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続:エディトリアル演習 #003 【心】デザインの心技体

「続:エディトリアル演習」がどんなことを伝えていくのか、早めに様子を知ってもらうためにも#001#002では即効性のある技術的な内容をお伝えしました。今回は技術から少し離れて、インプットのための分類の話です。

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#000でも書いた通り、そもそも私が受け持っていた演習はAdobe Illustratorの技術を伝えるためではなく、エディトリアルを通してデザインと向き合ってもらうための授業です。そのためにも、技術も追いつかず日々の課題に追われる生徒に、デザインと向き合ってもらいやすい土壌を用意する必要がありました。

学生にとって新しい情報がどういった効能を持ち、どんな肥やしになるのか。それらを学生自身が理解し能動的に取り組んでもらためにも、極力簡単で馴染みのある分類で、伝えるべき情報を区分けしました。

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心技体。誰もが一度は聞いたことがある分類だとは思いますが、この3つの軸によって、デザインと向き合うための指針が生み出せるのではないかと考えました。

心技体を持ち出すことにある種の体育会系的古臭さを感じずにはいられなかったのですが、私が幼少期に空手をやっていたので馴染みがあったことも手伝い、この3つの分類をエディトリアル演習に当てはめて生徒に伝えた上で授業に取り組みました。3つの分類の要点はそれぞれ以下の通りです。

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心構え・作業スキル・目利き。これら3つを心技体の具体として、それぞれの分類を説明していきます。


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【技】 Adobe Illustratorを中心とした作業スキル

順不同になりますが、すでに記事を書いているのでまずは【技】から。さて、みなさんが普段の生活の中で、最も上手に扱える「道具」は何でしょうか? 箸、スプーン、靴、包丁、スマートフォン —— 身の回りには様々な道具があり、それを活用することで日々を便利に過ごしています。では、プロフェッショナルにおける道具とは何でしょうか。大工にとっての鉋、美容師にとっての鋏、タクシー運転手にとっての自動車など、プロフェッショナルとして仕事をする上で道具はかかせないもの、そしてその道具をきちんと扱えることが、一人前の証でもあります。

では、デザインに携わる上でのプロフェッショナルな「道具」とは何でしょうか?鉛筆一本で偉大なアイデアを産み出す人もいるでしょうし、粘土さえあれば素晴らしい造形をつくることができる人もいると思います。しかしながらグラフィックデザイナーとしてのプロフェッショナルにとって、(少なくとも2020年現在は)Adobe Illustartorなどの描画ソフトでの作業が業務の大半を占めています。

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鉋を上手く扱えない大工、鋏の扱いに不安を覚える美容師、運転が下手なタクシー運転手。そんな人たちに仕事を依頼したいと思えるでしょうか。もちろん、道具の巧拙を超えて素晴らしい仕事をする人も沢山いますが、そうした方々には道具を超越できるだけの非凡な何かが備わっていることがほとんどです。

非凡な才能に人生を賭けてみるものももちろん大賛成ではありますが、まずはプロフェッショナルとして社会で生き抜くために、自分がこれから長年扱うであろう道具をきちんと理解し使いこなすことは、決して無益なことではないと思います。

ちなみにプロテニスプレイヤーは、ラケットの先端まで自分の神経が届いているような感覚でプレイできると聞いたことがあります。人と道具の関係が密に繋がると、道具は身体の一部となっていくのだと思います。ギタリストが心地よく歌を歌うようにソロギターを奏でるのも、まさに道具と身体が一体になっている様子そのもののように思います。

道具を上手に扱うということは、自分の身体性を拡張することです。デザイナーとして、どんな身体を拡張するべきかを考えた上で日々を取り組んでいくことで、心技体の「体」が成熟していくのだと思います。


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【体】 解像度の高い目利き

「目が肥える」と表現する日本語の奥ゆかしさが私は好きですが、ではデザインにおける「目が肥えた」状態とは何か。デザインという広義で奥深い世界においては目利きという概念すらも危うい気がするので、ここでの目利きはエディトリアル演習においての目利きに限定してお話します。

エディトリアル演習の授業で達成したい目標のひとつは「情報を整理し、正しく理解しやすいレイアウトができるようになること」です。ただ手が動かせて「なんとなく」レイアウトができるのではなく、しっかりと情報を整理した上で、情報を伝える意志のあるレイアウトができること。そのためには、レイアウトの良し悪しに気づけるようにならなくてはなりません。

きちんと違和感に気づけること、そして改善するためにどうしたら良いかが判断できること。そうしてレイアウトの良し悪しに気づき改善し続けることで、さらに目利きは深度を増し、最終的には細かな文字間などのディティールにも目が届くようになると思います。

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私自身、そこそこレイアウトができると自負して入社した個人事務所で、あまりのレベルの違いに衝撃を覚え、必死に食らいつきながらボスや先輩から沢山の目利きを教わりました。一朝一夕で身に付くものではありませんが、自分が学んだ目利きの一部を伝えることで、エディトリアル演習を1年半履修した生徒は確実に解像度が上がっていたと思います。

解像度が上がりすぎて、とある生徒から「カラオケのテロップの文字詰めが気になるようになってしまった」と報告がありました。私の場合は「街中のすべての車のナンバープレートの文字間が気になる」という若干パニック障害に近い症状がでた時期がありました。そこまできたら、頑張りすぎです。さすがに休んだ方が良いと思います。

とはいえ、目利きは粘り強い検証と様々な経験値を経て徐々に備わっていくもの。常に自分の目をアップグレードし続ける貪欲さを、心技体の「体」で会得してもらえればと思っています。


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【心】 デザインに向き合う際の心構え

最後に心。これは言わずもがなだと思いますが、デザイナーとして、どうデザインと向き合うか、どう仕事と向き合うかを伝えていきます。デザインが仕事になるということは、デザインに対価が支払われるということ。当たり前のことかもしれませんが、よくよく考えてみると改めて凄いことだと思いませんか。自分が生み出したモノが誰かに喜ばれ、対価に変わる。そんな奇跡のようなことが続いて私も今日まで生き延びています。

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ものづくりも結局は人と人。自分がつくったデザインを上手に活用してくれる人もいれば、ぞんざいに扱われてしまうこともある。それらは総じて相手とのコミュニケーションの取り方や、自分が取り組む姿勢が影響しているような気がしてなりません。

データの作り方、メールの書き方ひとつとっても人柄は現れます。対面で話す機会が極端に減ったこの状況なら尚更、どういう心構えで仕事に向き合っているかが大事になってくるのではないでしょうか。世界が大きく変化し、ごまかしの利かない時代がこの先にやってくるかもしれません。私自身の心構えに対しての自戒も込めて、改めて心技体の「心」をお伝えしていきたいと思います。


以上、心技体の3つの分類をお伝えしました。

この心技体をバランスよく育てることで、ただ単に時短作業スキルが上がるだけでなく、「解像度の高い目利きを持ち、しっかりとした心構えのもと、素早く正確な作業ができる」という状態を目指します。

noteの記事にも、タイトルに【心】【技】【体】の分類を記載した上で投稿していきます。この3軸は順不同に出てくることになると思いますので、タイトルを見た上で取捨選択し、不要であれば読み飛ばしていただければと思います。(もちろん一生懸命書いているので全て読んでくれることを切に願っています)

では今日はここまで。読んでいただきありがとうございました!

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グラフィックデザイナー。千葉大学文学部行動科学科にて心理学を専攻、研究の一環で調べたグラフィックデザインに興味を持ち方向転換。卒業後、数社のデザイン事務所にて実務経験を積み、株式会社ヴォル、株式会社佐藤卓デザイン事務所を経て2013年に独立。 www.okamotoken.jp

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