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“ウッドショック”  ー 「インフレ」の縮図。

 最近 “ウッドショック” というヘッドラインを良く目にするようになった。読ませてもらった記事の内容をかいつまむと、国際的に木材の価格が高騰しているという。外国産木材が高くなり、輸入量も減って ↓ 品薄になっているため木材価格が3割ほど上昇

木材輸入額

 *例えば「シカゴ木材先物」を見ると、2020/4/1は@$259.80(終値)だったのが、1年経って2021/4/23には@$1,372.50まで上昇。ざっと5倍だ。

 当然日本も蚊帳の外というわけにはいかない。住宅木材の7割を海外に頼ってきたため、国産木材の価格は2021年に入って上昇。1/10に@7,260円だったスギ材(3メートル材、@多摩木材センター)が、4/9には@1万1,825円と1.5倍以上に。4月上旬と比べ3割近く値上がりした木材もあるが、輸入木材が品薄のため高価格でも引き合いが殺到している。

 背景の1つとしてコロナ危機によるライフスタイルの変化がある。国内外で注文住宅の需要が増え、某国内建築メーカーでは顧客数が去年に比べ1.5倍に増えたという。

 実は “ウッドショック” は今回が初めてではない。今から約30年前、1992~1993年にアメリカマレーシアの天然林の過剰伐採が問題となり、抑制策によって木材価格が高騰した。当時も丸太の恒常的な供給不足が心配されたが、その後OSBMDFLVLなどの代替品が開発され需給バランスの不均衡は解消された。

 しかし今回は楽観できない**30年前と比べて中国の台頭など世界経済は段違いに大きくなっており、供給に比して需要が増大しているからだ。

 **その影響は貿易におけるコンテナ不足にも見て取れる。コロナ危機からいち早く脱した中国の生産活動が再開するに連れ、中国から欧米向の貨物が急増欧米でコンテナが滞留した結果、アジアではコンテナ不足によるコスト上昇が顕著であるという。当然価格に上乗せになる。

 手前味噌で恐縮だが、筆者が10年前に木造で自宅を建てた時は某有名ハウスメーカーで@70万円/坪で注文できた。当時は「高いなあ」と感じたが、値段はあれよあれよいう間に上がり、3年ぐらい前に同じメーカーに確認したら「今は@100万円/坪では建たない」と言われた。そして今回の “ウッドショック” 。これから頼むと@120~130万円/坪ぐらいにはなるだろう。10年でほぼ倍年率@+10%)になった計算...。建てておいて良かった。

 木造戸建てが駄目となれば、当然鉄筋、あるいはマンション、それも価格が安めの中古物件、と循環物色が起きる。このループは当面収まりそうにない。これは世界的な「需給の問題」なので給料が上がらないとか、緊急事態で景気が落ち込んだとかの要因に左右され難い面もある。

  “ウッドショック” は「インフレ」の縮図ともいうべき事象だが、同じような状況が顕著だったのが半導体。自動車業界では生産停止にまで事態が悪化したが、例えば政府の補助金等があって動き出した電気自動車(EV)についても、蓄電池に使用されるレアメタルの価格が急騰している ↓  

EV金属価格

 これもグリーン政策ESGレアメタルの供給が追いついていない実例であり、それにコロナ危機による "需給構造の大転換" が加わっている。

 筆者は有名なエコノミストや大学教授のようにマルクスとかケインズとか経済学の王道を歩いてきた訳ではないので偉そうな事は言えないが、銀行の資金繰りを見てきた立場でわかる事が1つある -

 「貨幣経済」下で「値段」は ”物” と "お金" の需給で決まる

 物” の「値段」は「法定通貨」を基準に決めているのだから、***市中に出回る "お金" が増えれば、相対的に "お金" の価値は下がり物” の価値は上がる。今は国家が3京円近く借金をして大量の "お金" をマーケットに流し込んでいる訳だから、シンプルに考えれば当然の帰結だ。これは難しい経済学でも何でも無い。

 ***1つ指摘しておきたいのは日銀による「量的緩和」購入対象をJGB(日本国債)に集中させたため、 "お金" は日銀、財務省、銀行の間をグルグル回るだけで市中には出回らなかった。だから日本では物価が上がらなかった。むしろ "金余り" に困った本邦金融機関がドルを中心に700兆円もの外債を買ったために、恩恵のほとんどは米国へETF購入は株価を押し上げたが歪みも大きくなって問題化している。日本人としては何ともやりきれない結果である。

 それを先取りして動いていたのが株価であり暗号資産なのだろう。「現実主義」の金利市場は今これらを ”ゆっくり” 後追いし始めている。経済の現場で住宅が+20~30%値上がりしているのに、この1年の米国債金利の上昇幅はせいぜい+1%強。これは取りも直さずまだ "お金" が余っている証拠であり、金利上昇は道半ばと考えていい。

 よくビットコイン「バブル」と指摘する向きもあるが、金利従事者に言わせれば国債や金利市場の方が「過剰流動性」による「バブル」だったわけで、今はその "崩壊" の最中という事になる(苦笑)。

 では「金利の正常化」が終わる「均衡点」はどこになるのか ー 10年米国債の@3%を一応の目処としているが、何せ前例がない巨額の ”借金” だ。正確なところは誰にもわからない。1つ言えるのは「金利」が「均衡点」に達した時、株や不動産、暗号資産等の他の資産市場から金利市場へ「お金」の逆流が始まる。世の中一般にはこれを「バブルの崩壊」という。

 「本物の危機」の時、金利は上昇する。(2020.3.19稿 ↓ )

 金利水準だけ見れば「崩壊」とか「危機」にはまだ程遠い「危機」はいつ具現化するかわからないが、とにかく「金利」が1つのベンチマークになるのは間違いない。3か月後か2年後か - 今しばらくは辛抱して "お付き合い" 願いたい。

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