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「日銀、2021年度にデジタル通貨で実証実験 欧米中銀と3原則」

 2020年1月に日銀ECB(欧州中央銀行)、BoE(英イングランド銀行)など6中銀とBIS(国際決済銀行)は共同研究グループを創設し、デジタル通貨 = CBDC  ( Central Bank Digital Currency) の利点や課題を検討してきた。現在1年間の予定でRIKSBANK(リクスバンク、スウェーデン中銀)が「e クローナ」の検証実験中で有り、それらの結果も踏まえてプロジェクトを進めるつもりだろう。なお、FRB(米連邦準備理事会)も途中で加わっている。

 この流れを受けて2021年度に日銀デジタル通貨の実証実験に入ると報じられた。骨格については2020年11月のワーキングペーパーをカバーした弊 note 1.19「ワールド・デジタル通貨構想」ご参照を。

 日銀は7/20、決済機構局決済システム課に「デジタル通貨グループ」を設置しているが、発表文の中身を見ると民間銀行への影響も考慮し「直接型」ではなく「間接型」になりそう。発行形態については「口座型」「トークン型」ともに使い分けがされる可能性が高いのではないか。

 共同研究グループでは下記の「3つの基本原則」を定めている:

 (1)現金や民間のデジタル通貨などと共存する。

 (2)中銀の政策目的の達成を支援し、金融の安定を害さない。

 (3)技術革新や効率性を高める。

 ここへ来て矢継ぎ早にプロセスが進んでいる印象があるが、主因は「デジタル人民元」への対抗だ。覇権争いで直接対峙しているアメリカではなく、経済要因から米中に対し中立的立場の日本、欧州が主導しているところが面白いところ。歴史的に日銀と欧州中銀は情報交換も密で仲が良いのでこういう流れになったのかもしれない。

 しかし日本では「ドコモ口座」やPayPay等を通じた「不正引出し」事件が大問題になったばかりで、やはり焦点は*ブロックチェーンのセキュリティー対策になるだろう。「デジタル庁」も立ち上がるが、いささか不安だ。

 日本の銀行は日銀とのやり取りに「日銀ネット」という専門の決済システムを使ってるが、これが奇々怪々な代物。現在のインターネット技術とはかけ離れた何世代か前の技術(例えば FORTLAN とか BASIC )を基に作られているようで、トラブルがあった時などIT担当者がいつも四苦八苦。これが逆に「ハッキング」を難しくしていたようだ。最新のレーダーが昔のプロペラ機を捉えられず打ち落とせないのと似ている。

 コロナへの対応もそうだが、こういうセキュリティー面は残念ながら中国のように国家権力の強い国の方が有利。日本や欧米のように ”権利” に配慮するとどうしてもプロジェクト進行が遅くなるし、チェックもあまくなる。罰則なども強権的には発動できない。頭の痛いところではある。

 しかしこれも時代の流れ。いくら「デジタル人民元」の立ち上がりが速くても「信用」の問題から「お金」、とくに欧米の先進国からは一気に流れることはないだろう。いざとなればドルユーロとの兌換を制限することもできるし、時間は稼げる。

 ここで「デジタル円」について、政府・日銀がいわゆる「見返り」を求めるならどういう設計をしていくか、財務官僚、もしくは日銀理事にでもなったつもり(笑)で「損切丸」としての想定を書いてみよう。以下:

 ①旧貨幣@100円を新・デジタル円@1円と交換する。

 ②兌換手数料を旧通貨100円あたり10円徴求する。但し、デジタル円を使った送金、振込手数料などは半額以下に値下げ。

 ③「通貨法」改正、あるいは「デジタル通貨法」を新設し、給付金、GoToポイント等の資金付与及び資金手当は原則「デジタル円」に。e.g. マイナンバーカード保有を必要要件として紐付け。

 財務的メリット:実質旧貨幣110円を新・デジタル円1円と兌換。1,100兆円余りの債務を▼10%削減(=100兆デジタル円)。デノミ的効果も。国債の代わりにデジタル円発行で財務手当も可能になり、財政が改善。

 日銀的メリット:CDBC発行が新たな資金調達手段になり資金繰り改善。

日銀CBDC1

 セキュリティー対策もあり、デジタル通貨への移行は一気には進まないだろう。だが一度商取引がデジタル中心に移行し始めれば、あっという間に旧貨幣に取って代わるはず。その時に上記のような設計をしておくと:

 A. 国家債務を▼10%削減(税収(旧貨幣)+100兆円相当)

 B. 貨幣流通量の増加によるインフレ効果

 C. 国債発行から通貨発行にシフトすることによる資金繰り改善

 まさにMMTを地で行くような政策であり、国に取っては良い事(=国民にとって悪い事)ずくめだ。しかし現在の国家債務はこのぐらいの劇薬を投与しなければ改善しない規模に達しており、”寝言” とまでは言えない。

 「3つの基本原則」 (2)中銀の政策目的の達成を支援 が入っているのも非常に気になっている。なにせ今の日銀の政策目標は「+2%の物価上昇」、つまり「インフレ達成」なのだから。

  円をベースに暮らす生活民の1人として今後の展開は注視していきたい。デジタル円の流通が始まれば、A. のコストは痛いが上記 B. のリスクを考慮して、個人的には可能な限り保有現金(旧貨幣)を移しておこうと考えている。少しは「資産の目減りリスク対策」にはなるかもしれない。

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