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すべてはグラデーション。いわーなまいさんに教えてもらった、“好き”を守りながら生きる方法

お金の学校『toi』は、参加者の「お金」にまつわる悩みや夢を、校長・井上拓美&MC・くいしんと様々なゲストを交えて本気で考えることで、それぞれに必要な“問い”を一緒に探していく学校です。このnoteでは、メンバーの一員でもあるライターが講義を聞き、感じたこと、気づきや学びについて記録していきます。

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●ライター:高城つかさ
1998年生まれ。家庭の事情で大学を中退後、2018年7月より本格的にライターとして活動開始。「言葉と人生」を掲げ、さまざまな人の人生を言葉という手段で届ける仕事をしています。さいきんは小説を書いています。
●ゲスト講師:いわーなまい
コピーライター。広告代理店に勤めながら、絵本を制作したり、子ども向けの北欧教育スクールで働いたりしている。

私は昔から、本当に好きなものや大切なものについて話すことが苦手だった。

小学生のころは好きな人に似ているタレントの写真を印刷してクリアファイルにいれて持ち歩くほど堂々と“好き”を表現していたのに、中学生くらいからだろうか、好きだった少年犯罪にまつわる本のことも、ボーカロイドのことも、舞台のことも、少しずつまわりに言えなくなってしまった。

なぜ、本当に好きなものこそ言えなくなってしまっていたのか。きっかけを考えてみると、好きなものの話をして否定された記憶が蘇ってきた。

中学生のころ、罪を犯した少年が、なぜ家庭環境が原因かのように語られてしまうのか気になって、図書館で少年犯罪にまつわる本を端から順番ずつ読んでいたら「将来、犯罪者になっちゃうからやめた方がいいよ」と家族に言われたこと、大学生のころ、大好きな舞台の話をしたら「もっと恋愛みたいな“普通”の話はできないの?」と同じグループの子に言われたこと……。

そういう言葉が胸に刺さって抜けなくて、いつの間にか本当に好きなもの、大切にしたいことに限って人に話せなくなってしまっていたのだ。

フリーライターとして、演劇や本など、ずっと好きなものについて書く仕事をもらえているからか、おすすめの作品を聞いてもらえたり、本をプレゼントしたりすることも増えた。だけれど、そんなときでも本当に好きなものについて話せない私は、相手や自分、そして好きなものたちに嘘をついているような気がして、否定されるのではないかと相手を疑ってしまっているようで、いつも苦しかった。

そのなかで“好き”や“大切”といった気持ちを宝物のように抱え、きらきらとした表情で共有してくれる友人が増えたからか、「私も、本当に好きなものや大切にしたいことについて、もっと堂々と話したい」と考えるようになった。

限られた相手に打ち明けられるようになってきたけれど、まだうまく話せていない。思い切って打ち明けたとき否定されたらどうしよう。バカにされたらどうしよう……。そんなことばかり思い浮かんでしまう私には、“好き”の伝え方や、“大切にしたいこと”の守り方を学ぶことが必要なのかもしれない。

そんなとき、『挑戦はしたいけど、できる限りリスクは減らしたいよねぇ。』というテーマで登壇してくれた、いわーなまいさんの話を聞いた。彼女は『ZINEを作る』ことで“好き”を再確認し、それを守りながら生きる方法を得ていた。

これは、いわーなさんから学んだ“好き”の伝え方や“大切にしたいこと”の守り方について学んだ記録である。

本来の自分を取り戻すためにはじめたZINEづくり

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広告代理店でコピーライターとして働く、いわーなまいさん。言葉を軸に、さまざまな企画を通して商品を売り出す仕事をしながら、週末には絵本を販売したり、子ども向けの北欧教育スクールで働いたりしている。

「好き勝手やりながら生きている」と話すいわーなさんだけれど、本命とは違う企業に就職した彼女は、コピーライターに向いていないのではないかと悩んだこともあったそうだ。

いわーなまい:
コピーライターの仕事は、私自身があまり好きではないものを「好き」と書いたり、良いと思っていなくても、それが「良いもの」であるかのように見せて、世の中に広めなくちゃいけないこともあって。「向いていないなあ」と悩んだこともありました。

常に受け取ってもらう側にどうしたら伝わるかについて考えることが広告の仕事だ。つまり、顔の見えないターゲットの“好き”を自分ごとのように捉える必要がある。

受け取る側の視点に常に立ちながら広告を出し続けるうちに「自分が自分でなくなる感覚で苦しかった」といわーなさんは振り返る。

いわーなまい:
入社2年目の春が苦しさのピークでした。そこで、本来の自分に立ち返ろうと“自分が好きなものだけ”を集めたZINEを作ってみたんです。その作業を経て、自分を取り戻せたような気がして、『好きなものを語って生きていきたい!』と思いました。

仕事では本当に“好き”なものを語れないし、場合によってはそんなに好きではないものでも好きだと言わなければならない。そんな状態と折り合いをつけるために“好き”を集め、原点に立ち戻ったいわーなさんの話を聞いて、私は、“好きなもの”への気持ちを誰かの判断を基準にしていたことに気づいた。

他者に基準を置いているから、否定されたら傷つく。だから、本当に“好き”なものは内に秘めておく。そうして、苦しくなる……。いつの間にか、そんな悪循環が生まれていたのだ。

「会社をやめるにしても、武器となるスキルを身につけておきたかった」

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“好き”なものを集めた結果、自分のなかに眠る“好き”を再確認したといういわーなさん。もし、私が当時のいわーなさんと同じ立ち場だったら、なおさら仕事を「やりたくない」「向いていない」と思ってしまう気がするけれど、いわーなさんはどうやって気持ちと折り合いをつけたのだろうか?

すると、いわーなさんは「向いていない」の種類について話してくれた。

いわーなまい:
「向いていない」にも2種類あって、「本当に向いていない」場合と「今できていないから向いていないと思ってしまう」場合があると考えているんです。例えば、自転車は乗れるようになったら楽しいけれど、乗れていない間は楽しくないし、向いていないと感じてしまいますよね。私は、仕事もそうだと思っていて。「今向いていないと思うことでもスキルが身に付いたら楽しいと感じられるかもしれない」と、会社ではスキルを身につけることに専念しようと思ったんです。

「会社をやめるにしても、武器となるスキルを身につけておきたかった」と、いわーなさん。

いわーなさんは、“好き”なものに気づいたことをポジティブに捉えている上に、働くなかでの現実的な問題にもしっかりと向き合っている。

いわーなまい:
それに、自分のなかで「これが“好き”だ!」という気持ちがはっきりしたからこそ、“好き”だと思うことに関する仕事がやりたいと発信するようになったんです。ZINEは会社の人にも配りましたし、Facebookで会社関係の人たちと繋がって「ZINEを作りました!」とか「書店に置いてもらいました」と報告したりして。私の“好き”を、まずはみんなに知ってもらいました。

好きなものを集めようとした最初の目的は「自分のことを取り戻す」ことだったいわーなさんは、当初はクラウド上で好きなものをまとめただけで終わらせるつもりだった。すると、まとめたからには印刷して本にしたくなり、本にしたからには会社の人たちにも配りたくなり……と、小さな“やりたい”の種が芽生えてきた。それを少しずつ形にしていったことで、“好き”に近い仕事をもらえるようになったり、会社以外の場でも新しいチャンスが生まれたりしたそうだ。

そのなかで一貫していた姿勢が「今の仕事はやりたくない」とネガティブな伝え方をするのではなく、あくまで“好き”だという気持ちを伝えるまでに留めたということだ。

いわーなまい:
今の仕事が楽しくないから好きな仕事をやりたいわけではないし、「やりたくない」と言うとネガティブに見えてしまうから、それはよくないと思って。伝え方には気を遣っていました。

彼女のその姿勢から、あくまで“好き”は自分のものであるということ、他者に共有はするけれど強要はしないことが軸にあると感じられた。

もしかすると私は、いつの間にか自分の“好き”を押し付けてしまっていたのかもしれない。きっと私には、まず“好き”を自分だけの感情として認識し、大切に育てることが必要だ。

“好き”を守るためにも、“スキル”と切り離して考えてみる

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いわーなさんは、自身の“好き”を守るためにも一度“スキル”と切り離して考えている。そうしていくうちに、本業のほうでも少しずつ好きなことを仕事として振ってもらえるようになり、“スキル”を使いながら“好き”な仕事をする、“好き”なことで仕事にも使える“スキル”を身につける……といういい循環が生まれている。

いわーなまい:
最近は会社で学んだスキルを個人の活動で活かせるようになりましたし、個人の活動を通して視点が増えるのも面白いなあ、と思うようになりました。コピーを書くうえでいろんな視点から社会を見られるようになるスキルは大切だから、すべてが繋がっているなあと思います。

彼女の話を聞いて、私は、フリーランスとして演劇や本といった、“好き”な分野を仕事にしているうちに、“好き”と“スキル”をついつい結びつけてしまっていたのだと気づいた。それも、自分を守る方法を考えずに。だから仕事にはできているけれど“好き”の気持ちを表に出すのが怖くなってしまっていたのかもしれない。

世の中には「好きを仕事にしよう!」なんていう声も溢れているけれど、いわーなさんは“好き”と“スキル”を一度切り離している。「好きなことを仕事にする」。その言葉について、彼女はどう感じているのだろう。いわーなさんの話を聞きながら、そんな疑問が浮かんだ。

いわーなまい:
好きなことを仕事にすることが本当に幸せなのかというのは常に考えていて……。私は今、絵本を描きたいと思っているけれど、それを仕事にしたら絵本でお金を稼がなければならなくなって“売れる本”について考えざるをえないと感じるんです。「それって本当に幸せなんだっけ?」と、いつも自分に問いかけています。

自分の“好き”が明確にあるからこそ、“幸せ”のあり方についても考えられる。一度自分を取り戻すという作業を経て、いわーなさん自身の生き方が変化したことを感じ取れた。

そんないわーなさんの現段階での結論は、会社員としての仕事と、好きなことをやる個人の仕事の両軸で生きていくこと。働くなかで足りないスキルが明確になったら、部署を異動したり働き方を見直したりして随時調整していきたい、と話してくれた。それができるのは、正社員として組織に属しているからだということも、いわーなさんは教えてくれた。

終盤、私は思い切って打ち明けてみた。「本当に好きなものは自分の芯に近い大切なものだから、否定されそうで怖い」というなことを。

すると、いわーなさんは「毎日企画会議がある分、褒められたり貶されたりすることを繰り返されて、慣れているところがあるんだけれど……(笑)」と前置きした上で「否定される前提で見せてみて、褒められたら褒められたで嬉しいし、ダメだったら『まだ良くなるんだ!』と思うようにしている」と話してくれた。

そうか、私は自分の好きなものを“肯定される”ことを前提にコミュニケーションをとっていたのかと、いわーなさんの言葉を通して気づかされた。私の“好き”という感情は私だけのもので、誰かの“好き”もその人のもので。肯定・否定の二極化ではなく、グラデーションを受け入れるということが、今の私には必要なのだろう。

その姿勢は、仕事にもつながる。今は“好き=仕事”という方程式が成り立っているけれど、“好き”をすべて“仕事”にしようとせずに意識したり、“好き”とまでは言えないけれどスキルを得るための“仕事”に挑戦したりと、グラデーションを楽しむフェーズがきている、気がする。

最後にいわーなさんは「軸を持って流されるのが大切だと思う」だと話してくれた。その言葉を胸に、今年は興味の赴くままにぷかぷかと浮かんでみよう、と感じた。きっと、その想いが“好き”や“大切”を守ることにもつながると思うから。

テキスト:
高城つかさ

イラスト:
あさぬー

編集:
くいしん


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