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2022年J2第9節ジェフユナイテッド千葉-横浜FC「タラとレバー」

後半50分、千葉・末吉の上げたクロスの折り返しを千葉・新井一がヘディングでねじ込む同点弾。これで1-1。静まりかえる横浜ベンチとアウェイスタンド。直後に主審の試合終了を告げる笛がふかれ、横浜の勝ち点3は文字通りラストプレーでスルリと逃げていった。

水色と黄色

とうとうヒュンメルを着た相手とリーグ戦で戦うことになった。2001年ミズノからサプライヤーをヒュンメルに変更した横浜FC。この関係は2014シーズンまで続いた。その間ヒュンメルは他のクラブとも契約をしていたがサプライヤーとして横浜FCが所属するリーグとしては最上位にいるというのはサポーターにとって誇りだった。また、いつのユニフォームもデザインセンスがあり、オリジナルのラインは街で着ててもオシャレだった。3rdユニは趣向を凝らしたもので、サポーターでヒュンメルが嫌いな人は少なかったと思う。

そのヒュンメルとの蜜月の時は2014年で終わり、2015年から現在のサプライヤーであるサッカージャンキーと契約が結ばれるのだが、横浜のサポーターに後ろ髪ひかれながら去っていったヒュンメルは、2022年は新たに千葉と契約。とうとうヒュンメルがサプライヤーをする相手とリーグ戦で戦う時が来たのは感慨深い。スタジアムでウォーミングアップが開始されると気が付く。アップのシャツの色は両チームのクラブのカラーと逆で、横浜は黄色、千葉は水色と。狙ったのか偶然なのか。中々心が揺らいでしまう風景だった。

乗り越えたい

揺らぐことなく横浜攻略のポイントを突いてくる千葉。前線へのロングボールと、中盤の底からはサイドバックの裏のスペースを積極的に取りに行くこと。前線で起点を作れなかった場合にも、前線からプレスに行って殴り合う。それを横浜も理解してこのゲームは長身のガブリエウを真ん中に置いたが、千葉・櫻川に手を焼きポストプレーを何度も許して千葉がゲームを支配していた。
逆に横浜の攻撃は、左サイドからのクロスと、右サイドからのカットインが主な攻撃なのは数字でも明らか。千葉はこれを遮断したい。

横浜の中盤は手塚と田部井というどちらかといえば、ボールを動かしていくタイプのボランチが組んだことが、結果的に上手くいかなかった。特にJリーグ初スタメンとなった田部井は、多くの時間で消えており、ボールを受けられるポジションにおらず味方がパスコースを限定されてしまい押し込まれる要因にもなった。攻撃時、彼が4-1-5の「1」となる時も、相手を剥がせないので攻撃は手詰まりになっていた。彼にとっていなしている感覚でも、それが通じていない。
また同様に守備も緩慢でプレスに行っても抜かれたり、あるいは勘所を見てポジションを取ることが出来ず、中盤で相手を刈り取れなかった。横浜は中盤でゲームを作れない。ガブリエウが中盤を飛ばして、小川へのロングボールを出したが、あれは横浜が手詰まりだと言ってるようなものだった。

千葉は田部井が剥がせないのがわかったので、彼へのマークをある程度捨てて、より深い位置にいる手塚に襲いかかるようになっていった。横浜は新型コロナで多くの選手が離脱して苦しい台所事情である部分を勘案しても、自分たちのサッカーが出来ずにいる前半だった。ただ、こうした状況であっても、今後何度もきっと訪れる苦しい展開をどう乗り越えていくかの試練でもある。田部井がもっと剥がせていたら、そんな言葉をぐっと飲みこんだ。こうしたゲームを戦わないと選手もチームも成長しないのだ。手塚が前線に顔を出す様になり、徐々に攻撃は形になっていった。

それが前半43分の横浜のゴールに結びつく。右サイドからサイドチェンジして左の武田に。和田、長谷川とボールを動かしながら、相手の裏のスペースをけん制しつつ、長谷川の右足から放たれた高精度のクロスを小川がヘディングで捉え、苦しんでいた横浜が先制した。

後半は千葉のペースが前半よりも落ち、選手のサポートが落ちてくると横浜がボールをもって相手陣内に進出する回数も増えていく。千葉は後半15分に一気に3人交代して前線に圧力を掛ける。前線の外国人サウダーニャと新加入のチアゴ・デ・レオンソ目がけてのボールが増えていく。
横浜もクレーべを入れて1トップに。田部井を下げて安永をいれて中盤の運動量を維持しようとする。相手のディフェンスラインを押し下げて、中盤を下げさせようとする意図はくみ取れる。横浜は後半35分にもサウロ・ミネイロと松浦を入れて1トップ2シャドーの形を維持しながら、フレッシュな前線で千葉ゴールを目指すが、徐々に山下主体のカウンター頼みのサッカーになってしまい前線と後ろで距離感が良くないままだった。

横浜はアディショナルタイムに時間を使いながら守備を固めるために中塩を投入。千葉は、長身のDFも最前線に。こういった展開は戦術論はほぼ関係ない。どちらかが折れるまで凌ぎ続けるか、押し切るか。
その結果、後半50分千葉の意志が勝ったのだった。千葉・新井一のヘディングをGKブローダーセンが弾き出そうとしたが届かず土壇場で同点ゴールを許してしまった。

多分気持ちは同じ

苦しい時間帯が続く中で虎の子の1点を守り続けた横浜と、多くの時間帯でゲームを支配しながらアディショナルタイムで何とか同点にした千葉。どちらのチームのサポーターも「負けなくてよかった」あるいは「勝てた」と思った試合になったはずだ。
特に横浜は前半43分に先制点を挙げてから、後半千葉の体力が落ちてくる中で逃げ切りを図っていくつかの策は打っていた。それが功を奏さなかった部分もある。最後時間の消費と守備固めの為に入った中塩が相手選手を見失わなけ「れば」、アディショナルタイムにサウロ・ミネイロがコーナー付近で身体を張って時間稼ぎをしてボールを折り返さなけ「れば」、こぼれ球に松浦が転ばず回収してい「たら」、、、仮定の話をしてもキリがないのはわかっていても考えたくもなる。残り数秒耐えきれなかったのだから。
ただ漫然と時間が過ぎるのを待っていた訳ではなく、終らせるために動いてもそれが報われない時もあれば、思っていた結果にならないこともある。これがサッカーである。苦しいゲームの中でたった1本のクロスでゲームを動かすことが出来たのもサッカー。どちらも受け入れなければならない。都合の良い時だけ、「これがサッカー」と言うのは自分勝手だ。

きっとシーズンが終わった時に、どのくらいの「タラ」と「レバー」が届いているだろうか。悔やまれることが多ければ多いほど、「タラ」と「レバー」は山程あるだろう。少なければ少ないほど自分たちにとって悔やまれることはなかったという事。
だから、この引き分けを「タラ」と「レバー」にしない為に、次の試合が重要になる。昨年開幕から無敗を続けていた新潟も途中で調子を崩してしまい昇格することが出来なかった。この千葉戦、勝っていたらと振り返る未来にしたくない。逆にこの第9節で敗戦を喫した東京ヴェルディや町田ゼルビアに、第9節勝ってい「たら」と思わせる為にも、勝利を「鱈腹」いただきたいものだ。昨年勝てなかった横浜サポーターは勝利に飢えている。まだまだ7勝では満腹にはならない。


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