胸郭出口症候群(TOS) の病態と症状改善アプローチ

筋緊張や不良姿勢などで神経(腕神経叢)、血管(鎖骨下動・静脈)が圧迫されることによって起こる。首~上肢にかけて知覚障害(痛み、しびれ)、運動障害、冷え、むくみなどが主な症状。

①3つの絞扼ポイント

1)斜角筋隙での絞扼

前・中斜角筋、第一肋骨からなる隙間を通る腕神経叢、鎖骨下動脈が圧迫される。長時間のデスクワーク等での前・中斜角筋の緊張、それに伴う第一肋骨の挙上からなる斜角筋隙の狭小化による。「斜角筋症候群」

2)肋鎖間隙(骨性トンネル)

腕神経叢、鎖骨下動・静脈が第一肋骨と鎖骨の間を通るところで絞扼をおこす。肩関節の外転、外旋は鎖骨と第一肋骨の間隙を狭小化させる。鎖骨下制によっても絞扼が起こる。「肋鎖症候群」

3)小胸筋下間隙(靭帯性トンネル)

腕神経叢、鎖骨下動・静脈が小胸筋と烏口鎖骨靭帯(菱形靭帯)の間でも絞扼が起こる。肩関節が外転されていく際に肩甲骨の上方回旋が抑制される因子があると、伸長された小胸筋と烏口鎖骨靭帯の間が狭くなる。

「過外転症候群」(動きずらい肩甲骨に対して上腕骨だけが外転していってしまってる状態)。


②症状が起こりやす不良姿勢

1)いかり肩

鎖骨の挙上、肩甲骨は上方回旋・内転の位置をとり、さらに胸椎が伸展され上位肋骨が挙上されている状態。上肢が重力によって引き下げられる力が加わるのに対して頚部の筋肉が過度に緊張してしまうためと考えられる。斜角筋症候群が起こりやすい。筋緊張による圧迫力が腕神経叢、鎖骨下動・静脈を絞扼する。

2)なで肩

鎖骨の下制、肩甲骨は下方回旋・外転位をとり、胸椎は屈曲され上位肋骨は下制される。上肢にかかる重力(牽引力)によって肋鎖間隙にて絞扼されやすい。肩甲骨が下方回旋位のまま肩関節が外転していけば、肩甲上腕関節の過外転状態となり小胸筋下間隙での絞扼も起こりやすい。


③症状改善アプローチ

絞扼されている部位を特定し、その機械的刺激をのぞけるかどうかが症状改善のポイント。

1)斜角筋症候群

斜角筋群のリラクゼーションを行う。いかり肩によくみられるアライメントに対してのアプローチも効果的であると考えられる。(肩甲骨上方回旋、内転にかかわる筋のリラクゼーション等)

腕神経叢の全体が絞扼されるので肩甲帯周囲~上肢にかけ広範囲に症状が出現する可能性がある。

腕神経叢は斜角筋隙付近で交感神経の中、下頸神経節と合流する。TOSの症状である冷感、浮腫などは血管の絞扼そのものだけでの血流障害だけでなく、交感神経の阻害による血流コントロールの不具合によって起こると考えたほうが無理がない。

2,3)肋鎖症候群、過外転症候群

なで肩によくみられるこれらの症状は、アライメント矯正(胸椎、肩甲骨)が有用である。脊柱起立筋、僧帽筋、菱形筋のエクササイズなどが挙げられる。小胸筋の伸長性向上も重要。

※肋鎖間隙以下では一部の腕神経叢が絞扼されるので、それより上で分枝する神経(肩甲上神経、肩甲背神経、長胸神経)は絞扼を受けない。


参考文献


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