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「本物の危機」の時、金利は上昇する。

 episode1. 「これで銀行首になったら、一緒に商売でもしよか」

 「損切丸」がドル資金チームで駆出しのトレーダーだった時の「お師匠さん」(チーフディーラー)のコメント*@ブラックマンデー

 *1987年(昭和62年)10月19日(月曜日)に香港を発端に起こった世界的株価大暴落。 米国のダウ平均株価(DJIA)は▼508ポイント(▼22.6%)下落した。当時プラザ合意後安くなったドルの安定で国際協調していたが、そんな中米国の反対を押し切って利上げを断行したブンデスバンク(ドイツ中央銀行)がドル暴落の引金を引いた、という説がある。

 当時の資金決済システムは今ほど処理能力が高くなく、あまりの株、為替の暴落で決済系システムの FED WIRE も大混乱「資金繰り」に窮した金融機関が株だけでなく債券も売却に動き、当時の政策金利@6.00%を超えて長短金利とも10%超まで急上昇した。

 「FRBが必ず資金供給をしてくる」

 「お師匠さん」は信念に基づいて金利が下がる方に大きく「逆張り」。しかしポジションを取った後も金利は上昇を続け、時価会計ならおそらく▼10億円単位で損失が出ていただろう。そんな中半ばあきらめの境地で発せられたのが冒頭のコメントである。

 結局数日後FRBは大量の資金供給に動き金利は急低下。結果的に+10億円単位の収益が出て、彼は「ブラックマンデーで儲けた男」として後々の語り草になった。

 episode2. 「Where is Money !!」

 今度は筆者の実体験である。2008年リーマンショック時、某英系銀行では毎日@夜10時過ぎ(東京時間)、東京、ロンドン、ニューヨークをつないで「緊急会議」が開かれた。他のトレーダーは全員帰宅していたが、円の責任者であった「損切丸」だけが電話で参加。

 ドルとポンドが全然足りない、という。(イギリスの大手銀行なのに...)

 「円は取れないのか!ドルかポンドにスワップしてくれ!」

 円の資金繰りもそれほど楽ではなかったが、ドル、ポンドの比ではなかったようだ。結局2週間物の円で@2.00%程度まで取り上がって数千億調達し、ポンドに替えて本店に送金した。(同時の円金利もゼロ金利政策下)。

 リーマンショックの時は「銀行間金利」が急騰した。危機の連鎖でどの金融機関が潰れるか疑心暗鬼が拡がり、お金を貸さない銀行が増えたからだ。結果、国債とLIBOR(London Interbank Offered Rate、ロンドン11時の銀行間指標金利)の金利差が大きく開く「異常事態」に陥った。

 このように「本物の危機」の時、金利は上昇する。株価が下がって国債が買われる(金利が下がる)ようならそれは「本物」ではない。資金繰りに窮すれば、株でも債券でも金でも何でも金融資産を叩き売って現金化する

 今回の「コロナショック」「第二段階」に入り同じ様相を呈しつつある。ブラックマンデーリーマンショックの時のように一気の動きではないが、ここへ来てじわじわと金利が上がりだした良くない兆候だ。

 昨日(3/18)引けベースの米国債金利。長期金利は既に緊急利下げの前の水準を超えてきている。

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$  FF- 2- 5- 10yr  19 Mar 2020(グラフ)

 ヨーロッパではイタリア、ギリシャ国債の暴落によってECB「介入」せざるを得なくなり、7,500億ユーロ(約89兆円)の「国債買入」を急遽導入。イタリア、ギリシャ共大分戻したようだが、危機克服にはほど遠い。

実質金利G8(after CDS)@19Mar20

 さらにFRBとの協調で復活した「90日物ドル資金供給オペ」には**1,300億ドルもの入札(含.7日物オペ)があり、ドル資金不足を露呈している。

 **日欧米の銀行のドルはこのオペで万全に見えるかもしれないが、実はそうではない。中央銀行の資金供給オペには国債等一定以上の基準を満たした「担保」を供出する必要がある。差し出せる担保余力は実は顧客の預金がベースになっており、預金の取り崩しが進むとオペに入札出来なくなる

 中南米を見ると「危ない金利上昇」の傾向が顕著だ。ブラジル中央銀行は政策金利を▼0.5%引き下げ@3.75%にしたが、逆に長期金利は上昇。10年国債金利はメキシコと共に8%を超えている

北中米国債@19Mar20

 このように「資金繰り」に窮すれば国も企業も個人も現金に換えられる物は何でも売る。これは金利市場も例外ではない金利の上昇は今回の危機が「本物」である証でもある。

 「現金給付案」などはその最たる例だが、各国の対策も目先の「資金繰り」に焦点を絞ったものが多い。まごまごしている間にバタバタ倒れるところが増えるので、じっくり待っている余裕はない。「資金繰り」は待ってはくれないのである

 しかも今回の最も厄介なところは、終息に向けたタイムテーブルが描きにくいこと。こういう時の金利上昇は恐ろしい。しばらくは息を潜めて見守るしかないだろう。「株の買い時」などを考えるのは二の次になる。

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