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2023年J1第12節ヴィッセル神戸-横浜FC「まだ調わない」

試合当日、熊本から伊丹空港を経由して三宮入り。そして雨。熊本でも大雨が降っていたが、それは三宮でも変わらず。今年の横浜は雨に祟られたかのように、試合日の半分近くは雨。しとしとではなく、霧雨でもなく、ざあざあと希望を打ち消すかのような強い雨。
こんな時は観光ではなく、サウナを選択。三宮の駅付近は良質のサウナや風呂が何か所もある。昼頃まで心身を整えるには十分な環境であった。たっぷり2時間近く使って、サウナと水風呂の往復そして露天風呂でゆったりし、風呂上がりにオロポを飲み、そして仮眠室で軽く眠り、昼食を取り準備万端。大雨の中で、下手に観光してずぶぬれになるよりこの位の方が良い。さっぱり、そしてしっかりと整えてスタジアムへ。

我慢

スタメン発表を見て一言「拓海が我慢できるかどうか。」前節の新潟戦と同じシステムながら右のウィングバックだった近藤を控えに回して中村が先発出場。前節もそうだったが、両ウィングバックは上下動をして相手の攻撃を抑え込みつつ、攻撃に切り替わった際には飛び出していくスタイルが求められる。中村拓海は、攻撃のセンスはあっても守備は波がある。裏を取られたり寄せが甘くなってしまうのは昨年何度も目にした光景である。守備が得意ではないから、神戸の攻撃をどう我慢できるかが鍵になるだろう。
近藤はここまでほぼスタメンで出場を続けており、コンディションもあるだろうし次節は16位の柏との対戦を見込むのであればここまで連戦で無理させられない判断、また中村は前節出場しておらず先週の札幌戦でも出場時間は試合が決まった後の後半4分間だけに留まっており、フレッシュな状態でかつ中村にチャンスを与えているのだと理解した。林を右で使って、左で武田や橋本を起用するのも方法としてはあるが、それでもなお彼に右を任せた事には理由があるのだろう。
だからこそ中村も我慢しなければならないだろうし、近藤をベンチに置いた指揮官も我慢しなければならない。

誤算

神戸の攻撃は非常にシンプルだった。左サイドバック初瀬からの対角線への大きなサイドチェンジに対して大迫が落としたり、右サイドの武藤が確保してサイドバックの酒井が追い越してくる。この大きなサイドチェンジは、林と吉野で前半は粘り強く跳ね返し続けていた。前線からのスライドが上手く効いていて、小川慶が縦のコースを切りながら横浜の右サイドにストップをかけていた。

一方で横浜は新潟戦と違い中々思う様に前進できない。1つは、神戸が大きなボールを蹴ってくる事でディフェンスラインが下がらされてしまい、攻撃に厚みが出なかった事。もう1つは、タフな連戦による消耗があったのかもしれない。その代償が交代という形になって表れてしまった。小川慶が前半途中で交代。神戸の左サイドを締めていた小川慶が退くことになってしまった。坂本を左のシャドーにいれて、右サイドに山下を回す。重要度としては神戸の左サイドを切る事にある。

哀しいかな右サイドで小川慶を失ってから横浜はその右サイドが破綻してしまう。同じく俊足の山下を右サイドに当てたが、裏を取られるケースが増えていく。前半アディショナルタイムには、右サイドからのクロスを許し、GKブローダーセンが弾いたボールは神戸・大迫の足元に。ブローダーセンは腕を伸ばしてボールを掻き出しにいったところ、足首を刈るような形となりPKを献上。これを決められて失点。前半神戸の攻撃に耐えるというよりも、想定通りの攻撃を受け止めて跳ね返す事が出来ていただけに、この失点は悔やまれる。

見慣れた光景が

後半開始での失点こそ新潟戦で止まったが、横浜にずっと横たわる課題。それが頭を持ち上げてしまった。後半7分に左サイドにいた和田のパスをカットされてショートカウンターを受けると、神戸は左サイド汰木に展開。ほぼフリーな形でミドルシュートを許し、ブローダーセンが弾いたボールは大迫の足元に。林は目の前にいたが足を止めてしまい、シュートを許して失点。和田のパスミスの問題でもあるが、ズルズル下がるだけでプレッシャーを掛けなかった岩武だったり、そもそもスペースがないのに林が和田にスローインをしてしまったりと細かいミスの連続で形勢を悪くして、可能性の低い縦パスを入れざるを得ない状況を招いたと言える。
また失点した時に神戸の選手は5人近くペナルティエリアに入っており、マイボールになった瞬間のトランジッションの速さは、これまでボールをつないでというチームではなくなっていた。

その2分後にもさらなる失点。裏のスペースに出された神戸のパスを回収した中村が低い位置でのバックパスを蹴り損ね、神戸・汰木に拾われて、フリーの神戸・佐々木へ。彼は難なく押し込むだけだった。これであっという間の3点目。これでゲームは決まってしまった。

後半立ち上がりの失点という敗戦を繰り返していた際の見慣れた光景が神戸でも広がってしまった。時間帯から集中力の問題というのは簡単だが、それ以上にシンプルにここがJ1であるというだけだと私は考えている。奪われたら即失点につながるのがこのリーグのクオリティ。
例えば3点目の失点でも、J2であれば奪われたとしてもクロスが明後日の方向だったり、真正面のシュートを枠外に外してもらって「助かった~」と胸をなでおろすシーンは何度も見てきた。それは下のリーグだから発生した事であって、このリーグでは許してくれない。そして、そのミスを誘うのもJ1だから。上手くいかないのを前提に私は見ている。何よりサッカーはミスのスポーツなのである。自分たちのミスを如何に減らすか、相手側のミスを如何に増やすか。突き詰めるとそこに当たると思っている。

調わない

3失点してから3人選手交代するも、攻撃はチグハグになっていく。神戸も主力を休ませながら回しているがそれでも攻撃の形が成立しない。サウロ・ミネイロをいれたメッセージが選手と指揮官とで齟齬があるのだろうか。彼を残して2トップにするならお互いの役割がはっきりしていない。小川航が途中で気を利かせたのか少し下がり目になったのは指示なのか、彼の判断なのか。
選手の並びとしては、2トップ2シャドー、1ボランチ的にしてリスクは高くなるが攻撃を繰り返す形にしたものの前線は停滞。神戸も3点取って重心を下げたので、サウロ・ミネイロが生きるようなスペースも効果的に使えず、左右で近藤や林が局面局面では奮闘していたが、苦しい戦いのまま時間が過ぎていく。

サウロ・ミネイロを入れてどう使いたいのか、小川航との関係性も曖昧なまま。チームの前線の核が2つあってもどう整理するのかがまだ手付かずのようだ。ロングボールに徹するなら小川航を休める意味でも下げてしまってもよかった。そしてこのまま試合は終了。サウナで整った心身も、0-3で冷たい雨水を浴び続けたようにすっかり冷えてしまった。

前節の勝利はあったが、チームの状況は調わない。近藤の限定起用、小川慶の負傷交代、信じられないミスからの失点、かみ合わない攻撃。調うとは、「目指す状態にまとまる事」一つ勝っただけという現実に引き戻されたに過ぎない。

そして、月曜には熱い気持ちを吐露していたGK遠藤の期限付き移籍が発表になった。クラブを責める声もあったが、大学新卒で出場機会がないのであれば出場したいと思うのは選手として自然な事。選手が移籍を発表すると、クラブが切った、放出したみたいな表現が多くなりがちだが、多くの場合選手が最終的決断をしている。今回は、水戸の正GKが負傷で長期離脱、高卒新人はU20ワールドカップで最大6月中旬まで不在で、残ったのは3選手しかおらず、そして一人はまだ高卒1年目となれば実質2選手で回すことになるので、水戸からオファーがあったのは想像に難くない。横浜は永井の離脱はあっても、ブローダーセンと市川がいて六反もいる。ルヴァンカップの敗退も決まっているし、永井も最大8週間としても6月には復帰が可能となれば出場機会は限りなく低い。
それらの事情を考えたら、この移籍は選手にとってごく自然な判断だと思う。特に試合で一つしかないゴールキーパーというポジションは、フィールドプレーヤーと違い頻繁に交代はない。試合勘としても、自分の価値の証明としても空いた枠に飛び込みたいのは理解できた。

また、三田は神戸戦後に神戸の優勝を願うツイートをした事が物議を醸しだした。本人としては、横浜の今期の目標は残留だから見ている場所が違うという事だったと思うが、同じリーグでまだ数字上横浜の優勝が消えていない、かつ神戸との対戦が残っている中での発言としては不用意で、横浜のサポーターにあまり気を遣っていない印象に受け取られただろう。
昨年、アウェイ山口戦で佐藤が横浜のJ1昇格を願う事を発言した時は、山口の昇格の可能性が消え、山口と横浜の対戦が終了したからこそ言えたのであって、その時とは状況が違う。ホームの神戸戦で言うならともかく、まだ5月の状況でこれをキャプテンマークを巻いている人間が悪気なく言えてしまうところに横浜サポーターはモヤモヤしてしまう。

本当は降格圏を脱出していたらまだ心の余裕があるから、こうした発言も多めに見る余裕があるのだろうけど、0-3の敗戦直後で優勝願っていると。しかも、当時が最高のキャリアでしたと認めてしまった事も、色々考えてしまう。
出場していない遠藤が一番熱い言葉を投稿していたと思ったら期限付きではあるが移籍となり、キャプテンの三田が少々軽い発言をする。

1勝したもののまだまだ横浜は調っていないのだろう。サウナに入っても整うけど、調いはしない。まだ課題山積だと痛感した週明けの横浜界隈だった。




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