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金利は語るⅥ - 相場に "祈る" ようになったらもう止め時。

 前稿で:

  "可哀想だが勝負は既に決している。この流れだと今日の米CPIで例え@+5.0%が出ても米国債は(一瞬売られた後)「材料出尽くし」で「踏み上げ」を狙ってくる展開も有り得る。「他人の ”損切り” は拾え」を地で行くような相場展開だ。含み損が苦しくて ”祈る” ようになったら、もうその相場は潮時。早く撤退した方が良い" 

 こう書いたがまさにそのままの展開。10年米国債金利は予想を上回るCPI@+5%で@1.53%まで上昇の後@1.43%まで低下 ”預言” のようになってしまったが(苦笑)、これは*筆者自身の "苦い経験" に基づいている。

 *ドイツマルク担当だった頃、連続的な利上げ局面で巨額の金利スワップ "Pay"=固定金利支払の意味。金利上昇に賭けた取引)を銀行のコアポジションとして任された。当時のブンデスバンク理事会に向けて「利上げ」予想が支配的な中、何故か先物が買われスワップ金利が低下大きな「含み損」を抱えたまま会合当日を迎えた。結果は予想通りながら+0.25%「利上げ」。先物は▼3 tic(金利で+0.03%)売られ「一発逆転!」を確信した直後、+15 tic(▼0.15%)もの怒濤の買い戻し。ポジションが大き過ぎた事もあって呆然としてしまった。翌日の会議で「利上げしたのに何で買われるんだ!」と担当副部長に詰められたが上手く説明出来ず。金利低下を祈るようになってしまった。今回の米国債の展開とうり二つである。

 まさに復活・「意地の悪い相場」。↓ (5/25稿)だが、2019~2020年に「甘い汁」をタップリ吸った投資家、トレーダーで今回 "沼" にハマってしまった人も多かっただろう。こうして "苦い経験" は蓄積される。

 今回の相場の主役「リフレ・トレード」の主戦場はおそらく5年BEIだ。T-Bond先物(=10年米国債の先物デリバティブ。期日に現渡しになる "cheapest" 銘柄が7年債になることから7年米国債と同等と見做される)の建玉が急減していることから、今回「損切り」を迫られた取引は「T-Bond先物売+5年TIPS買」と推定される。先物を使えば売る国債の現物を借りるコストもかからないので、まあそういう取組になるだろう。

 5年BEIはCPI発表前の@2.46%から@2.51%に戻しているので峠は一旦越えたかもしれない。この辺は米国債だけ追っていたのでは気付きにくい点。

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 5年米国債@0.71%は「FRBの政策金利が@1.00%で打ち止め」を示唆する、いかにも中途半端な金利「バリュー」としては十分売りで臨める水準だが、これも**「お金持ち」視点で捉えると違った「バリュー」になる。

 **例えば10億ドル(1,090億円)持っている「お金持ち」が、この10年間、株を中心とした運用で資産を50億ドルに増やしたとしよう。市場で「インフレ懸念」が台頭し「富裕税」の話が出てくれば利益確定を急ぐのは自然な成り行きだ。不動産を10億ドル保有しているとして、残る40億ドルの半分20億ドルを5年米国債@0.70%に投資すれば受取利息は7千万ドル(約76億円)。悪くない。「増税」が先なら「利上げ」は後回しになる確率も高い仮に利上げが早まっても残る20億ドルを現金で持っておけば、金利物に再投資すれば良い。こうして「お金持ち」はさらに「お金持ち」になっていく。

 おそらく現在の株価からの更なる上昇にはあまり興味が無い。まして***一時@$60,000に達したビットコイン(BTC)など無理して投資する価値は見いだしていないだろう。もう十分「インフレ」の対価は受け取っている株価やBTCが上がらなければ困る「金融村」は何とかしようと頑張るが「お金持ち」にとっては「最後のあだ花」。ここはじっくり「次のチャンス」をうかがっているはずだ。

 ***直近のニュースで金融機関の国際規制機関であるバーゼル銀行監督委員会ビットコインと一部の仮想通貨のリスクウエートを@1,250%と提案したという。国債や銀行向け貸出が金額の@10~20%であることを考えると途方もないレート。これでは銀行は1枚も持てない。

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 もう一つ金利として気になっているのがTONAR(Tokyo Over Night Average Rate、無担保コールO/N金利)。5月から6月にかけて@▼0.02~▼0.03%台に緩んでおり、コール市場の取引量も減少している。

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 市場から調達して日銀当座預金に@+0.10%(コロナ対応貸出残高見合い等、特別枠)で積む ”裁定取引” に日銀から ”お達し” があったか。現場でないと事実は知るよしもない(もっとも現場にいたら口外できないが。笑)。

 6月1週は「対外証券投資」で中期債を+6,000億円強買越しており「利上げリスク」が低く日本人が大好きな豪ドル債に余った「円」を振向けたのかも。市場規模が小さいので、数千億円の買いでも金利は急低下する。

対外証券投資~5 Jun

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 「リフレ・トレード損切り」の嵐が止むのを待って、再度チャレンジということになるが、こういう時怖いのが「嘘から出た誠」。単純に技術的な「損切り」と舐めていたら、違う「嵐」が襲ってきて本流になる時もある。特にこういう「理不尽な相場」が起きる時は要注意だ。「黒白鳥」の筆頭は「やっばり不気味な中国」。↓ (6/8稿)。「意地の悪い相場」が続くだけに、ここは慎重に見極めていきたい。


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