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2023年J1第8節横浜FC-サンフレッチェ広島「春雨に」

それにしても横浜は雨に降られ続けている。J1リーグでいえば金Jとなったアウェイ湘南戦、京都戦、横浜ダービーのマリノス戦、ルヴァンカップのアウェイ名古屋戦の消化した10試合のうち計4試合が雨。この広島戦も試合開始前からザァザァと強い雨が叩きつけた。悪い影響を与えることを、影を落とすなどというが、横浜にとってはシーズンの約半分で雨が落ちている。ちなみに調べたら、横浜は雨に弱い。Jリーグ上のデータで天候別の成績が出ているが、雨天のゲーム(雷雨や雨のち曇りなどを含む)では大きく負け越している。伝統芸に近い。

ところが蓋を開けてみると横浜は雨のゲームでも広島相手に良い戦いをしている。開始早々に小川がゴールを決めたかに見えたが、その直前のプレーでカプリーニの手にボールが触れておりVARでゴール取り消しとなった。
それでも、横浜は広島の攻撃陣にゴールを脅かされながらもそれを跳ね返して、前線に良い形でボールが入った時には相手をヒヤッとさせるシーンを作り出した。ただ、近藤の裏への飛び出しは、広島の守備陣にしっかりとケアされこのクラスとの対戦では簡単に突破をさせてもらえなかった。左の小川慶次朗は連動性がなく、坂本に代わってスタメンとなったがその意図は感じとることができなかった。左サイドがほとんど活きていないのは、今シーズンの課題であるのだが、この試合でも解決するまでは見いだせなかった。
後半から新井を起用するのを見ていると守備のバランスの部分だが、相手の左サイドバックを誰がケアするのか決まっていないように見える。前節のマリノス戦は坂本がプレスバックせず、マリノス・山根に飛び出されVARで取り消されたが鮮やかなゴールを決められている。
攻撃でもその左のMFの選手を追い越して左サイドバックがオーバーラップするシーンもほとんどない。サイドに大きく開いて幅を使って、その先どうるのか。個人の能力での突破ばかりでは苦しい。守っている側からすると、どこで崩したいのか、どう点を取りたいのかがあからさま過ぎて読めている。見ている側も、最後はクロスなんだろうな、小川航基なんだろうなという展開の予想しか今はできない。意表を衝くのはカプリーニのミドルシュート位で、相手を脅かせないでいる。握りたいなら握らせておけばいい。その位の認識で相手はプレーしているのだろう。

社会的手抜き

社会的手抜きという言葉がある。人間の数が多くなればなるほど人は無意識のうちに手を抜いてしまう。鍵は無意識だということ。有名なのは、綱引きの実験で、人数が増えたら増えるだけ一人の出す力は弱くなる。サッカーでいえば、人数が揃っていても一人一人が出せる力は下がる。だから隙が生まれて失点を食らうシーンがよくある。後半4分の失点は社会的手抜きそのものだ。広島・越道に渡って広島のカウンターになるが、横浜は人数は揃っていたが緩慢な動きで広島に突破を許してしまう。広島・森島のミドルシュートをGK市川は一度は弾くものの、そのボールを再び拾われて広島・越道にクロスを上げられて、ペナルティエリア内に6人の選手がいたものの、飛び出してきた広島・東の動きを読めずにフリーでヘディングを許して失点。この一連の流れで、プロサッカーのレベルとは考えられないほどに緩慢な選手たちの動きが見られる。突破してくる相手に足だけ出すアリバイ守備、ミドルシュートの間合いでもブロックに行かない中盤、GKが弾いてまだフィールド内にボールがあるのに誰も回収にいかない、数的に少ない広島がゴールを挙げるのは簡単だった。

またこの失点シーンでは、三田が内側に当てに来る縦パスを読めておらず、林が仕方なくそこにケアにいくがもう一回外に回避された。その予測(越道→満田→越道)ができていると立ち位置をもっと外にとってコースを切りにいけるのだが、それをしないので林がまた外を後ろから追いかける始末。で、今後は林が外されてしまったので、内側の広島・満田に折り返されて突破を仕掛けられると外側を向いていた三田は右足を出すだけで交わされ、GK市川が弾き出したボールを林に拾いに行くよう指示を出すだけで対面していたナッシム・ベン・カリファにボールが入るかもと寄せることもなく文字通り立っていただけだった。
それとも穴をあけておいて奪う算段なのであればチームメイトと呼吸があっていないことになる。
三田のボール奪取のセンスは感じるのだが、連動した守備を感じない。チームとして、最後三田のところで回収させようとしているのか、そうではないけど彼の個人的な力で狩れる時があっただけなのか。

ひいては、三田のこの起用を許している指揮官にも問題がある。福岡戦の後半内容がよくなったのは、三田と井上のポジションを入れ替え、さらに三田を前に出したからでもある。つまり適正がよくないところに選手を当てているのはなぜなのかという疑問符が残っている。
サイドバックが相手のウィングバックやサイドMFと対面した時に、ボランチやサイドMFがどう守備をするのか整理されていないのか、されているけど出来ていないのかわからないが、曖昧なままだ。そうかJ1を戦う上でコーチングスタッフを充実させすぎるのも社会的手抜きが起こってしまうのかもしれない。

いつもの

ここから反撃に出る横浜は新井と長谷川を投入。横浜の交代のパターンは概ね決まっている。4-2-3-1の3の部分の3選手とボランチの1枚か2枚、時にトップ。システムを触ることはほとんどない。リズムは同じで左右のMFは基本的にドリブルで相手を剥がせる選手を置く。トップ下はテクニックがあってボールを保持できる選手。カプリーニが中央で機能するようになってからは、右は近藤と山下、左は坂本(この日は小川慶)と新井。カプリーニは長谷川と。これだけで3枠が決まっている。
やりたいことが明確なだけ、相手からも守りやすいだろう。いつも直球しか投げてこない投手がいたら、どんな剛速球でも打つのは容易い。
広島はエゼキエウを投入して横浜の中盤を分断。山下はボールを持って縦に行けなくなった。それを慮ってか中村から山下へのパスは激減。内に絞ってから左サイドへの展開か、中村から井上、井上から三田の見慣れたいつもの各駅停車の旅が広がってでは苦しい。
偽サイドバックで中村が上がった時には、一時的に3-3-3-1になるのだが窮屈でそこから一人飛ばして裏に、とか、2列目が小川航を追い越してみたいな動きがない。いつもの硬直したシステムでいつもの交代で何が起こるのか。
そして、起きたのはいつものオウンゴールだった。後半28分。右サイドからのクロスに対応したンドカ・ボニフェイスの投げ出した足にボールが当たり広島が追加点で0-2。11試合で4点目のオウンゴールとなった。さらにそれに気落ちしたのか、その3分後にも追加点を許して0-3とゲームの行方は決まってしまった。2点目で準備していたのだが、3点目の直後に3人目、4人目の交代を行うことになってしまったのは間が悪いといえばいいのか、ゲームの読みが甘いといえばいいのか。最下位チームのいつもの日常を見せつけられた。

春雨に

試合はそのまま0-3で終了。最後は長谷川をやや下がり目にして伊藤翔を前に置くような形を見せるも、大局はそのまま。広島のシュートはJ公式だと26本、スタッツはメディアによって異なるが30本近くを記録にしたところもあった。前半もシュートは許していたが、本当に危険なのは数本だった。後半は体力が落ちて広島の連動したサッカーに対応できず攻撃を受け続けてしまった。

春雨のやまず降る降る 我が恋ふる 人の目すらを 相見せなくに

万葉集

現代訳は、春の雨が止まずに降っていて私恋しいあの人に会わせようとしない。今一番恋しいのは、勝利の女神であるが、この雨でこの日も会うことは出来なかった。
8戦未勝利。2021年は広島に敗れて、8試合未勝利となり下平監督が解任となった。今のところそうした動きはクラブからもないが、同じシステムで同じような選手交代で、上がり目がないとは思わないが、立ってるだけの守備や失点するとガクンと落ちるメンタルをどう解消するのか。

昨年あれだけ勝てたのは、J2だったからだ。J1で通用するサッカーをと掲げてJ2昇格するのは至難の業で、それを横浜と同時昇格した新潟は何年もかけて築いてきた。J1で通用するサッカーを昨年掲げていたら、昇格できたのかは確信はない。春先にミシャ式で勝ち星を重ねていたが、対策されてもそれを貫いていたら果たして今J1にいただろうか。昨年いた選手がいたらと思う気持ちに理解はできるけど、昨年で離れた選手が今年のこのサッカーに適応できるかといえばまた別だと思う。思い出はいつも美しくなる。特に成功体験はいつまでも心に残る。最新の思い出を最も美しくする為に、私は前を向きたい。

遠距離恋愛は会えない時間が愛を育てるという。ならば、これだけ会えない時間が長い横浜は勝利の女神との関係は強くなるのだろうか。そろそろこの雨にも止んでもらいたいものだ。春雨に育むのは女神への愛もだが、チームの力も育まないとこのままでは本当に間に合わなくなる。


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