+4兆2,111億円(同+13.0%) 単月で過去最高
貿易収支▼1兆1,089億円(輸出ー輸入、前年同月▼1兆1,998億円)
 輸出額8兆1,324億円(+12.1%)、輸入額▼9兆2,413億円(+9.3%)
サービス収支+23億円(同▼1,803億円)、旅行収支拡大などが寄与

 「貿易赤字」→「円安」→「貿易赤字」の "無限ループ" 。|損切丸 (note.com) で今の「円安」の根本要因を「貿易赤字」と指摘していた「損切丸」。だがこれには ”裏” ≓「経常黒字」がある

 最早日本は「輸出立国」ではなく完全に「投資立国」主要企業も銀行もGPIFも今や「第1次所得収支」(利子や配当金の収支)が「儲け」の根源。だから一般庶民が「円安」「インフレ」でヒィヒィ言っていても「日経平均」は上がるわけで、マーケットや投資家は冷徹かつ客観的に見ている

 これは200兆円にも上る「外貨準備」にも言える。利息や配当をドルやその他の外貨で受け取っている「投資」アカウントは実は「円安」でウハウハポイントはこれらの「儲け」を日本に還流させずアメリカ等に再投資している事。だから「貿易赤字」だけがクローズアップされて「円安」が続く

 現政権がずっと大企業の味方なのは周知の事実だが、財務省の意向としても「低金利」「円安」は "ウィンウィン" だった訳で、それ故「バズーカ」「異次元緩和」も続いてきた。だが舐めているとマーケットは怖ろしい

 前稿.米国経済本当は強い?弱い?Ⅴ ー 「ドル円」と「ビットコイン」の相似性|損切丸 (note.com) で経済同友会幹事が ”超円安” と指摘していると書いた。だが産業界でも「これ以上の円安は業績悪化要因」という声が大勢を占めており、「低金利」も変更を余儀なくされている

 「財政健全化至上主義」で金利を払いたくない財務省もさすがにこの動きには逆らえず「利上げ」を了承しつつあるようだが、そこは抜け目のない財務官僚。金利上昇で出て行く「お金」穴埋めの皮算用をしたたかに巡らしている。考えつきそうなのが「投資利益」の国内還流にかかる税制変更

 これまでは海外で「再投資」された「儲け」にかかる「税金」は他国に流れていたが、これを国内に還流させるための優遇税制などを考え始めるに違いない。「再投資」先が国内になれば税収は増える海外に比べ高い法人税の影響もあって海外に流れていた「お金」を還流させれば「円高」になりうる。恒常的に「第1次所得収支」+4兆円>「貿易収支」▼1兆円 ≓ +3兆円近くあるわけだから、一過性の「ドル売り介入」よりも「円高」効果が高い

 最近の政府・日銀、経済界の発言・動向に今の「ドル円」を重ね合わせると、そういう政策変更の ”気配” がプンプンする。こういうのはあくまで ”裏” で進めるのが常道であり、メディアは知っていても箝口令が敷かれ事前に一般庶民には届かない。出る時は既に事が終わった後。20年以上マーケットに携わってきて「あれはこういう事だったんだ」という経験が多々ある

 今の「円安」が異常値なのは筆者も同感だが、それだけ 生活が苦しいのは莫大な「インフレ税」を徴収されているから ー 「借金王」は誰?|損切丸 (note.com) で国民生活にも限界が来ている証拠だろう。税収自体が減っては元も子もない財務省もここら辺が潮時。この国の "リフォーム" に動き出した。小売、建築、運輸等中小零細企業の倒産が相次ぐのもその一環だ

 大きな問題として行く手を阻みそうなのが「人手不足」「人」が足りなければ工場を建てるなど国内に「再投資」できない。そこで倒産企業から流出した人員を充てればと考えている節があり、産業構造の再編成を図っているのだろう。「金利」を引き上げればいわゆる ”ゾンビ企業” の淘汰は進み、その分「大企業」に集約される。市井からは恨み節も流れるだろうが「人手不足」の今こそ踏み出すべきタイミング

 国のトップというものは一般市民とは違う次元で動いている。それはもちろん「お金」の事情に左右されるが、筆者の ”裏読み” が正しければ「円高・株高」の流れも有り得る。実際「円高」になっても「日経平均」が崩れない場面も見られるようになってきた。これは「お金」が国内に還流し始めた証拠でもあり「円高」のマグマと言っていいだろう

 こうなると気を付けなければいけないのがマーケットと「投資」「新NISA」も「第1次所得収支」の一部ではあるが、これまでのように「円安」メリットを享受できなくなる可能性もある。「金利差」をお題目とした「キャリートレード」はポジションが偏り過ぎている分リスクも大きい。元々「金利差」は「円安」の一部でしかない。その点を見誤らない事が肝要

 まあ政府・日銀も産業界も@130円を下回るような「円高」は望んではいまい。筆者も適正値を@130~135円と踏んでいるが、相場が振れ過ぎないように ”調整” してくるはず。とはいっても日銀の「利上げ」は市場の想定より早く進む可能性が高い一度始まればドンドン先、先と織り込んでくる動きはFRBの「利上げ」で見たはず@1.0~1.5%ヘの到達は思ったより早く達成されるだろう。付随して動くJGB(日本国債)やFX、株には注意が必要。当局は多過ぎる銀行の "淘汰" もある程度覚悟しているかもしれない


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