映画のトリセツ:中編『RAISING ARIZONA(赤ちゃん泥棒)』徹底解剖2
さて前回に引き続き、ドット&グレン夫妻の訪問シーンを解説していこう…
このシーンは映画『RAISING ARIZONA(赤ちゃん泥棒)』を理解するための「トリセツ」的役割になっていて、ストーリーを順を追って解説する前に、まずこちらから説明しておく必要がある…
ちなみに前回はコチラ!
このシーンの登場人物はこの二組の夫婦や。
動画も見といたほうがエエな。
前回は、寝室での女性陣二人による会話を解説したね…
今回は居間での男性陣の会話だ。子供たちが大暴れしている中で、ハイとグレンはビールを飲みながら言葉を交わす…
ハイ「ビールでも飲む?」
グレン「ローマ法王は変な帽子を被るか?」
ハイ「はいはい…君はおもしろいよ…」
グレン「そうだ!思い出した!電球1つをねじ込むのにポーランド野郎は何人必要だ?」
ハイ「さあ…。1人かな?」
グレン「いや、3人も要るんだ(笑)」
ハイ「・・・・・」
最悪やな、こいつ。
全然意味がわからない…
教皇?ポーランド?どゆこと?
最初のジョークは、いわゆる「YESを言わせるフレーズ」ってやつだね…
招待客に対して「ビール飲む?」という質問は愚問だ…
客からすると「おいおい、そんなこと聞くなよ。出すのが当然だろ」って感じだからね…
グレンはハイの愚問に対して普通にYESって答えたくないから「教皇の帽子ネタ」で返した…
ローマ法王って、こんな帽子を被るからね…
ヨハネ・パウロ2世(1920-2005)
ああ、これね。見たことある。
そしてこの映画が公開された1987年当時のローマ法王は、ポーランド出身のヨハネ・パウロ2世だった…
だからグレンはわざとらしく「思い出した」と言って「ポーリッシュ・フーリッシュ」のジョークを始めたんだ…
ポーリッシュ・フーリッシュ?
19世紀中頃から20世紀中頃にかけてアメリカへやって来た「遅れて来た移民」であるポーランド系を馬鹿にしたジョークだよ…
ポーランド系移民のほとんどはコネも何もない貧しい農民だった。だから彼らは地縁血縁による集団を形成し、複数の家族がまとまって住むような濃厚なコミュニティをアメリカ各地に作ったんだ…
彼らは低賃金の肉体労働に就き、コミュニティ内ではポーランド語を使い、ポーランドの農村と同じような生活をしていた。アメリカ社会のあちこちに、プチ・ポーランド村を作っていったんだね…
しかも彼らはアメリカでは少数派のカトリックだった。先にアメリカに渡っていたカトリック教徒であるアイルランド・スコットランド系やイタリア系とも混じらず、彼ら独自のカトリック教会を作ったんだ…
そんな彼らのスタイルがアメリカの多数派であるWASP(アングロサクソン・プロテスタント)から見ると奇異に映った。「俺たちの社会に適応できない時代遅れの愚か者」とね…
そして第二次世界大戦後の共産主義への嫌悪感も相まって、彼らポーランド人を馬鹿にするジョークがいくつも作られるようになったんだ…
なるほど…
ちなみに何で電球を替えるのに3人も必要なの?
ひとりが脚立の上で電球を持ち、他の二人が脚立を回転させるんや。
くだらねー(笑)
ドリフのコント「ばか兄弟」かよ。
マルクス兄弟の映画みたいだよね…
ちなみに映画のセリフでは「screw up(ねじ込む)」が使われている。本来のジョークでは「change(交換)」なんだけどね…
これはグレンの頭の中が「screw(性交)」でいっぱいなことを表している…
ついでに言っておくと、ハイを演じるニコラス・ケイジのお母さんはドイツ・ポーランド系の人だ…
お父さんは有名なコッポラ・ファミリーだからイタリア系。つまり両親ともにカトリックだね…
カトリックでポーランド系の血をひくニコラス・ケイジにあんなことを言うなんて…
コーエン兄弟、きっついな…
あいつらドSやろ…
前作『ブラッド・シンプル』でも、ユダヤ人を馬鹿にする自虐的ジョーク連発やった…
さて、グレンとハイの会話を続けよう…
グレンは「ポーランド人と電球」ジョークにハイが嫌そうな顔をしたので、調子に乗ってさらに畳み掛ける…
グレン「ちょっと待て。間違ったかも。やり直させてくれ…。どうして電球1つねじ込むのにポーランド野郎が3人も必要なんだ?」
ハイ「さあね、知らん」
グレン「だって奴らは救いようのない愚か者だからさ(爆笑)」
ハイ「・・・・・」
グレン「おいおい、ちゃんと聞けよ!まさか意味わかんなかったとか?」
ハイ「ああ、全然…」
オイラにも全然わからないよ!
グレンの意図も、コーエン兄弟の意図も!
つまらん上に、しつこ過ぎやろ。
そうじゃないんだな…
意味も意図も無いどころの騒ぎじゃないんだよね…
グレンによる「法王の変な帽子」と2つの「電球とポーランド人」のジョークは…
全て「エドのこと」を言ってるんだ…
へ?
<続きはコチラ!>
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