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助成金が欲しくなったスタートアップが読むと良いかもしれないポエム

スタートアップさんからの相談で最近増えてるのが「〇〇の助成金取りたいんだけど申請書作るの大変」という話題。行政の皆さんもスタートアップ振興を進めたいようで色々な助成金を用意しているようですな。

書きかけの申請書を拝見すると確かに大変そうで、わかりやすいなあと感じるものもあれば、わけわからんポエムみたいになってることもある。
なので助成金関連の相談の中でも「助成金を探す->申請書を書く」あたりのフェーズで僕がよく話すことをまとめてみた。

(なおここでいう「助成金」は科研費的なものというより、事業化の支援を目的とした助成金を指しています)

当然ながら僕は助成金を払う立場なわけでもないので、あくまで助成する立場の胸の内を想像しながら「こう考えればいいんじゃねえの?」という内容になります。そこまでズレてはないと思うけど。


自分の商売に合う助成金を探そうな

▪️助成金とは

そもそも助成金て何よ?という話なんだけど、基本的には「こういう目的にお金を使いたい企業や個人を募集します!お金は返す必要ないよ!」という制度。
美味しい話に見えますよね。ものによっては美味しいです。
ただ自分たちの事業の状況によっては美味しくないものもあるので、助成割合や使用用途など条件面のレギュレーションはちゃんと読もうね。後からしんどくなるよ。

で、それら助成金は国(省庁)や地方自治体などが運営するものが多い。民間企業が運営するものも見かけるけど印象としてはかなりレア。

省庁など行政の人たちが運営する助成金の代表例はNEDOAMEDSBIR制度の助成金、ものづくり補助金など。

▪️助成金の趣旨や特徴を把握する

助成金はその趣旨に応じて
「法人か個人か」
「対象とする事業領域(医療とかロボティクスとかエネルギーとか)」
「もらえる金額(高い奴だと1億円以上もらえるものもある)」
「もらったお金で事業をする期間(だいたい1,2年?)」
「使い道(外部発注に使える/使えないetc)」
「VC出資の状況(採択時に同時にVC出資を受ける必要がある、とか)
など細かく設定されている。

・趣旨から外れた事業で申請したら当然不採択
・趣旨に当てはまっていたとしても自分たちの事業計画のレベルが低かったら不採択
・全部当てはまっていて自分のレベルが高くても他の申請者のレベルが高かったら不採択

ものによるけど手間暇の割には成功率は低い。何度かチャレンジして初めて採択されることが多い「死にゲー感」がある。
ただし採択されれば返済義務や株の放出のない、使い勝手の良い資金や事業成長に関する様々なサポートが手に入る。

助成金獲得後の報告やペーパーワークもそれはそれでスタートアップによっては結構な負担になっているようだけどその話は今回は置いておきます)

▪️自分の商売に合う助成金を探すには

で、そうした中で自分たちにマッチする助成金を探していくのだけど、助成金には様々なバリエーションがある。
そんな時にNEDOが提供しているNEDO Plus oneというページは便利

https://startips.nedo.go.jp/plusone/

NEDOに限らず行政が運営する助成金をかなり網羅して紹介してる。助成金制度以外のサポートプログラムも紹介されている。それぞれの助成金の詳細についてのpdfもあるから読むと良いかも。
なお読みづらいからといって「霞ヶ関文学!」と叫んではいけない。今はただ我慢して読むしかねえんだ。

これを参考に自分たちの事業に合う助成金が見つかればよし、正直まだちょっとわからん、ということであれば上のページにある「ワンストップ相談窓口」に相談するのも良いと思う。

相談する時には僕が以前書いた「事業を説明する際の必須項目」と、「今何がどこまで進んでいて何に困っているのか」を明確にした上で相談に臨むとよりスムースにいく。パッションではなく事実を伝えていこう。

相談事が何にも整理されてない状況で行っても相談受けた人が困っちゃうだけなのでそのあたりは頑張ってください。

申請書には相手が必要とする情報を書いてあげような

▪️まずは聞かれていることを書く

はい、出す助成金は決まりましたか?決まりましたね、じゃあ次。申請書の書き方の話。
申請書には聞かれたことを書こう。これだけで門前払いの可能性は少し減る。

例としてNEDOのNEPという助成金を挙げてみる。
このページはNEDOが運営する助成金の情報がまとまっていて、金額ごとや事業のフェーズごとに色々な種類があることがわかる。
(今年になって突如わかりやすいサイトが作られて僕は大変うれしい)

申請のための書類もダウンロードできるし、申請書を書く時の留意点もこんな感じ↓でまとまっている。

https://www.nedo.go.jp/content/100973276.pdf

まずはこれを見ながら聞かれたことをヌケモレなく、かつ字数制限がある部分は制限を守りながら書いていく作業をしていく。これが第一段階。

第二段階として、中身の精査。
ここからは「モレヌケなく書く」以上に気をつけるべきことの話。

ポイントは色々あるけどまずはこれらを整理して書く。
・どれくらいの売り上げが見込める事業か?
・助成金を活用することで確実に事業化を進められるか?
・国の助成金が必要な事業か?

▪️「今一千万もらえれば将来数十億稼げるはずなんですよ」

まずは売り上げ規模。
「5年後には年間3000万円の売り上げを作ります!だから今3000万円ください!」
というストーリーだと厳しい。
助成金の趣旨にもよるけど、基本的には「将来的に年間数十億の売り上げを見込める事業を支援するために最初の数百万〜数千万を出す」という規模感が多い。
それくらいの規模感の売り上げを作れる事業計画を書きましょう。

(「そんなん思いつかねえよ!」というチームの話相手になることもある。それについてはまた別の機会に書くかもしれないし書かないかもしれない)

▪️「この実験が成功すればお客さんが買ってくれるはずなんですよ」

次。助成金を使うことで確実に事業化できるのか?という話。

例えば研究開発要素の強い事業を対象とする助成金の場合、
「助成金を使って〇〇万円で実施するこの実験のおかげで、大きな売り上げを産むプロダクトを作れます」
というストーリーをロジカルに伝えないといけない。

研究開発系のチームが書く申請書類でよく見かけるのは「〇〇万円でこういう実験をします」という、実験内容を技術面から書き尽くすケース。
多分科研費とかの世界観で書いてしまってる可能性がありますな。事業化系の助成金の場合このストーリーだとまずい。

プロダクトを開発するために研究開発が必要なのは当然なのだけど、「顧客に買ってもらえるプロダクトの実現のために、なぜその研究開発が必要なのか」を書かないといけない。
「お金使って実験やります!おわり!」という申請書だと厳しい。

このあたりのトピックの書き方はおおまかには…
・僕らはこういう顧客のこういう課題を解決するプロダクトを開発します。
・(課題の深刻さやその解決によって得られる売上規模を熱く語った上で…)
プロダクトに求められるビジネス要件として〇〇があることがわかりました。
・〇〇というビジネス要件を満たすためには△△という技術要件を満たす必要があります。
・△△という技術要件を満たすに××な実験を行い、□□な定量目標を達成する必要がある。
・そのためにはこれだけの金がいるんだよ!!!!わかれよ!!!
という流れになる。

上で例に挙げたNEDOの助成金「NEP」における「躍進500・3000」の場合だとPoCの詳細を書くところがそれにあたります。実験計画みたいなやつですね。
(ここでいう「PoC」とは「検証」や「実験」など、そういう感じのものです)

それらのPoCの成功が「確実に買ってもらえるプロダクトの実現」にどのようにつながるのか?に説得力がないと実験の必要性が伝わらない。

「顧客の観察を通じて得られたビジネス要件」
「ビジネス要件を満たすための技術要件」
「技術要件を実現するための検証事項」
の3つがロジカルにつながっていると説得力は上がる。

このあたりは文字を増やしすぎないようにしつつも適切に伝えていきましょう。

▪️「この助成金じゃないと…ダメなんですよ…」

最後に。助成金が必要な事業か?ということ。

結構説明が難しいんだけど、
「目の前の事業をコツコツやってれば十分大きな事業になりそうだし、別に国が助成金出さなくてもよくね?」
とか
「この事業ならVCからすぐ資金調達できるし、別に国が助成金出さなくてもよくね?」
とか思われると不利になる可能性がある。

これに対しては、例えば
「早く事業拡大しないと海外企業に独占されるのだ!今加速させないといけない!だから助成金ちょうだい!」
「一気に成長する上場タイミングから逆算すると株式の放出は海外展開のタイミングまでは最小限に抑えたい!だから助成金ちょうだい!」

といったストーリーを適切な背景情報と共に伝えるとうまくいくことが多いみたい。

とはいえこの辺りのストーリーが勝負どころになるチームは結構な助成金上級者感がありますわね。


セカンドオピニオン超大事

とりあえず助成金のことを相談された時や申請書の中身の添削を頼まれた時に自分なりに話してることの30%くらいをまとめてみました。

公共の助成金はその趣旨や支援内容によってはスタートアップの事業を加速させる良い手段である一方で、その中身をきちんと理解してから申請すべきもの。なんとなくで申請するのは時間の無駄になりかねないのでマージでやめときましょう。

もちろんこれは僕個人の考えでしかないので、周りにいる信頼できそうな人や、行政系の助成金に詳しい人がいそうなサービスにもアクセスして相談しましょう。「東京創業ステーション」とか「K-NIC」とか色々あります。
セカンドオピニオン超大事。

で、ここまで色々書いといてアレだけど、日本の助成金についてはアメリカや中国に比べて比較的少ない金額である一方で申請前後のペーパーワークが多いんじゃないの?というモヤモヤもある。

こうなった背景にはそもそも原資が税金だったり助成金にまつわる色々なトラブルがあったりするのだけど、スタートアップがプロダクト開発とビジネス開発にリソースを全投入できるよう、助成金のありようも工夫の余地はあるんじゃない?と思ったり思わなかったりします。

そういうわけでみんながんばれ。私はランクマッチに戻ります。

皆さんからのサポートはもれなく焼酎代とkindle積み本代に変換され、そこでの気付きが新たな記事のネタになり皆さんを楽しませることでしょう。多分。