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実は上がり続けている「米国債金利」 ー「先々金利」とイールドカーブからの考察。

 「米国債の金利、上がり続けてるなあ」

 米国債に関して筆者の正直な感想。少し奇異に感じる読者の方もいるかもしれない。例えば "10年米国債金利は一時の@1.64%から今日(3/15)は@1.59%まで下がってるじゃないか-" 。それはその通りなのだが、金利従事者には少し違った風景が見えている。

  ↓ イールドカーブグラフをご覧頂きたい。標題添付の「米国債金利推移表」(時系列201911/~2021/3)をチャート図にしたものである。

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 注:5yr - 5yr というのは「先々金利」の一種で、米国債のイールドカーブから「5年先の5年債金利」を計算した値(複利を考慮しない単純計算)。

 例えば2019/11/8の米国債金利は:

 政策金利=FFレート(Fed Fund Rate)@1.50%

 10年債@1.92% -5年債@1.73% = 金利差 0.19%

 5yr - 5yr @2.11%=FFレート+0.61%

 ところがそこから「コロナ危機」を経て1年4か月後の2021/3/15には:

 政策金利=FFレート@0.00%

 10年債@1.59% -5年債@0.82% = 金利差 0.77

 5yr - 5yr @2.36% = FFレート+2.36%

 と状況が激変している。図としてイールドカーブの形状を見て頂ければその変化は一目瞭然だ。これを「金利が上がっている」と感じている。

 別の分析でも同じような答えが出てくる。10年までの金利を①1~2年(2年間、2年債金利を適用、②3~5年(3年間)、③6~7年(2年間、②の金利を適用)、④8~10年(3年間)に分割してみる(注:複利を考慮しない)。

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 何を見ているかというと政策金利の予想到達点5yr - 5yr @2.36% から割り出した④8~10年の金利は@3.09%と3%を超えている。ここで出てくるのが「中立金利」の議論だ。

 筆者の現役時代、アメリカの潜在成長率は@3%と言われていたが、その後中国の台頭やグローバリゼーションの進展により物価上昇が抑制された結果、今は@2%と考えるのが主流のようだ。直近の米CPI(年率)+1.7%とも整合的。そこで現在考えられているのが:

 *「中立金利」= 潜在成長率2%+1% =@3%?

 忘れもしない1994年2月、今では ”伝説” になっているグリーンスパン議長による突然の利上げ開始直近の米非農業部門雇用者数がマイナスだったのにも関わらず、突如政策金利を@3%→@3.25%に引き上げた。当時筆者を含む金利トレーダーの多くはその意図が全く理解できず、一部で「議長は気が狂った」などと揶揄された。だがその後米景気指標が急反転。結局FF金利はたった6か月の間にFOMC以外の ”臨時会合” も含め、計+0.25%×6回=+1.5%@4.5%まで引き上げられた。その時に出たのが「中立金利」の議論で「FRBは4%までは利上げするだろう」と想定された。おそらくこの考え方はFRB内でも引き継がれているはずだ。

 これは物価連動債(TIPS)を元にしたBEI(Break Even Inflation Rate、予想物価上昇率)も同様。5年BEIは@2.68%と徐々に3%に近付きつつある

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 つまり現状の米国債金利、例えば10年@1.59%でも金利トレーダーには「政策金利3%」が視野に入っていることになり、見た目の「名目金利」より、実は既にかなりの「高金利」ここから先は「中立金利」を上回る真の意味の「金融引締め」の領域に入る

 現状ビットコイン(BTC)が@$60,000.-に達し、株価も調整売りをこなしながら上昇を続けている状況を鑑みると、まだ「金利は上がる」だろう

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 どこまで金利が上がると株価など資産価格と新たな「化学反応」=「金利商品への資金移動」が起きるのかイールドカーブの形状や景気実態にもよるが、筆者は10年米国債が@2.0%へ向かう過程で「変化」が起きると予想している。あと+0.3~0.4%程度BEIも@3%に近付くことになるだろう。

 市場は今一旦小休止のようだが、ここからがまさに「剣が峰」。徐々に ”チキンレース” の様相を呈してくる。どのくらいの "タイムスパン" で「化学反応」が起きるのかも重要な要素。目が離せない状態が続く。

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