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実は「正常化」が進む「日銀バランスシート」ー 鍵は「売現先」

 3月の「マイナス金利解除」@0.077~0.078%まで上がったTONAR(無担保コールO/N金利)それまでは市場残高が20兆円近くで ”張り詰めていた” 国内コール市場も調達圧力が減じて11~12兆円台に落ち着いている(  標題添付グラフ)。まあ手術後の休養みたいなものだろう

 さてそれから3ヶ月経つが手術はこれで終わりではない

 「損切丸」では「日銀バランスシート」を逐次チェックしているが、最近 "大きな変化" に気が付いた。「売現先」の急増である。いつの間にか▼30兆円近くまで膨らんでおり、筆者の手元記録では2022年6月以来の高水準

 ここで日銀の資産・負債各項目の ”意味合い” をお復習いしておく

 <資産>
 「国債」=日銀の国債買入残高
 「株・ETF」=日銀の株・ETFの買入残高
 「貸出」=日銀から市中銀行への据置担保範囲内の貸出残高。近年では「コロナ危機」対策の「ゼロゼロ融資」e.g., 151.5兆円@2022/3も含む

 <負債>
 「日銀銀行券」=市中に出回っている日銀券(含.硬貨)=「お金」の額。いわゆる「タンス預金」も含まれる
 「当座預金」=銀行が日銀の当座預金に預けている余剰金
 「売現先」=日銀が保有するJGBを市場に貸し出して(JGBレポ)担保金として「お金」を吸収する
 「政府預金」
=政府が日銀当座預金に預けている余剰金。時宜に応じて「短期国債」を前倒し発行して日銀の資金繰りを支援 e.g., 71兆円@2021/2

 特に「コロナ危機」時には「ゼロゼロ融資」が国策として実行され「貸出」ピークは150兆円超え。そのための「資金繰り」支援もあって財務省が短国を前倒し発行する等日銀と協力してきた。「ゼロゼロ融資」終了で2022年9月には80兆円台まで急減したが再び100兆円越え中小企業の「資金繰り」苦を伺わせたが、その後倒産・破綻が相次ぎ一巡感は出てきた

 ジワジワと減る「日銀券残高」は「インフレ」で「タンス預金」の支出を余儀なくされている家計も反映。それは「当座預金」も一緒だ

 ただ "変化" としては今まで「政府預金」≓短国の前倒し発行に依拠してきたのを市場公開操作(オペ)である「売現先」に移行している

 日銀の狙いは何か

 これは正副総裁が述べていたが「普通」の金融政策に戻すという事だろう。「政府預金」≓ 短国の前倒し発行はあくまで危機時の異例措置「売現先」で国債を市場に出せば足りないJGBが補われ市場機能・流動性を回復する効果も見込める。やっと「普通」の金融政策 ≓ マーケットとのやり取りに回帰するということであり、これは良い "変化"


 今後「売現先」が50兆、60兆円と増えてくればTONARにも上昇圧力がかかり、日銀も市場参加者としての役割を果たすことになる

 「売現先」には「資金繰り」見込も関係してくる。要因は3つ 

 ①国債買入の減額( ↓ 表)
 来週の政策決定会合に向けて今最も注目なのがこれ。「売現先」▼30兆円≓国債買入減額(年間)の「資金繰り」調整の一環とも読める

 ②「貸出」の漸減
 「ゼロゼロ融資」回収で政府も "潰すものは潰す” に舵を切った。ただ選挙も控え一気に数兆円も減ることはないだろう

 ③「株・ETF」の売却
 資産には簿価ベースで37兆円計上されているが時価では70兆円を超えている。仮に将来「利食い」に動いた場合、+30兆円「資金繰り」に寄与する

 これらの動きを追っていると日銀も「正常化」≓「普通」の金融政策 ≓ マーケットとのやり取り回帰に向けて着々と準備を進めていることが判る。ただ怖いのは "緩み”6日にも▼0.25%「利下げ」を "予定" しているECBFRBの「利下げ」見通しが前倒しされて「円安」が収まった場合、「本当は利上げしたくない」本音がぶり返す怖れがある。その点はJGB要注視

 実際 2021年に 「お先に!」 ー 着々と進む日銀による「ステルス・テーパリング」。|損切丸 (note.com) と動き出した日銀は、前総裁による「国債無制限指値オペ」の強制発動で滅茶苦茶にされた "前科" がある

 結果、「円、どんどん売ります!」の免罪符。ー 世界的な「真性インフレ」下、「金融緩和」しているのはトルコと日本だけ。|損切丸 (note.com) のせいで▼10円以上「円安」に飛んで今があるわけだが、まあ現執行部は大分入れ替わっているのでそんな "悪夢" は2度となかろう(と願いたい)。副総裁が「今度こそ違う」と漏らしたのにはそういう背景もある

 今回のドル円急落で「キャリートレード」勢もどうするか思案中だろう。ECBに雇用統計、そして日銀政策決定会合と続く6月はなかなかの材料揃い。今後のトレンドを決定付ける月になる可能性もあり見逃せない。副総裁ではないが筆者も日銀については「今度こそ違う」と信じたい


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