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ストレスフルな出来事があったとき、書いて自分を癒やす。「筆記療法ワーク」のやり方

他者からなげかけられた言葉が胸にささって、なかなか忘れられない。自分がしてしまった失敗に心がざわざわする。もしくは、大切な人を亡くしたり、パートナーシップを解消したりするなど、親密な関係に変化があったとき。

誰かに相談したり、気持ちを聞いてもらうことで心が落ち着いた経験がある人は多いのではないでしょうか。

しかし、個人的には毎回話を聞いてもらうために誰かに時間をとってもらうのが少し心苦しかったり。もしくは、誰かに話せるくらいまで感情が整理できず、なかなか言葉にならないこともありました。

そんなとき、ストレスフルな出来事について書いて自分を癒やす「筆記療法」という方法があることを知りました。

誰かに話を聞いてもらう前に自分の気持ちを整理したり、セルフケアの一環として取り入れられるのではないか。

そう考えて筆記療法について調べてみたところ、とても興味深かったので、”書く”ことによる癒やしの効果や、具体的な取り組みの方法についてまとめてみました。

筆記療法とは

筆記療法とは、心理学者のジェームズ・W・ペネベーカーが1980年代なかばに提唱した心理療法のひとつです。

心に動揺を起こさせるストレスフルな出来事を体験した人が、その出来事について1日15分、4日間連続で”書く”プログラムを行うもの(ベーシックなパターンは15分×4日間ですが、様々なプログラムがあります)。

研究によれば、このライティングワークを行なった人は実験後の3ヶ月間には、病気で医者にかかる回数が減るなど、健康状態が改善されることがわかっています。

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Expressive Writing: Words That Heal 」Ph.D Pennebaker, James W. John F. Evansより引用

1980年代以降、筆記療法の効果に関するさまざまな研究が行われ、免疫力の向上、肺機能等の身体機能の向上、ストレス値の低下、学業成績の向上など他にも多くの効果があることがわかってきました。

何を書けばいいの?

ペネベーカーは筆記療法では、人生における重大な葛藤やストレス、トラウマ等について書くとしています。

といっても、自分の抱えている悩みが「人生における重大な葛藤やストレス、トラウマ」なのかどうかわからないという人もいるかもしれません。

その場合、その出来事について考え続けてしまったり、夜眠れなくなったり、心配や不安が生まれたりしているかどうかを考えるといいそう。

上記のような状態が見られる場合、それはその人にとって「重大な出来事だ」と言えるためです。

書くことによって起こるこころの動揺

こういった出来事について書くことによって、さらにつらい気持ちが生まれてしまったり、動揺してしまったりすることもあるかもしれません。

研究によれば、書いたあと数時間は気分の落ち込みが見られる場合もあるそう。しかし、一般的には数時間がたったあと、徐々に気持ちの落ち込みは回復していくケースが多いといいます。

もし、書いたことによる動揺が大きい場合は、すぐに書くことを中断し、専門の機関に相談するようにしてください。

電話相談等を行っている団体一覧
SNS相談等を行っている団体一覧 
※木村和博さんのこちらの記事に掲載されていた情報を参考にさせてもらいました。

4日間の筆記療法プログラム

では、さっそくペネベーカーの著書「こころのライティング-書いていやす回復ワークブック」で紹介されていた、4日間にわたるライティングワークのやり方について説明していきたいと思います。

筆記療法プログラムの基本

研究の結果、ライティングは1日に最低20分、4日間書き続けることが有効だとされています。

□1日目

人生に大きく影響をあたえたトラウマや心の動揺について、自分が考えていることや感情について、1日20分書きます。

「トラウマ」というと深刻な出来事について書かないといけないと思われがちですが、人生において葛藤やストレスを感じたと自分が思う経験であれば大丈夫です。

いったん書き始めたら、中断せず、書き方(文法や文章の綺麗さなど)は気にせず、ただひたすら書き続けます。

このとき、大切なのは「自分の感情を素直に見つめること」。出来事のあとに感じた否定的な感情だけではなく、肯定的な感情もつつみかくさずに書きます。誰かに見られるわけではないので、自分の正直な気持ちを書くことが大切です。

先程書いたように深刻なこころの動揺がある場合は、書くことを中断するようにして、専門家に相談するようにしてください。

ライティング後には、以下のアンケートを行います。

1.どの程度、自分のこころの奥底の考えや感情を表出しましたか?
2.どの程度現在、悲しいですか、動揺していますか?
3.現在、どの程度幸せですか?
4.今日のライティングは、どの程度価値があり意味のあるものでしたか?
5.下のスペースに、今日のライティングはどのように進んだのかを簡潔に記述してください。

まったくない  -----0  1  2  3  4  5  6  7  8  9  10 -----大いに

(こころのライティング-書いていやす回復ワークブック p.40より引用)

このアンケートは4日間のライティングワークのあとすべてに行い、ライティングについて分析したり、効果をはかったりするのに、有効だそう。(分析や効果の測定については書籍に詳しく書かれているので興味がある方は見てみてください)

□2日目

昨日と同じ出来事について書いてもいいですし、違う出来事についても書いても大丈夫です。昨日と同様に20分間、出来事についての感情や考えを書きます。

昨日と少し違うのは、こころが動揺した出来事について「人生の別の部分」に結びつけながら書いてみることです。

例えば、その出来事は友人や家族との関係性にどう影響をあたえているでしょうか。また、自分自身に対する見方や人に対する見方、仕事の状況、自分の過去に対する考え方など、出来事が人生全体にどう影響しているかについて考えながら書いてみてください。

終了後は、前日と同じアンケートを記入します。

□3日目

3日目も同じく20分間、出来事についての感情や考えを書きます。ここで大切なのは、2日間のライティングですでに書いたことは過度に繰り返しすぎないこと。違った視点からそれを捉えようとすることです。

特に傷つきやすいこころの奥底の感情を見つめつつ、書き続けていきます。

研究結果によれば、3日目のライティングはとても重要だそう。自分の本当の感情を直視することはやはり怖さを伴うこともあるため、1日目や2日目は「つま先を水につけて冷たすぎるかを調べるようなもの」。でも、3日目は「水に飛び込む準備ができている人が多い」とペネベーカーはいいます。

書いているときに自分の抱えている感情に驚いたことはあったか、3日間の間にワークから離れている間に、新しい考えや感情の発見はあったか。どんな問題がもっとも重要なものとして浮かび上がってきたのかを考えながら、またワーク後のアンケートに答えていきます。

□4日目

4日目も大きく行うことは変わりません。20分間、出来事について感じた感情や考えを書き続けます。

人生でおこった動揺する経験から何を学び、何を失い、何を得たのか。この経験によって将来はどう変わりそうかなど、時間軸を長くとって出来事を探索してみてください。

最終日である今日は、全体の経験を意味のあるひとつの話(ストーリー)にまとめられるようにしてみるとよいでしょう。終わったら、またアンケートに答えます。

どのように書けば効果が高いのか

最初に書いたような効果を生み出すためには、書き方にも一工夫が必要です。書籍の後半では、効果的に”書く”ためのミニライティングワークがいくつか紹介されています。

①自己批判的にならない

正しく書かなくてはいけない、〜〜な出来事や感情については書いてはいけないといった自分への「規制」がある場合、効果は生まれづらくなります。ありのままの感情を書くために、ペネベーカーは心のなかの「検閲官」の存在に気づき、なくしていかなくてはならないといいます。

●紹介されているライティングワーク
・意識の流れライティング
・半自動ライティング

②つらい出来事のなかに肯定的な側面を見出す

つらい出来事について悲観的に何日間も書き続けるだけでなく、結果として人生にどのような影響をあたえたのか、少しでも肯定的な側面を見つけ出して書いていくことが大切だといいます。否定的な感情を押し込めたり、自分の本当の感情に嘘をついて明るく振る舞う必要もありませんが、両方の側面から出来事をとらえていくことが大切です。

●紹介されているライティングワーク
・時折生じる肯定的な感情を見つけるライティングワーク
・動揺に利点を見つけるライティングワーク

③自分の経験について物語をつくる

研究によれば、バラバラで断片的な出来事を意味のつながった物語にすることにより、その出来事から受ける負の側面は小さくなっていくそうです。

物語というと小説を書くといった難しく行為に聞こえるかもしれませんが、話につながりのある一連のストーリーをつくることと考えてもらえればいいと思います。

●紹介されているライティングワーク
・物語を書くためのライティングワーク
・物語を書いて編集するためのライティングワーク

④視点を変えて、書き続ける

同じ視点から同じことについて書き続けていてもあまり意味はありません。それよりも違う側面から毎回焦点をあてて書くことによって効果がでやすくなります。例えば、一日目に自分の感情に焦点をあてたら、次の日は出来事の全体像や、自分以外の他者から見るとどのように見えるかについて書いてみるなど、少しずつ焦点のあてかたを変えてみることが大切です。

●紹介されているライティングワーク
・一人称で書くライティングワーク
・三人称で書くライティングワーク
・全体像と自分からの視点、他者からの視点を行き来するライティングワーク

筆記療法についてのおすすめの本

いかがだったでしょうか。最後に筆記療法についてのおすすめの本の紹介です。こちらが今回のnoteの情報が書かれている本。

原著はこちらです。

こちらは研究結果などをまとめた学術書。少し難しいので、もう少し詳しく効果や研究の蓄積について知りたい人におすすめ。

次回は、わたしが上記のワークをやってみた感想についてまとめたnoteも書こうと思います。

書いて自分を癒す「#こころのケアライティング」について発信してます。興味がある方はぜひご覧ください。

※おまけ(最近読んでいる本)

私が所属している編集デザインファームインクワイア代表のモリジュンヤさんが教えてくれたこちらの本。


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