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上がり続ける中国の「実質金利」 ー 対照的に低下する欧米。

 9月の中国の消費者物価指数が年率@+1.70%と発表された。8月の@+2.40%からは▼0.70%下落しており、 ”見た目” の輸出や消費の回復の割には景気が本格的に反転上昇しているとは言い難い数値だ。

 これを受けて中国の「実質金利」は上昇。今日(10/15)時点で10年国債金利で図ると名目@3.23%「実質」は@1.15%になる。これはG7を含むいわゆる経済主要国では異例の高金利である。

実質金利G11(after CDS)@15Oct 20

 一方アメリカに目を向けるとCPIが着実にプラス圏で上昇を続け、9月の上昇率は@+1.40%。名目金利の上昇が緩やかに留まっている分、10年国債の「実質金利」@▼0.83%とマイナスゾーンに落ち込んでいる。中国との「実質金利」差は実に@▼1.98%に達している。

 名目で@+3%を超える国債は一部の「高金利通貨国」を除けば存在しないので、金利収入に飢えた投資家やトレーダーなら中国国債に飛びつきそう。実際買いに動いている向きも有り、USD/CNY@7.000を超えていた人民元安水準から一気に*@6.9000割れまで人民元高が進んでいる。

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 日本では毎週木曜日に財務省が「対外証券投資」という指標を発表しており、日本の投資家が一週間でいくら外債を買ったか(売ったか)わかる。多い時で+1兆円を超えたりするが、すぐに為替トレーダーが飛んできた「ドル円買いか!!」。残念ながら日本の銀行や生保はドル円のスポット取引ではなく為替直先FX FWD(フォワード)。スポットでドル円を買うと同時に3か月後、6か月後のドル円を売る取引ドル、円の金利差を反映、を使った、いわゆる「ヘッジ付外債」が主流。「だからドル円には中立ですよ」。何度説明してもつまらなそうに帰って行くのだった(笑)。

  ”ドル” が欲しくて金利を高めに誘導している部分もあるだろうから、中国人民銀行もさぞ満足かと思ったらさにあらず。突っ走る「人民元高」を見かねて「人民元安防止」の為に課していた FX FWD のコストを撤廃した。この辺は日本同様、通貨高が輸出利益を吹き飛ばしてしまうので悩ましい所。「儲け」が減っては元も子もない、ということだろう。

 そんな中、2019年に引き続き中国政府はドル建て国債をローンチするという。目標額は60億ドルで条件は以下の通り:

 (仮条件)3年  米国債+50BP、5年+60BP、10年+75BP、30年+110BP

 為替レートの調整ということもあるが、やはり「お金」、特に ”ドル” が足りないのだろう。外貨準備が3兆ドルもあるのに60億ドル調達する意義があるのか、と思えてしまうが、おそらくその殆どが既に「一路一体」AIIBを通じて戦略的に世界中にばらまかれており、不動産融資が増え続けている国内銀行にも一部流れていよう。今年の8~9月には日本国債を2.2兆円買い越し(3か月間としては過去最大)というから、運用の多様化も進んでいるのかもしれない。

 もう一つ特筆すべきはヨーロッパの景気鈍化が急であること。特にパンデミック第3波の悪化が深刻で、ロックダウンを強いられる主要都市が増えている。そのせいで欧州も名目、実質とも金利がずるずる下げており、株価もこのところの米株のラリーついていけていない。

 こちらも**「実質金利」がマイナス圏に落ち込む国が増えてしまっているが、救いは日本のように限界まで「量的緩和」を進めていないため、ドイツを中心に財政余力がまだあること

 **ギリシャが例外的に高い「実質金利」を維持しているように見えるが、こちらはいつ「信用リスク」に転嫁するかわからない面も有り、必ずしも ”おいしい運用” とまでは言い切れない。

 金利を扱うトレーダーや投資家にとっては、この「高金利」中国をどう扱うかは今年後半の重要テーマになりそうだ。年金等の長期投資家はより「政治リスク」を慎重に検討するだろうが、ファンド等 ”Fast Money” は買いに傾く可能性も高い。「米株一本足打法」からの脱却を考えるトレーダーも出てくるだろう。特に大統領選後は要注意

 かといっていつ没収されるかもしれない通貨や債券に投資するのはなかなか怖い。そういう国家体制である。まあ、それも「ブラックスワン」の一種と腹をくくれば手が出るのかもしれないが、臆病な「損切丸」にはちょっと手が出づらい。なにしろ情報が少なく国内の「資金繰り事情」が見通せない。e.g. 地方政府が中心となって手掛けている不動産関連投資の実態は?

 前稿の「銀座」ではないが、現地を訪れて調査ができればまだ良いが、彼の国ではそれも難しそうだ。「高金利」=「高リスク」という法則はここでも当てはまる。内情をよく知る人以外には「利食い」「損切り」の見極めが難しい。いずれにしろ ”Fast Money” の動向も含めマーケットの攪乱要因にはなりそうなので、今後は目が離せない。

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