見出し画像

コロナ禍で厚生労働省の発表した“3密”を真言密教が批判しないのはなぜか

(約1400文字・購読時間1分50秒)

 政府の発表した“3密”は既知だが、密教にも“三密”という言葉があることを知っている人もいるだろう。一部で「3密と軽々しく言うな、高野山は文句を言わないのか」という意見がある。“3密”とも表記される“3つの密”は2020年の新型コロナウイルス感染症拡大期に集団感染防止のため総理大臣官邸・厚生労働省が掲げた標語である。
1.密閉空間(換気の悪い密閉空間)
2.密集場所(多くの人が密集する場所)
3.密接場面(間近で会話や発声をする密接場面)
以上、密閉・密集・密接を避けるよう日本全国に要請している。厚労省の“3密”と密教の“三密”の意味と利用について考察する。

 仏教は成仏を目指す、すなわち悟りを開いて仏様になることが目的。民衆を救い、密教を広めるために尽力した空海こと真言宗の宗祖・弘法大師が伝えてきた密教の教えとは密教以外の仏教、顕教と対比することにより明確にしている。顕教では悟りに到達するまでに気の遠くなるような時間を要するとしているのに対して、密教では今ある肉身のままで生きたまま、この身で仏様になる直ちに悟りに至ることができる即身成仏を説いた。
 真言密教の修行を三密の行といい、修行が目指すものを加持という。“三密”は、仏教では、生命現象はすべて身、口、意という三つのはたらきで成り立っていると説く。顕教では、人間のこれら三つのはたらきは、煩悩に覆われ汚れているということで三業と呼んでいるが、法身である大日如来を宇宙の根源的な生命力とみなし、森羅万象を大日如来の現れと説く密教では、人間の三つのはたらきも大日如来の現れであるから、本質的には人間も大日如来と同じであるとしている。ただ、大日如来のはたらきは通常の人間の思考では計り知れないということから、密なるものという意味で“三密”と呼んでいる。
三密の修行とは、
・身密 からだ・行動の教え
・口密 ことば・発言の教え
・意密 こころ・考えの教え
この三密を大事に修行を重ねてゆくことが真言宗の根本である。
 一方、コロナ禍で広まっている“3密”とは日本における新型コロナウイルスの集団感染が起こった場所に、前記の3つの密が共通となっているということが分かり、新型コロナウイルス感染症の感染拡大を出来るだけ防ぐためを避けるためにもこの“3密を控えるようにすることを求めた。英語版と中国語版も作成しており、英語版では“Three Cs(Closed spaces・Crowded places・Close-contact settings)”、中国語版では日本語版と同じく“3密(密閉空间・密集场所・密切接触场面)”とし、世界中で認識されるに至っているとの認識を述べ、日本モデルの対外への効果も目的とされた。
 このように、政府が発表したのは“3つの密”であり“3密”は略表記であるうえ、英数字の3を使っているため、密教の“三密”を知った上で語呂の良さを利用し“3つの密”を標語として掲げたと推測する。また、裏で真言密教側と打ち合わせ“3つの密”の利用に関して話しをしている可能性も否定できない。
 どちらにせよ民衆を救うために尽力した空海、そして仏教の本質を考えれば、言葉尻を捉えて異を唱えるよりも、民衆の生命を守る事に繋がる“3つの密”を避ける意の“3密”を避ける事を広めた方が良いと考える。

いいなと思ったら応援しよう!