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蘇る「逆イールド」「ベアフラット」。ー 今度こそ「本物」?

 米国債「イールドカーブ」の動きが激しい。通常中央銀行の「利上げ」「利下げ」前後に1~2年に渡ってトレンドが続くので、中長期的にポジションを保有することが多い。実際筆者も3年持ち続けたこともある。ただ、こんなに動くなら2種類の国債を取引する面倒な「イールドカーブ」取引より、単純に国債を売買する方がいいかもしれない(苦笑)。

 「スティープニング」=傾斜化。長期金利の上昇が短期金利を上回る状況
 「フラットニング」=平坦化。短期金利の上昇が長期金利を上回る状況

 典型的なのが「利上げ」開始局面で激しい短期金利の上昇で起きる「ベアフラット」。実際2021年末から3月ぐらいまではトレンドとして続き、かなり稼いだトレーダーも多い。

 これはAI時代の相場の特徴でもあるが、「ベアフラット」の ”流行” が行き過ぎて、結果「2~3年後には米経済は急減速で利下げ」という後付けの理由が必要な ”偽りの逆イールド” が出現。この1ヶ月は反動として「ブルスティープ」が起き「損切り」がマーケット荒らした。

 それが今回再度「ベアフラット」が復活。要因はFRBの「利上げ」積極化だが、前回との大きな違いは「利上げ」の到達点の高さ+2~3%と異常に低かった「利上げ」見通しが*+4~4.5%と大幅に上方修正された。米国債5ー10年は再度 「逆イールド」 になっているが、今度は ”本物” だ。

 *FF金利@4.0~4.5%というと思い出されるのが1994年にグリーンスパン議長が「利上げ」を始めた時の「中立金利」の議論。当時アメリカの潜在成長率は+3.5~4.0%から+3.0~3.5%に低下したと分析され、「中立金利」は@4.0~4.5%と見做された。結局金利は@4.5%まで引き上げ。ちなみに日本の潜在成長率は+1.0~1.5%と言われているので「中立金利」は@2.0~2.5%日米の金利差は2%程度が妥当なところ。

 今回は2021年初に「利上げ」対応が遅れ、不要な「インフレ」を引き起こしてしまった分、「利上げ」コストは高くなる。一時的にせよ、一旦+8.5%まで上がったCPIを潜在成長率(+3.0~3.5%)並みに戻すには+2~3%程度の「利上げ」では無理「損切丸」が ”偽りの逆イールド” と呼んでいたのはそのためで、これで ”常識” ラインに戻った。アメリカの潜在成長率は上がってないので、これで「中立金利」に戻る。

 アメリカの住宅ローン金利が@5%を超え、ようやく住宅バブルに歯止めが掛かるだろう。自動車なども同様だ。複利カーブ ↓ を見て貰うとわかるが、金利は5%を超えるあたりから急に ”効いてくる”「預金」する立場で考えればわかるが、100万円で年5万円も利息がついたらかなり嬉しい借りるのはその真逆になる。

 さてそうなると他の資産市場にどんな影響が出てくるか「株」が代表格だが、2022年初来ナスダックは既に▼15%程度調整している。

 「金利」としては@4%まで完全に織り込んでいるが、ここからはQT(量的引締)が "本丸" 「お金」の大移動が起きる可能性が高く、今は利の乗ったハイテク株を売ってグロース株主体のNYダウなどに避難しているようだが、それも難しくなるかもしれない。+8.5%のCPIがTIPS(物価連動債)↓ 並みの+3.0%程度に鈍化するには、ある程度の景気減速は不可避だ。NYダウで@30,000ドル割れがあっても驚かない。

 為替市場も同様で、QT開始と同時に「ドル争奪戦」が勃発する。既にトルコ、レバノン、アルゼンチン等、最近では加えてスリランカパキスタンにも問題が拡大してるが、状況はもっと過酷になるだろう。いつもの事だが、やはり「弱者」にしわ寄せが行く。最近拍車が掛かる「円安」を見ていると、日本は既に「弱者」入りしているのではないか、心配になる。

 そして「ドル争奪戦」の "本丸" は何と言っても巨大な ”灰色のサイ” 、中国だ。FRBの「利上げ」積極化の主目的は「インフレ」抑制だが、実は「対中戦略」も兼ねている。

 2020年6月の「香港安全維持法」以降、欧米資本は着々と「脱・中国」を進めてきた。そして今回の「利上げ」と共に「ドルの帰省」が本格化する。「借金過多」で「資金繰り」に苦しむ中国には結構なダメージになるだろう。不良債権や株価の下落などで本来「利下げ」に動きたいが、最悪「スタグフレーション」で「景気後退下の利上げ」が必要になるかもしれない。

 もっとも今の日本は「中国がくしゃみをすれば寝込んでしまう」ほど肩入れし過ぎているので、他国の事を言っている場合ではない。「円安」が発する市場のメッセージを謙虚に受け止め、それをビジネスチャンスとして生かすべく、中国の工場を日本に戻すなど今後の事態に上手く対応したい「エネルギー安全保障」然り。このままだと本当に「弱者」になってしまう。

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