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【不登校・登校しぶりインタビュー】登校をしぶる子どもの送迎に疲れていたママが、自分と子どもに花マルをあげられるようになった話

「柱にしがみつきながら『いやだ。学校行きたくない』と泣きさけび、それはもう大変な状態でした。ギャーギャー泣いている背中を引っぱり玄関から突きとばし、急いで扉をしめる、といった感じです」
 登校しぶりがはじまった日のことを、飾らない言葉で話してくださったのは渡辺ひろ子さん。二人の男の子のお母さんです。
 長男くんが小学校に入学してまもなく、お友達との小さなトラブルをきっかけに、ゴールのみえない登校しぶりと闘う日々がはじまったのだといいます。現在小学5年生になった長男くんの歩みとご自身の葛藤を、包みかくさず語ってくださいました。

登校しぶりの長男につきそう毎日がはじまった

 当時の日課はつきそい登校。毎朝7時40分には家をでて長男と一緒に登校していました。朝ご飯の片付けもできないまま4歳下の次男を起こして抱っこひもに入れ、途中で食べさせるパンとバナナとお茶をリュックに放りこみ、バタバタと家をでていました。

 夜になると「明日行きたくない」がはじまり、朝は泣きわめいて登校を拒否。長男を引きずるようにしてあるいていると旗当番のママに挨拶され、恥ずかしさと情けなさでいっぱいになりました。
 やっとのことで学校につくと、今度は「帰らないで」と泣きべそ。教室のうしろに席が用意され、背中に次男、ひざに長男をのせて授業を見学していました。休み時間になると「帰る」といいだす長男を「もう1時間がんばってみたら?」と励ましながら半日以上学校で過ごす。これがわたしの日常でした。

 ポンポンとものがいえない長男は些細なことで傷ついてしまい、途中で帰ることも度々ありました。生まれたときから繊細で、布団に降ろすと起きてしまったり、抱っこしていないと泣いてしまったり。黄昏れ泣き、激しいイヤイヤ期、幼稚園では登園しぶり。人見知りで怖がりで、砂場に連れて行けば手に砂がつくのを嫌がる……等々、戸惑うことばかりで、わたしを困らせるために生まれてきたのではないかと思ってしまったこともあります。

 なんでうちの子は他の子のようにできないんだろう。
 なんでこんなに弱い子なんだろう。
 わたしがこんな性格だから?

 学校から戻り、汚れたままの朝ごはんのお皿をみると泣けてきました。昔からわたしは自分に自信がなく、自己肯定感の低いタイプです。ですから毎日自分を責めて、朝がくる前に家出してしまいたいと何度も思いました。

行かせる、休ませる、どちらが正解?

 登校しぶりがはじまって以来ずっと悩んでいたのが「引きずってでも学校につれていく」べきか「休ませて見守る」べきかということでした。不登校の専門家、スクールカウンセラーさん、脳科学の先生、とさまざまな方に相談しましたが、三者三様、意見がパッカリわかれたのです。
「無理に行かせても意味がないですよ」という意見もあれば、「つきそって通ってください」という意見もありました。「長男くんは学校にきてしまえば、しっかりできています。泣いてもわめいても、決まったところで別れるようにしてください」とおっしゃる方もいました。

 これだと信じられる方針をみいだせないまま一緒に登校しつづけたのは、長男の性格を考えてのことです。長男は一つ一つ体験して安心していくタイプに思え、休ませてもうまくいかないような気がしていました。
 とはいえ、本当はつきそい登校がいやでいやでたまりませんでした。「今日は〇〇のところでバイバイするよ」などと目標を設定するものの、その場所で涙をためて立ちつくす長男を放っておけず、結局は学校まで一緒に行く、という不毛なパターンをくりかえしていたのです。

 進展がないまま2ヶ月ほど過ぎたころ、東ちひろ先生が主宰される子育て心理学協会で「ココロ貯金」というメソッドの無料カウンセリングがあり、うけてみることにしました。そこでカウンセラーさんにいわれた一言に、衝撃をうけることとなったのです。

とことんつきあおうと腹を決めた

「お母さんが離れようとすればするほど、お子さんは離れてくれないかもしれません」
 雷に打たれたような衝撃でした。そして、
「腹をくくってつきそった方が近道かもしれません」
 というアドバイスをうけとめ、「もうつきそわなくていい」と長男がいうまでは、とことんつきあおうと腹を決めました。また長男がぐずぐずいう言葉も、なるべく否定しないで聴こうと心がけるようになりました。

「明日学校やだ」
 夜寝るころになるとめそめそと泣きごとがはじまります。
「ぐずぐずいってないで楽しいこと考えようよ」
 以前のわたしはこのような助言をしていました。前向きになってほしいとの思いからでしたが、このような言葉はグッとこらえることにしました。そして
「やだよね、あした月曜日だしねぇ」
 と寄り添い、説得するよりも気持ちを聴こうと努力しました。

 つきそい登校のときの関わり方も変わっていきました。
「今日の給食はカレーだね」
 などと、どうせつきあうのなら楽しくおしゃべり。それから、
「今日はどこまでつきそう?」
 と別れる場所は長男に決めさせることにしました。

 長男のペースを尊重するようになると、不思議なことが起こりました。少しずつ、つきそいの距離が短くなっていったのです。「教室まで」が「昇降口」や「校門」になり、ときには「クリーニング屋まででいいよ」などといいだすこともありました。

 小さな好転を糧にして、こちらにいけば出口があると信じ、暗闇を進んでいくような心持ちでした。腹をくくったとはいえ、どうしようもなく気分が落ちこむ日もあります。一度は「クリーニング屋」で別れられたのに、再び「教室まできて」に戻ってしまうこともありました。長男をおくった帰り道、家までの長い坂をのぼりながら、抱っこしている次男にしがみついて涙を流した日もありました。

 また、同じような立場のママがまわりにいないことも、さみしさの一因だった気がします。
「えらいな。わたしにはとてもできないよ」
 こういった励ましの言葉が
「甘やかしすぎじゃない? わたしならそんなことはしないけど」
 といわれているような気がしてしまいます。勝手な被害妄想で、
「好きで毎日おくっているわけじゃない」
 と孤独を感じたこともありました。

 そのような気持ちの浮き沈みはありましたが、少しでも長男が前向きになるようにと、わたしなりにさまざまな工夫をしました。
 これは効いたなと思うココロ貯金は、夜のイチャイチャタイムです。寝る前の約15分、お布団の中でくすぐりあいっこをしたりして触れあいます。家事も一段落していて、わたしもゆったりとした気持ちで子どもたちに向きあえました。ご機嫌で眠りにつくと、そのご機嫌は朝までもちこされます。すっきりと落ち着いた気分で目覚められるようでした。
 また、筆箱の中に毎日ちょっとしたクイズをしこんでおいたこともあります。「学校についたらあけてね」と伝えておき、一人で学校に行けた日の「お楽しみ」にしました。

 どうにかこうにか過ごしていくうちに「迎えにはこなくていいよ」「今日は玄関から一人で行ってみようかな」などというようになりました。2年生の秋にはお友達と登校できるようになり、些細な出来事でぐずぐずいう機会も減っていきました。

どんな子も花マル

 この春、長男は5年生になりました。毎日元気に学校に通っています。お友達もたくさんできました。
 先日、宿泊体験学習というお泊りの学校行事がありました。あんなに親のそばを離れなかった子が指折り数えて待ちわびて、3日間の行事を満喫して帰ってきました。宿泊体験のしおりを「宝物にするんだ」といって大切にしています。
 成長したなあと、その姿を感慨深く眺めていました。長い目でみて伴走すれば、ゆっくりその子なりの花がひらいていくのですね。
 今や長男は、学校では困っている子をサポート、理科のテストではクラスで一人だけ100点をとる偉業も成し遂げ、少々のことではへこたれない情緒の安定した子に育っています。宿題はいわれなくても自分でやります。保護者面談では先生に「〇くんの悪いところが見つかりません」とまでいわれました。

 以前のわたしは怒ったり、嫌味をいったり。ほめるなんて、とてもとてもできませんでした。今は、わたしがしてほしいことをできないからといって叱るかわりに、ほんのちょっぴりでもできたところをほめて、認められるようになりました。
「1時間しか学校にいられなかった」は「1時間は学校にいられた」ということです。
「わたしと一緒でないと学校にいけないダメな子」ではなく、「わたしがつきそえば学校にいけるがんばっている子」です。

「学校に行かせること」よりも、「自己肯定感を高い子に育てること」の方が100倍大事
正解がわからず迷っていたわたしに、ちひろ先生だけが、休むか行くかだけではない方法——寄り添いながら背中を押す方法を教えてくださいました。感謝しかありません。

 ココロ貯金に出会えたことで、がんばり屋の完璧主義で自分と子どもの首を絞める子育てとさよならすることができました。そして、どんな私にも花マルをあげよう、子どものどんな姿も受けいれよう認めようと思えるようになりました。
 実をいいますと、この春1年生になった次男にも登校しぶりがあります。まるで4年前のお兄ちゃんをそのままコピーしてしまったかのようです。今でも悩むことはありますが、何をすればよいかがわかっているので、子育てにぶれることが少なくなってきました。すこしくらい遅れていく日があっても、「この子は大丈夫」と、どんと構えています。

ココロ貯金はお守り

「これからもずっと、ココロ貯金はわたしのお守りです」
 そうおっしゃったあと、ひろ子さんは今後の夢を語ってくださいました。
 子育て心理学カウンセラーとして、今後はご自身と同じ立場のお母さんを支えていかれたいとのことです。

 まっすぐな気持ちで前進されている姿がとても素敵で、インタビュー終了後もしばし余韻にひたってしまいました。

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