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クレジット・クランチ(Credit Crunch、信用収縮)は「第三段階」へ -「淘汰」の過程に突入。

 矢継ぎ早に繰り出されるFRB、ECBなどの「緊急措置」により金利市場、特に国債市場に変化が見られた。再び金利が下がり始めている

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実質金利G8(after CDS)@21Mar20

 これは一体何を意味するのか?「本物の危機」の時、金利は上昇する。 (3/19稿)と書いていたから、危機は去ったのか? いや、そうではない。

 「損切丸」クレジット・クランチ(Credit Crunch、信用収縮)が「第三段階」に入ってきたと見ている。どういうことか。

 相次ぐ各国政府、中央銀行の措置により「現金化」のための時間的猶予が与えられ、国債や金など売れるものは一旦売り切った状態。全体でみると「過剰にお金が余った状態」に達しており、その一部が米国債等の優良資産に回帰している。

 しかし視点を変えて別の指標を見ると違った光景が広がる。銀行間金利の指標であるLIBOR(London InterBank Offered Rate)の3か月物ドルの動き

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 FRBが▼1.00%の利下げを敢行したのが3/16。しかしその後3か月のドルLIBORは逆に@0.88938% → @1.19513%(3/19)と+30BP以上上昇している。つまりドル金利は下がってなどいないのだLIBOR「最優良銀行」向けのレートなので、それ以下の銀行のドル調達コストはもっと高くなる。

 FRBがドル流動性供給に使った「通貨スワップ」は最も調達力が弱い銀行や企業が主にドルを調達する時に使う手法実際のドル3か月の調達コストは、このLIBORに+10~+数十BP(銀行や通貨によっては+数百BPも)上乗せされたレートになる。おそらく3か月で@1.50%は下回らない。

 実際リーマンショックの時は大手も含めた銀行は、このドルの上乗せ金利で苦しんだ(含.「損切丸」)。それでもお金が取れるうちはまだ良い。お金の出し手が「元金が返ってこないかも」と思ってしまったら、全く調達できなくなってしまう。そうなれば数十BPの上乗せなど問題ではなくなる。

 詳しく見てはいないが、おそらく社債市場などでは低格付けの債券は売り込まれて**金利が急上昇しているはず。航空会社でもANAが5,000人のCAに一時帰休(おそらく無給)を要請するなど「緊急対策」が表面化しており、「デフォルト」の噂なども市場で急速に増えてきている。

 **このところ急落しているJ-REITもその一つだろう。2019年には一本調子で買われJ-REIT指数は利回りで@4%割れ寸前までいったが、今や@6.0%超え。オフィスビル中心のファンドも多く、「今回テレワークが増えてオフィス需要が減るから」という解説もあるが...。まあ、大体相場が下がる時は「後付けの理屈」がついて回るものではある。

 最も端的にその状況を反映しているのが株式市場だろう。今回の株売・国債買は以前のような「シーソーゲーム」ではなくもっと「リアル」だ。

主要株価 20 Mar 20

 つまり「危ないところ」にはどんどんお金がいかなくなってきている。使用量が激減して急落している原油などもその一つであり、中東、ロシアなど産油国の財政を危機に陥れようとしている。当然エネルギー関連の株価には強烈な売り圧力がかかるし、飛行機が飛ばなくなった航空産業しかりだ。

 FRBECB日銀はこの辺の事情を熟知しているので、なるべく広くお金が行き渡るように「過剰に」資金供給する。だがそれでも「危ないところ」にお金は回らないLIBORの上昇等を見ると***「淘汰の過程」が始まったと見てよいだろう。この状態が続けば力尽きて破綻する企業(あるいは国家)が次々出てくる懸念がある。

 ***「危ないところ」には「国債」などという優良資産は残っておらず、大抵「低格付け債」など売りたくても売れない「危ない資産」ばかりが残っているのが常。「資金繰り」は苦しくなる一方だ。こうなるといくら中央銀行や政府が「過剰に」お金を出しても効果は及ばない

 さらに言えば、リーマンショック後この「過剰流動性」を放置したことが今回の危機の遠因にもなっている。きちんと利上げしたのはFRBだけだ。様々な要因が絡むECBでさえ量的緩和は減額していたが、その間一度も金融を引締めずむしろ緩和策を強化してきた日銀の責任は重い。意図的に法定通貨の減価を目論んでいたのは明白だが、まさかこんな形で市場からしっぺ返しを食らうとは(パンデミックを想定できなかった筆者自身も反省...)。

 ここで日米とも「ベーシック・インカム」よろしく数万円のお金を各家庭にばらまくと言う。ある程度やむを得ない措置とはいえ「法定通貨」は大丈夫か?「スタグフレーション」(合成語:Stagflationstagnation(停滞)+inflation。不況と物価上昇が併存する状態)だけは勘弁してほしい。日本やアメリカまでベネズエラのようになるのは考えるだけで恐ろしい。

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