深読み JOKER(ジョーカー)㉗「MANIC STREET PREACHERS ~Everything Must Go~」
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2019年12月X日
パリ、モンマルトル
深読み探偵学校フランス校
『JOKER』の冒頭シーンで、ラジオニュースの次に来るもの…
「EVERYTHING MUST GO」だ。
あっ…
MANIC STREET PREACHERS(マニック・ストリート・プリーチャーズ)のミュージックビデオ…
アーモンドの木を守っていた「鉄の柱」と「ブロンズの壁」…
そーゆーこと。
これはいったい…
ふふふ。そんじゃあ『JOKER』冒頭シーンの後半を見て行こうか。
「EVERYTHING MUST GO」にまつわる場面を…
「ゴミ収集のストライキ」の次のニュース「暖房用の燃料価格高騰」を聞いたアーサーは突然真顔になった。
そして軽快なラグタイム・ピアノの演奏が流れて、ゴッサムシティの繁華街が映し出される。
Henry Lodgeというピアニストの『Temptation Rag(誘惑のラグ)』という曲でしたね。
この映画は何から何までオカシイことだらけだ。
時代設定は「1981年」なのに、流れる音楽は全然「1981年」っぽくねえ。
通行人に立ち止まって欲しいなら、あんなカビの生えたようなラグタイムじゃなくて、普通はその時に流行っている曲を演奏するだろ?
「1981年」なら、クインシー・ジョーンズの『愛のコリーダ』とか、クリストファー・クロスの『Arthur’s Theme(ニューヨーク・シティ・セレナーデ)』とか…
なぜ『JOKER』の冒頭シーンには、あんな古臭いラグタイムが流れたのでしょうね?
その理由がわかりますか?
おそらくトッド・フィリップスは、本当はこのラグタイムを使いたかったはず…
だけどこの曲を使うと色々とバレてしまうんで、似た曲を使った…
THE JAPANESE SANDMAN? 日本の睡魔?
ははは。奇妙なタイトルだろ?
だけどこの曲、どこかで聞いたことあるような気がする…
『THE JAPANESE SANDMAN』は多くの映画の中で使われているわ。
たとえば最近だと、テリー・ギリアムの『The Imaginarium of Doctor Parnassus(Dr.パルナサスの鏡)』ね。
ああ、これだ。ショーの時のBGMで流れていた。
それにしてもなぜこの曲は多くの映画で使われるんだろう?
「日本の睡魔」なんて変テコリンな題名なのに…
『Dr.パルナサスの鏡』ではインストになっていたが、あの曲には歌詞もある。その歌詞の中にトリックが仕掛けられているんだよ。
単刀直入に言うと、歌の中の「日本」は全部嘘、ダミーなんだ。
ダミー?
舞台を「日本」に偽装して「別の場所」の話をしている。
その筋では有名なトリック・ソングなんだな。
日本の歌に偽装して別の場所の話を?
いったいどういうことなんだ?
この件については、また後でたっぷり話そう。
あのオバハンにも関係する話だから。
あの保健福祉局のソーシャルワーカーと?
そんじゃあ話を「EVERYTHING MUST GO」に戻すぞ。
アーサーが宣伝している楽器店「KENNY'S MUSIC SHOP」の隣、画面右下には大きく「PUERTO RICO」と書かれた広告が見えた。
この場所からアーサーの方へプエルトリコ系っぽい5人組のガキどもが歩いて来る。
映画『JOKER(ジョーカー)』の最初の「セリフ」は、そのプエルトリコ系の不良少年たち…
ピアノの伴奏に合わせて踊るアーサーの「靴」が映し出され、彼らがその「靴」に注目することから始まる…
あのガキどもは、こんなことを言っていた。
「Yo, what's up with your shoes, bro?」
「Nice outfit!」
「You gotta be a clown, at least you could be a good one. You know that, right?」
「よお兄弟!その靴はどうした?」
「ばっちり決まってるじゃん!」
「お前は道化になれるぜ。少なくとも善い道化に。わかってるよな?」
くつ? なぜ靴の話?
決まってるだろ。映画において重要だからだよ。
最初のセリフで言及される「靴」は、あの謎のオチを読み解くための重要なキーワードだ。
そうなの?
まあ、この話もまた後でたっぷりするから心配すんな。
まず今は冒頭シーンだ。
アーサーから「EVERYTHING MUST GO」のボードを奪ったガキどもは、ゴミの山だらけの街の中を走って逃げる。
ラジオのニュースで言っていた通りの光景が広がっている。ひどい有り様だ。
ガキどもはアーサーを人気のない裏路地に誘い込み、そこで待ち伏せをしていた。
ボードで思いっきりアーサーの顔面を叩き、みんなでボコボコに蹴りまくる。
そして不良少年たちは逃げて行った…
ひどいオープニングだよな…
うふふ。ウケるわね(笑)
えっ?
マドモアゼル・ハナガサの言う通り、ここは笑うとこ。
アーサーの一発目のジョークだからな。
ジョーク?
路地裏で倒れているアーサーの上に「JOKER」という文字が表示され、次の瞬間、アーサーが大爆笑している。
なぜなら彼はジョークを言う人、ジョーカーだから。
どういうこと?
「Goodbye window」こと「God be with you window」ですよ。
あの裏路地にもあったでしょう?
はい… 路地の奥の方に「十字架」がありましたが…
これはアーサーのとっておきのジョークだ。
マレー・フランクリンSHOWという憧れの大舞台に出演した時も、このジョークを披露した。
”What do you get when you cross a mentally ill loner with a society who abandons him and treats him like trash?”
そしてアーサーはこう叫んでマレーを射殺する…
"I’ll tell you what you get!"
「何が見えるか教えてやろう!」
笑うどころかドン引きだ…
そう?ここも笑うとこだけど。
え?
このジョークには2つのオチがある。
2つ?
「○○と✕✕を掛けたら何になる?」とか「○○と掛けて✕✕と解く、その心は?」みたいな「謎かけ・判じ物」を、英語では「riddle」というの。
だけどこの「riddle」という単語は、動詞として使うと意味がまったく変わるのよね。
全く意味が変わる? どんな意味になるんですか?
「弾丸で穴をあける」という意味よ…
ええっ…
そして「○○と✕✕を掛ける」という「謎かけ」は「criss cross(クリスクロス)」とも呼ばれる。
「キリストの十字架」という意味だな。
アーサーがマレーに言ったジョークの、もうひとつのオチだ。
What do you get when you cross a mentally ill loner with a society who abandons him and treats him like trash?
精神的に病んだ孤独な人と、そんな人を見捨ててゴミのように扱う社会を掛けたら、あんたには何が見える?
精神的に病んだ孤独な人とはアーサーのこと…
そして街に放置されていたゴミの山…
それがクリスクロスした時、見えたのは「十字架」だ…
そーゆーこと。
ラジオのニュースで「街の中にゴミが大量に放置されていて困る」という声を聞いたアーサーがニヤリと笑ったのは、このアイデアを思いついたからだな。
そして保健福祉局のソーシャルワーカーも「十字架」を背にしていたから、余計に爆笑が止まらなくなった…
だな。
そして「EVERYTHING MUST GO」から「JOKER」のタイトルまでの流れも、Book of Jeremiah、エレミヤ書に基づいています…
またエレミヤ書に?
あたりめーだろ。
何のために『JOKER』とマニックスの『EVERYTHING MUST GO』の話をしてると思ってんだよ。
でもエレミヤ書に「十字架」そのものは出て来ないだろ?
出て来るのは「アーモンドの木」だけだったはず…
だからおめーは甘ちゃんだって言われんだよ。
エレミヤ書を舐めんな。
え?
つづく
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