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夏の青春

ヒロオカです。こんにちは。

今日は中学時代の夏の思い出を語ります。

僕は中学生の頃、バレーボール部に所属しておりました。
特にバレーが好きであったわけではありません。なんとなく友人に引っ付いて部活見学をしているうちに、いつの間にか入っていた、という感じです。

そんな適当な気持ちで入ったバレー部ですが、我が校でも1、2を争うスパルタ部であることを知ったのは、入部してすぐのことです。

顧問は常に般若の形相で、顔面狙いで球の速射砲を打ち込んできます。そして先輩もとても厳しく、ちょっとでも練習中に粗相をしようものなら、容赦なく腹に鋭い前蹴りを突き刺してくるバイオレンスな奴らでした。

これ、令和だったら大問題ですよね。しかし僕らの時代ではこんなのが普通でした。今思うと狂気ですねホント。

人一倍鈍く、空気を読むのが苦手だった僕は、そんなトチ狂った顧問や先輩たちの理不尽な暴力の餌食筆頭でした。ある先輩に、「ヒロオカは部一番の怒られ要員だな」とよく笑われたもんです。

それでも、なんとなくの意地で部活は続けました。体育館の中はいつも顧問と先輩らの怒号が響き、それを他部の人らに聞かれ恥ずかしい思いもしました。レシーブ出来ないような破壊弾を顔面に何度も浴びもしました。なぜ敢えてこういう球を打ってくるのか、今でも理解できません。顧問は他人を壊して性的な快楽を得るタイプの人間のようです。

そして2年に上がって、うっとおしい雨が続く6月くらいの頃。僕は、部での鬼のシゴキに根を上げ、そろそろ辞めちゃおうか・・・と思い悩み始めておりました。

ですが間もなく、それを思いとどまらせる、とある人物が現れるのです。

夏も近づき、そろそろ長袖ではしんどくなってきたある日の休み時間。

ぼけーっと机で頬杖つきながら、学校に凶悪犯がやってきて、そいつをカッコよく倒してヒーローになる妄想をしていた僕のもとに、ある女子が近づいてきました。

「ヒロオカ君、今日はバレー部の練習は体育館?」

え? 

普段から特に話すような間柄でもない、田原さん(仮)の唐突な声掛けに、僕は少し戸惑ってしまいました。

僕はこの頃から人の目を見るのが苦手でした。
それに、思春期で女子を意識しだしていたので、特に女子は苦手でした。目を合わすのももちろん、話すことすら緊張してしまうのです。

しかも、相手はクラスで可愛い女子ランキングトップ3に入る田原さん。

驚いていたのですこし間が空きましたが、とりあえず「今日は体育館だよ」と返答します。なんの気も効いてない、面白みのない返答をしてしまいました。当時の僕にはこれが精いっぱいでした。

田原さんは、特に何かリアクションするでもなく、「そっかー、ありがと」と言って僕の席から離れていきました。

なんだろう・・・。
田原さんは女子バスケット部だし、体育館の使用状況でも確認したかったのかな、とも思いました。体育館のスペースには限りがあり、毎日決まった部が使用できるわけでもなかったので。

その日以降も、どういうわけか田原さんは、たまに僕に話しかけてくるようになりました。

と言っても、だいたいは「今日は練習どこでやるの?」とか、「練習何時までなの?」とか、ほとんどが部活に関する質問でした。

そんな会話とも言えないような会話でも、可愛い女子と話せるだけで僕は嬉しかったのを覚えています。

それから、体育館での部活の時は、隣のコートに女子バスケット部がいると、自然と練習に力が入るようになりました。田原さんが見ているかもしれない、と意識するようになったからです。

それまでは辞めようとまで思っていた部活ですが、その田原さんのおかげで、すっかり毎日の放課後が待ちきれなくなってました。

僕のポジションはセッターだったため、スパイクを打つところは見せられないので、サーブを打つ時は特に気合入れてました。見よ!このネットすれすれの高速サーブ!
「ヒロオカなに張り切ってんだよw」
顧問ほんとウザい。

「昨日の練習キツそうだったねー」
「ヒロオカ君怒られてなかった?」
「カッコよくサーブ打ってたじゃーん」 
日に日に、田原さんとの会話も広がるようになってきました。

もともと、どちらかと言うと陰キャで、クラスのカースト最下層にいた僕に、こんなに話かけてくれて、しかも可愛い。恋に落ちない筈がありません。

夏休みも近づいてきた7月半ば。
田原さんとは、部活以外の話も出来るようになっていました。もう学校に行くのが楽しくて仕方がありませんでした。

暑くても、キツくても、頑張れました。
意識している異性から貰えるパワーは計り知れないものがあります。

クラスメイトの塚田君が、僕にこんなことを言ってきます。「最近、田原とよく喋ってるな。ヒロオカのこと好きなんじゃね?」

ば、ばかっ、そんなわけないだろ!何言ってんだよ!(笑)

僕は照れながら塚田君を小突きました。
ですが、内心は、やっぱりお前もそう思う!?と喜んでおりました。他人のお墨付きをもらった気分で嬉しかったのです。

「夏休みはなにするのー?」
「部活の予定表みせてー」
田原さんは相変わらずよく話しかけてきてくれます。バレー部の夏休みは、お盆以外ほぼ練習です。地獄。

女子バスケ部の練習日はその半分くらいだそうです。体育館のコートで隣り合うことが少なくなるので、残念です。田原さんの表情もちょっと残念そうに見えます。

夏休みと言えば、地元でお祭りや花火大会なんかもありますね。去年は、男友達とお祭りに行きましたが、彼女と行けたらもっと楽しいだろうなーと思ったものです。

ですが、今年は。もしかしたら、うまくいけば、田原さんと行けるかもしれない・・・。浴衣姿の田原さんと・・・。そんな期待が頭をよぎりました。

このまま田原さんともっと親しくなれれば、一緒にお祭りや花火に行くなんてこともあり得ない話ではありません。今年は楽しい夏の予感がします。青春は人生で一番楽しい時期かもしれませんね。

そんなウキウキ気分で迎えた終業式の日。

蒸し暑い体育館で、教師の長い話を聞き終え、いっせいに生徒が教室に向かう渡り廊下で、田原さんが話しかけてきます。

「ねぇねぇ、ちょっといい?」

セミの大合唱とまぶしい日差しの中を田原さんと並んで歩きます。うっすら汗をかいて、暑そうに顔をしかめる彼女もまた可愛いです。

「ちょっと待ってね。・・・もうちょっと。」

何か言いたげな顔をする田原さん。
あ、この流れはついに・・・。僕も心の準備をします。やはり楽しい夏休みになりそうです。

「あ、空いてきたね・・・」

小声で言う田原さん。校舎内に入ると、それぞれが教室に戻るので、人がまばらになり始めました。

「あのね」

顔を近づけひそひそ声で続ける田原さん。ドキドキです。近くだとより一層、可愛く見えます。


「バレー部の中山先輩って、彼女いるのかなぁ・・・?」


翌日バレー部を辞めました。

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