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それでも上がるNYダウ - 米失業率は戦後最悪の14.7%。

 「4月の米失業率14.7%。1982年11,12月の10.8%、リーマンショック後2009年10月の10.0%を上回って戦後最悪。米非農業部門雇用者数は前月比2,050万人減少(3月は87万人減)。」

 ヘッドラインだけ見ると歴史的にも凄い事が起きているのはわかる。ただもっと驚くべきはこれを目の当たりにしても上昇するNYダウだろう。

主要株価 08 May 20

 メディアの配信を見ると「雇用統計の数値が予想を上回った」からだそうだ。まあエコノミストもそう説明するしかないのかもしれないが典型的な「後講釈」である。意地悪くいえば、数値が予想を下回っても株価は上昇し、その時は「悪材料出尽くし」とでもいうのだろう

 そもそも経済では1929年の「世界恐慌」パンデミックとしては1918年の「スペイン風邪」しか比較対象がないという未曾有の事態だ。未だに感染処理の対応に追われている状況下、経済指標の予測などにあまり意味はない

 直近3/23の安値から30%以上反発しているNYダウだが、これが経済の回復期待を反映しているとはとても言えない。それは米国債市場の動きを見れば明らかだ。3/23~5/8の金利はほとんど変化していない(むしろ低下)

$  FF- 2- 5- 10yr  08 May 2020(グラフ)

 それではNYダウ上昇の原動力は何か。主役は米政府、FRBがばらまいた5兆ドル余りの「過剰流動性」だ。動きの少ない米国債市場を見れば、他の主要市場として向かった先は米国の株式市場ということになる。

 他の金利関連市場で見ると、ベーシス市場為替スワップ市場で急激な変化が起きた。FRBが5カ国+9カ国向に行ったUSD Liquidity Swap Operationの結果推移を見ると面白い事がわかる。

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 ここでは「84日物オペ」を取り上げたが、シンガポール、韓国、メキシコ向の金利に注目して欲しい。4月の始めに供給が開始された時は、当時の為替スワップの実勢レートを反映した@0.90~1.08%だったが、現在では日銀向けの低いレート(OIS+25BP=@0.32%)とほぼ同じ金利にまで低下している。3月にはECB向け7日間でも@1.24%、@1.58%と高止まりしていたドル金利を考えれば、いかに市場でドルが余ったかは明白だ。

 更に株式市場にはAIやHFT(高頻度取引)などの強力な援軍がいる。*「彼ら」は100万円の買いを「秒速の信用創造」で10億円、100億円に増幅する。人間の力だけで売り向かうのはほぼ不可能だろう。

 *AIやHFTが買い相場にしか機能しない理屈をここでもう一度説明しておこう。「彼ら」は基本的に「実需の先回り」をする事で利益を上げる買い相場の時はしっかり「利食いの売り」が出るため「回転」が効く。ところが売り相場で「損切り」が横行すると、巻き込まれるのを恐れる投資家はなかなか買い注文を出さなくなる。これではいかにプログラムが高性能でも「回転」は効かない。まるで道に迷った時に黙ってしまうナビだ。現状では「買い相場」だけが増幅されるいびつな株式市場になってしまっている。

 おそらくWTI(6月限)が24ドル台まで回復した原油相場も恩恵を受けている。しかし「過剰流動性」では解決できないものが3つある:「パンデミック」「デフォルト」「現物の需給」だ。

 まずお金でウイルスの感染は防げない。またお金がいくら余っても潰れるところは潰れるし、途中どれだけ値が上がっても最後に余るものは余る

 これだけドルが余っているのに倒産する企業は相次いでいるし、国家でさえトルコの通貨リラは対ドルで市場最安値を更新。WTIの5月限がマイナスになったのも記憶に新しい。つまり最後は実体経済に着地するはず

 ただ、ファンドを始め投資銀行業界はマーケットが動かなければ商売にならないので、理由はどうあれNYダウが上がるのはむしろ歓迎だろう。株も上がり始めればついていかざるを得ず、それが相場をますます増幅させる。これらの動きをうまく利用できれば良いが、この局面「Zero Sum Game」である事を忘れてはいけない。誰かが儲かった必ず誰かが損をする「パンデミック」ではないが「自分だけは大丈夫」は厳に慎むべきだろう。

 短期のトレードに挑む方に老婆心ながら。「ドル余り」には終わりの兆しも見えている。FRBのオペ金利低下に見られるように、金利裁定取引が進んだ結果市場でドルプレミアムが解消、ドルLIBOR(London InterBank Offered Rate、銀行間金利金利の代表的指標)も下げ止まってきた。これらは市場で「ドル余り」効果が一巡した事を示唆するので、お金が尽きて突然株価が急落、のような事態にも心構えが必要かもしれない。ご用心を。

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