マーケットが首相を辞任に追い込んだイギリスと未だ ”悪の地下組織” 扱いの日本。
イギリスのトラス首相が電撃的に辞任。わずか44日という「短命政権」だった。日本で思い起こされるのは女性問題で辞任したU首相だが、それでも69日。ちなみに日本の最短は54日だからそれより▼10日も短い。
今回強く印象に残ったのは、トラス首相がマーケットに追い込まれたこと。FXにおけるポンド下落もそうだが、何と言っても主役は英国債だ。
たった44日間で10年国債金利は@3.80~4.50%で何往復も動き、まさに "Crazy Sterling" 再び。- 英ポンド急落が示唆する「金利差相場」の嘘。|損切丸|note の大復活。いくら動いた方がいいといっても、これは動き過ぎ。「損切り」に次ぐ「損切り」で、こうなるとスターリング(ポンド)でポジションを持つこと自体が「リスク」になる。実際邦銀には「スターリング禁止令」が出ていた時期がある。
反面日本人として羨ましいのは、イギリスには「マーケットは国民の共有財産」という意識が根付いており、 "RESPECT" (尊重)が存在する。滅茶苦茶な変動を経ながらも、最後的には合理的価格に収斂する。それをコントロールできない首相は失格という訳だ。
「投機による過度な変動には断固たる対応を取る」
正直、筆者はこの「投機」という言葉が大嫌い。もともとは禅の仏教用語で「師弟の心機が投合すること」。だが、今は短期的な価格変動で儲けようとする ”マネーゲーム” 的解釈が強い。まるで「白いかぶり物をして地下で蠢く悪の組織」扱いである。だから今もこういうコメントが出てくる。
「FX」や「投資」で頑張っている人は実感しているだろうが、リスクを張るというのは極めてピュア(純粋)な行為だ。言い訳が必要ない分、結果には責任を負わなければならない。これだけ「円安」「円安」と騒いでいても、いざ「ドル円」を買うとなれば "覚悟" が必要。「円買い介入」も怖いし、突然黒田総裁が辞めるかもしれない。
アメリカやイギリスでは勇気を持ってリスクにチャレンジする人に対して "RESPECT" があり、それで儲かった人は賞賛されこそすれ、妬まれたりはしない。「投機」の英訳は ”Speculation” だが、こちらには「思索」「推測」の意味も含まれ、かなりニュアンスが違う。
この ”マーケット=ショッカー(悪の組織)” という発想の原点には「円高」で苦しんだ「昭和」が大きく影響している。確かに市場には短期的に相場を仕掛ける向きもいるし、今で言う「インサイダー情報」で不当に儲ける輩は存在する。バブル期なら「仕手筋」も悪名を轟かせた。差し詰め「円買い介入」は「越後屋」と結託する「悪代官」を懲らしめる「水戸黄門」といったところか(30代以下には判らないか。苦笑)。
だがもう時は「令和」。政府・財界のトップが未だに「昭和世代」なので抜けさせないのだろうが、これでは今の変化のスピードに対応できない。マーケット自体も「昭和」よりは洗練されてきており、本来利用価値は高い。
その観点から考えると77歳の総裁が主導する「国債・指値無制限買取オペ」は「昭和」そのもの。10年JGBを@0.25%で串刺しにし「黙って言うことを聞いておれ!」。ただこれは国債のほとんどが国内で保有されているから実行可能な "奇跡" 。「ドル円・指値無制限売りオペ」は不可能である。
「円買い原資は ”無限" 」(財務官)
「外準は1.2兆ドルじゃ...?」。そんなことは "日本のトップ" 財務官は判っている。これはアメリカとの「スワップ協定」を指しているのだろう。確かに「円」を差し出せば「ドル」を供給してくれる枠組みになっているので嘘ではない。だが実務として「円売りを止めたいのでドルを貸して下さい」とFRBに持ちかけても、こう言われるだろう:
「その前に利上げしたらどうですか?」
マーケットを "RESPECT" しているアメリカなら当然の要求。「円安」の主因が「円の過剰供給」にあるのだから、まずは「余った円の回収」が必須。それが*マーケットの声である。
現首相は1957年生まれで、丁度「団塊世代」(1947~1949)と筆者が属する「新人類世代」(1960年代)の間。我々の頃から「七三分け」をしなくなったが、その1つ前の世代はまだまだ「昭和」だ。だがマーケットはそんな事はお構いなしに凄いスピードで進む。
"昭和方式" の「国債・指値無制限買取オペ」を続ける限りJGBにはイールドカーブの "歪み" が残る ↓ 。今はAIプログラムで株、為替、通貨などの売買が瞬時に判断されるので、「円」の供給を続ければ続けるほど、適正値を求めて「円安」が続く可能性が高い。
「新人類世代」以降の政府役職者には、せひ一度投資銀行やヘッジファンドに出向いて「投資プログラム」を見てみる事をお勧めする。彼らは極めてまともで、地下組織で蠢いてもおらず "ショッカー" でもないことが確認できるだろう。「投機筋」などと突き放す前に、まずは現状を把握する事から始めるべきだ。
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