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「利上げ局面」の「金利市場」 ー 「キャリー収益」と「MTM」(時価評価)のせめぎ合い。

 注目のFOMCを通過してどう動くか注目された米国債市場

  " Sell the Rumour, Buy the Fact " (噂で売って事実で買え)

 格言通り欧米とも国債市場は買い戻しが先行し、一気に金利は低下

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 ほんの2年前まで「金利は死んだ」と言われていたので、金利があまりに上下して面食らっている人も多いかもしれない。だが金利の絶対水準が上がれば、このぐらいのボラティリティー( Volatility、変動率)は当たり前

 特に「利上げ局面」は「金利」のボラティリティーが最も上がる。鍵は 「キャリー収益」と「MTM」(Mark-to-Market、時価評価)だ。

 ここで現在の米国債金利を参照しながら少し専門的な説明をしておこう。

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 銀行業の基礎収益をなしているのが「長短金利差」を利用した「キャリー取引」。例えば今の米国債なら「10年@1.53%を買ってFF@0.07%で調達」をする。銀行の信用力を用いてこの取引を1,000億円手掛ければ:

 1,000億円 ×(10年@1.53%-FF@0.07%)÷ 360 ≓ +4百万円/1日 年間収益見込 +14.6億円

 *ドルは1年360日として金利を計算する(国内の日本円は365日)。ちなみに2019年11月8日 ↑ のようにFFー10年の金利差がが縮小(@1.92%-@1.50%=@0.42%)していると「キャリー収益」は少なくなる

 これは「アクルーアル会計」(Accrual)と言って、日々の金利差収入を計上するやり方。債券やマネーマーケットトレーダーが収益を見込む考え方の基本になる。一見誰にでも出来そうな取引に見えるが、当然ここには ”罠” が存在する。それが顕著になるのが「利上げ局面」である。

 この計算では「お金」の調達レートをFF@0.07%と見込んでいるが「利上げ局面」では当てはまらない。今後「利上げ」が進めば調達金利は@0.25%→@0.50%→@0.75%~とどんどん上がり「キャリー収益」は減る。それどころか仮にFFが@2.0%になれば、今度は毎日▼1.3百万円損失が生じる。筆者も経験があるが「毎日毎日 ”損” 」というの結構へこむ(苦笑)。

 そしてもう一つの鍵が ”MTM" (時価評価)。 の例で、1年後政策金利が@2.0%になってしまい「キャリー損失」が嫌だからといって保有する10年国債を売ろうとする。ところがその時残存期間9年の国債の取引値は@2.5%になっており、そこで売ると:

 1,000億円 ×(買値@1.53%-売値@2.50%) × 9年 ≓ ▼87億円

 日々の「キャリー収益」など吹っ飛ばす程の損が出てしまう。これが「金利上昇局面」の難しさ。だからプロは「利上げ局面」では ↓ のようなシミュレーションを組んで、より精緻な収益見込を確立しようとする。

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 逆に今回FOMC後の会見でパウエル議長「今は "利上げ" を検討する段階にない」というような発言をすれば、市場が "完全に" 織り込んでいた「2022年に@+0.25%×2回=@0.50%の利上げ」は崩れ、金利は一気に低下する。象徴的だったのは、一時「来年3回利上げ」を織り込んで@0.56%まで上昇していた2年債が一気に@0.42%まで低下したこと。 ”米2年国債@0.40%台は買い” と判断していた「損切丸」としてはほっと一息(苦笑)。

 更に「資金繰り」の観点から言うと、「お金」を調達する銀行にとって「利上げ局面」はかなりキツい

 例えばO/N(今日~翌営業日まで1日)が@0.07%1年物が@0.50%だとする。目の前の「アクルーアル収益」だけ考えれば "安い" @0.07%を取り続けたい。だが1年間の加重平均金利が@0.80%になると判断すれば、本当は1年@0.50%を取った方が "安い" 。そこで1年物@0.50%を大量に調達すれば、今度は余ったO/Nを@0.07%で運用しなければならず、**1,000億円で毎日▼1.2百万円の「キャリー損失」が出てしまう。

 **人間というものは「自分に甘く」出来ているので、「利」がある取引は簡単にできても、わざわざ「損」をする取引には手が出ない1年トータルでは「得」と判っていても、明日から「損」が出る取引を決断するのはかなり ”勇気” がいる。特に ”上司” に理解がないと踏み切れないものだ。

 更に難しいのは、今後「金利が上がる」となれば「お金」を持っている方は長い期間の運用を控えること。マネーマーケットなら3ヶ月以上の「出し手」を見つけるのはかなり困難になり、仮に1年@0.50%が "安い" と判断しても実際の「出し手」を見つけるのは ”至難の業” 。これが***短期資金トレーダーが「利上げ」を忌避する最大の要因である。

 ***もう一つ手掛け難いのが、反対に「利下げ」が見込まれる「逆イールド」(英語:Inversion Curve)。O/Nが@1.0%で1年が@0.50%のような金利体系になり、これも「キャリーコスト」をコントロールしながらの取引を迫られる。もっとも「市場流動性」の点では「利下げ」は "量" を増やす方向なので、「利上げ局面」ほどの "苦しみ" はない

 今後「金利」は上がったり下がったりが激しさを増すので、為替や株も振り回される局面が増えるだろう。だがこういう「利上げ局面」の特性も頭に入れつつ、少し冷静に相場を判断した方が良い。気をつけよう😃。

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