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「流れ」と「需給」と「偏り」- AIと相場の相性

 筆者は理系でもないのでコンピューターや高等数学には疎い。仕事柄「クォンツ」など理論派の掲げる投資システムに触れることもあったが、はっきり言ってチンプンカンプン(苦笑)。Java、C++Pythonプログラミング言語など知る由もないが、基本「0」と「1」の組み合わせでそれをどんどん細分化していくことで複雑な算式が成り立っていると理解している

 相場も基本「買い」と「売り」しかない。だから一見AI等のコンピュータープログラミングと相性がいいようにも見える。実際優れたAIプログラムで好成績を上げているファンドもあるし、あながち間違いではないのだろう

 では何が「投資」の優劣を分けるのか

 これは「投資」に限らずどんなプログラムもそうだろうが、設計者のセンスが物をいう。同じ言語で書いているのにゲームでも爆発的に売れるソフトと見向きもされないものがある。マーケットも同じ。要は「0」と「1」をどう並べていくか

 筆者が考えるポイントは3つ:

 1.「流れ」

 「相場」は究極「多数決」で決まる。理屈はどうあれ、8人買っているところに2人で売り向かっても勝ち目はない。 CTA( Commodity Trading Advisor)ファンドが典型だが、今も昔もいわゆる ”トレンドフォロー型” は存在する。欧米流に言えば "Trend is Friend" 。今ならWTI(NY原油先物)等の商品市場やビットコイン(BTC)などの暗号資産がそうだが、市場規模が小さく値動きが軽いマーケットに有効とされてきた

 それが最近ではHFT(High Frequency Trading、高頻度取引)の普及で株やFXなどのメジャー市場にも進出「相場」が一気に動くようになってきた。こうなると「人」は追いつけない。今のドル円日経平均ナスダックなどを見ているとそんな感じを強く持つ。とにかく凄まじいスピードで売買がなされ「流れ」は加速度的に増幅する

 2.「需給」

  では「流れ」だけに身を任せればいいかというとそんなに単純でもない「相場」には「需給」が大きく関わる*「市場流動性」が「有限」だからだ。言い換えれば投入される「お金」の額、あるいは投資家の人数。これは「無限」ではない。だからチャートにすると山のような形になる

 例えとしては筆者の好きな漫画「カイジ」に出てくる「限定じゃんけん」が面白い。ただじゃんけんするだけなら偶然性が支配的だが「グー」「チョキ」「パー」の数が限られていて持っているカードが1回しか使えないとなるとゲームの質が激変する。それぞれがどれだけ使われたかを丹念に追った者が勝利する確率が高まるため、色々な思惑が錯綜する。麻雀のプロが捨て配を見つめて136牌のうちどれが生きているのか見極めようとする手法に似ている。これをプログラミングしたら面白そうではある

 例えば「流れ」で最初は「買い」に押されてたとしても、どこかの時点で「買い」が飽和すればマーケットには「売りたい人」ばかりになるチャートで言えばオシレーター等々、いわゆる「買われ過ぎ」「売られ過ぎ」の判断になるが、これがAIやHFTの登場で時間軸がずれてきている常にアップデートが必要でかつての常識に囚われていると読みが外れる

 ちなみに直近の「対外対内証券投資」↓ を見ると「新NISA」騒ぎにも関わらず意外にも国内、国外ともに日本人が株を売っていることがわかる。特に日経平均の上げは1月に入って+2兆円近く買ってる非居住者=海外投資家主導日本人は塩漬けになっていた株などの「やれやれ売り」が多く "プログラマー泣かせ" かもしれない(苦笑)

 3.「偏り」

 これは「需給」とも関係しているが、より心理的要素を加えたもの。「人」はそれぞれ「こうしたい」という感情が強く働くので理屈通り動かないことが多い。例えば株が予想に反して下落したが業績が好調なので「損切りしたくない」向こう見ずに「ナンピン買い」したが更に下落。こういう心理的な ”あや” は単純に「0」と「1」でプログラムできない部分もある。その後病気になって急に「お金」が必要で売った所が底、なんて事はよくある話で、その後も心の「偏り」は解消されなくなる

 いっそのことチャートAIに完全に身を任せて売買できればいいのだが「人」はそこまで割り切れない生き物。必ず「偏り」が出る。特に「お金」がかかれば平静を保てなくなる。「億り人」なんて言葉が流行るのは「儲かった人が羨ましい」という感情から発露される「偏り」であり、本来「相場」には関係ない。だがこれが「相場」「流れ」を動かすのも事実だ

 HFTが開発された当初は各社がシステム開発で凌ぎを削り、株式市場などでは一時「お金を生み出す玉手箱」的な扱いを受けた(「オプション」もそうだった)。だがその後競争は過熱しだんだん儲けが減ってくると、最後は「どれだけ東証の端末に近いか」なんて "超アナログ" な争いになった

 筆者が退職して7年、ずっと「相場」を見つめてきたがどんどん「質」が変化している。おそらく熾烈なプログラムの「アップデート」競争が繰り広げられているのだろう。そういう点では「金融政策」も「介入」も効きにくくなっており、タイミングもかなり難しい

 一つ不変なのは「ゼロサムの原理」「人」が手掛けようがAIが売買しようが「誰かの得は誰かの損」。今ならプログラマーのセンスが問われるわけで、「損切丸」的に言えば「利上げ」「利下げ」などの変数に加え ↑ 「流れ」「需給」「偏り」をどう反映させるか。それも絶え間ないアップデートが必要で、それは我々自身もそう。凄い時代になったものだ

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