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2022年J2第2節 横浜FC-V・ファーレン長崎「意志のあるところに道は開ける」

驚きのセンターバックではなかった

岩武のセンターバック起用について、驚きを持って伝えられることが多いが、キャンプでは既にその起用は始まっていた。開幕したからもう時効だと思うので書くと、上富田で見たFKコバルト(大阪府社会人2部リーグ所属)とのトレーニングマッチは45分×2本、35分×2本の変則マッチだったのだが、2本目以降ずっと岩武は4バックでは右、3バックでは真ん中のポジションで起用されていた。開幕したリーグ戦と同じで、ソリッドなシステムではなく、ビルドアップではボランチと2枚でだったり3バック(とは言っても両サイドバックは開いたままのロンリーセンターバック)だったりと、動きながら流動的にポジションを取っていた。

またこのトレーニングマッチで岩武の出場時間の長さは、チーム内でも上位だった。経歴上右サイドバックでの出場がメインのはずが、ハンホガンを右サイドバックに置いて自身は真ん中でプレーしていたのを見てこれはひょっとするとと感じていた。

意地の張り合い

このゲームは、前線から積極的にプレッシャーをかける横浜と、それをかいくぐる様にロングボールを前線に入れる長崎の構図。ボールを蹴って、横浜のバックラインを下げさせて、セカンドボールを拾って3バックの空いたスペースを使って厚い攻撃を仕掛けたい。下手に繋ぐと低い位置でボールを奪われて逆にピンチを作る構図なのは、理解できる。横浜もロングボールを蹴ってくる想定をしていて、長崎攻撃陣を孤立させて自分たちがどう仕掛けるか。
前提と前提がかみ合ったゲームは狙いがはっきりしているので面白い。どっちが手を変えるのか、変えて優位になるのかならないのか意地をどこまで貫くかが一つの見所だった。

前線からのプレッシャーを止めず、セカンドボールを失っても耐えていると、低い位置から繋ごうと手を変えたのは長崎だった。しかし低い位置でのボール回しは左右にスライドするだけで、横浜は小川とヴィゼウが前線から相手のセンターバック2枚をマッチアップする形で追い、サイドに誘導する様にプレスを仕掛けてミスを誘った。

そこで生まれたのが横浜の先制点だった。前半26分、中塩が長崎・都倉へのラフなボールを奪うと手塚に。手塚は前線にいた小川にクロスを入れ、落としたボールを拾った齋藤はアングルを変えながら、左にいる高木にパスを出すフェイントを入れつつ左足を振ると長崎のゴールのサイドネット内側を貫いた。

後半サイドを作りなおしもう一度高い位置を取ろうとし、前線に圧力をかけてくる長崎に立ちはだかったのは岩武だった。エジガル・ジュニオを抑え、強靭なフィジカルを持つ都倉へのボールも遮断。身長が低い分、相手より先に体を入れる、切り返しについていく。
長崎の攻撃も前線目掛けて放り込むが、変化のない単調な攻撃では身長の低い横浜の守備陣と言えど崩しにくい。クリスティアーノをサイドに置いた事で彼がフィニッシャーでなく、クロッサーになった事で長崎の攻撃の迫力は低下した。前を向いたクリスティアーノの恐ろしさは、横浜サポーターなら昨年夏に豪快なミドルシュートを決められたことを知っているはず。

しなやかに

横浜は後半28分の選手交代で明確な4バックに変更。長崎のクロスを封じにかかる。今年の横浜のサッカーは後半15分頃から運動量が落ちミスも増える傾向にある中で、山下を入れてカウンターの要素を残し、安永を入れて中盤の運動量を確保。前線2枚は継続的に前線からプレッシャーを怠らない。

横浜は長崎のお株を奪うように長いボールを長崎の守備陣の裏に意図的にいれて、長崎陣内での攻撃の時間も増えていった。むしろ長崎の前線に長いボールを入れる事以上の引き出しや変化のなさの理由を考えていた。

長崎松田監督は「後半はそこをある程度徹底できて、CKのチャンスも増えた。」と語ったが、果たしてそこまでだろうか。FWに合わせる攻撃は、3人目の動きも少なく、わかっていても止められないレベルではなかったので対処もしやすかっただろう。長崎は選手交代をしても、前線からプレッシャーが高くなることもなく、3ラインは均等ではあったが、反面リスクを冒さない分だけ横浜は中盤でボールを捌くことができた。

試合はそのまま1−0で横浜が逃げ切り勝ち。開幕から2連勝となった。どちらのチームもFWが強いが、長崎は孤立し横浜は得点に絡んだ。長崎との違いは、FWのボールを誰が回収するのかが明確で、長崎は蹴った方が松田監督は優位と見ていたが、果たして本当だろうか。選手がその判断をしなかったのは、それが効果的でないと感じたからだと思う。指揮官が勝利の為に効果的な手段を執るのと同じく、選手も最初の見立てが通じなかった時にさらに効率の良い方法を探るのは仕方ない。ではなぜ上手くいっていないと感じたのか。中盤を飛ばしたことで厚みのある攻撃にならず、セカンドボールの回収で後手を踏み、中盤を飛ばして小川やヴィゼウに当てられることで下がってしまい自分達でボールを保持できなくなったからだ。高木が4バックに降りてきて、3バックのスペースを消したことで岩武、中塩のセンターバック2枚でチャレンジアンドカバーが成立してしまった。むしろ意地の張り合いならボールを繋ぐのが筋だが、それを長崎が避けたという事は、プレッシャーの掛け合いでは分が悪いと見ていたことになる。

虎穴に入らずんば虎子を得ず

この日の横浜は、相手が長いボールを蹴っても、低くから繋いでも前線からプレッシャーを掛けて長崎のボールを奪い返して優位に立った。どこかでリスクを侵さなければ勝利は得られない。悪い意味で相手をリスペクトした長崎と、リスクを侵しても自分達の道を選んだ横浜。自分達の道を貫いての完封勝利は格別だった。

とは言え、42試合の2試合終わっただけ。次節は、2019年横浜をJ1昇格に導いた下平監督と思い出深き野村がいる大分。それでも進まなければならない。昔はよかったではない。これからもっと良くする為に今がある。過去横浜にいた選手や監督を乗り越えていくのは、その引き摺られている過去を払拭する意味もあると思っている。戻ってこない過去を振り返っても扉は開かない。意志のあるところに道は開ける。横浜は前を向く。

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