デジタル通貨

「ワールド・デジタル通貨構想」 ー 日銀のワーキングペーパーから論点を紐解いてみる。

 一時加熱していたフェイスブックによる「リブラ」については、銀行界を中心にした様々な既得権益からの圧力により一旦頓挫した格好になっている。一方で中央銀行等では「デジタル通貨」発行の機運が高まっており、IMF(国際通貨基金、International Monetary Fund) やBIS(国際決済銀行、Bank for International Settlements )が共同で世界統一の「デジタル通貨」を発行する構想もあるという。おそらく現在のSDR(特別引出権、Special Drawing Rights、1969年に創設した国際準備資産)を基にしたものだろう。↓ のようにドルや円等の主要通貨の通貨バスケットにより構成される。現在でも2,000億ドル相当発行されている。

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 ここで2019年11月29日付.日本銀行による「中央銀行デジタル通貨に関する法律問題研究会」報告書を参考に、より具体的な論点整理をしてみたい。(全文お読みになりたい方は ↓ をご参照)

 まず日本銀行のバランスシート上は:

日銀CBDC1

となり、日銀にとっては負債、預金者にとっては資産(預金債権)となる。

 「口座型」「トークン型」という2つの発行形態に、それぞれを「直接型」「間接型」に分けた合計4パターンを想定。

 ①「口座型」 - 日銀口座開設先を金融機関に限定せず、広く個人や企業にも対象を広げ、CBDCを付与する。

 ②「トークン型」 - いわば「銀行券の電子化」。金銭的価値が組み込まれる媒体を、銀行券のような紙媒体でなく、電子的なデータであると捉えるもの。

 ①、②を「直接型」「間接型」に振り分けた4モデル  。

日銀CBDC2

日銀CBDC3

日銀CBDC4

日銀CBDC5

 「直接型」については、現在市中銀行が様々な形で提供している金融サービスを日銀が代行することになってしまうため、あまり現実的ではない。顧客の利便性を考慮すれば「トークン型・間接型」が有力だろう。

 <CBDCの法的論点>

 日本銀行法1条1項:「日本銀行は、、、銀行券を発行するとともに、通貨及び金融の調節を行うことを目的とする」。銀行券については、その製造、消却手続などについての日本銀行法上の定めがある。

 現行法上、電子的で有体物でないCBDCを「銀行券」と見做すのはそもそも無理があり、法改正が必要と結論づけている。また、法改正にあたっては次に挙げるような様々な論点から慎重な検討が必要としている。

・CBDCデータの偽造・複製、あるいは消滅

・マネーロンダリング、テロ資金対策

・個人情報保護

 いずれも「ブロックチェーン」を前提とする暗号資産管理と論点は同じだ。つまりより完璧な「ブロックチェーン」の構築が必須となる。

 当然と言えば当然だが、「デジタル通貨」を国家権力に委ねようとすれば、どうしても現在の法定通貨と同程度の厳格な法規制が必要となり、自由度は落ちる。上記は日銀=日本の論点だが、世界統一のものにしようとすれば、各国とも法体系、通貨制度に違いがあり、なかなかの難物になるのは間違いない。少なくとも1年や2年でどうにかなるとは思えない。

 前IMF専務理事兼フランス財務相で現ECB総裁のラガルド女史(あのグレイヘアで格好良い女性政治家)が「デジタル通貨」に前向きと表明している。「基軸通貨としてのドルの衰退」を大きな理由として挙げているが、真の狙いはやはり「新通貨切換」による国家債務軽減ではないか?日米欧とも事情は共通しており、更に言えば中国による「通貨覇権」阻止も目的の1つだ。

 最近「リブラ」が表舞台から消えたが、その裏側で「デジタル通貨」について様々な議論が国家間でなされているはず。通貨バスケットの比率など国家間の利害が絡む点の調整は困難を伴うかもしれないが、膨大な国家債務の軽減という大きな目的達成のため、どこかで折り合うかもしれない。

 個人レベルの投資を考える時、これらのバックグラウンドは大きな意味を持つ。国家の「共通の目的」を考えれば、現存する法定通貨、簡単に言えば「お金」や「預金」は価値が減ずる懸念が強くなる

 そうすると資産保有する対象としては世界的に価値が共通して保たれるものが有効となるだろう。例えばトヨタ等世界的企業の株もそうかもしれないし、金(ゴールド)や主要都市の不動産などもそうかもしれない。まだ時間的余裕はありそうなので、今後出て来るであろう「ワールド・デジタル通貨構想」に関するニュースを逐一チェックしながら備えておきたい。

 余談:「ユーロ」統一の時も欧州担当の金利・為替トレーダーの多くが職を失ったが、「世界統一通貨」となれば為替市場の消滅を意味する。現在FXで頑張っている「ミセス・ワタナベ」の皆さんの感想やいかに.。もし実現すれば、これは確かに1985年の「プラザ合意」(=日英米独仏5カ国による協調的なドル安路線合意。その後大幅なドル安をもたらし、日本における「バブル景気」とその崩壊の起点になったとの見解もある)級の大事件だ。

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