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E129: 心の声に相槌はいらないらしい


今日は44日目です

職場において「先輩」自体が少なくなってきたけれど、
私のデスクの後ろ側にいる先輩は、今日も元気である。

「あれ?あの書類どこいったー」
「午後の予定詰まってるなー」
「誰や、ここにファイル置いたのは!」

ベテランになると「何かの調整弁」が壊れてしまうのか、盛大に心の声が漏れている。
周りも慣れっこなので、あえて何も言わない。

もう最近は慣れっこを通り越して、たまに先輩がデスクにいないと「背中が静かで寂しい」とさえ思ってしまう自分がいる…。

というわけで
(おお、今日も元気だなぁ)と思いつつ、
先輩の「心の声」を「背中で」聞いている。
それが私の日常。



心の声、といえば…
懐かしく思い出すことがある。


………………

それは私が、まだ社会人になったばかりの頃。
隣のデスクに50代後半と思われる
ベテラン・Aさんがいた。

このAさん、よくデスクでぶつぶつ言っていた。

「アカンわ」「なんでぇ?」「うそやん!」
「またや」「どないやねん」「今日は暑いわ」


毎度毎度、そうやってつぶやくものだから、
真面目な(=当時はね)
新人の私は頑張って
Aさんのお相手をしていた。

「どうしたんですか?」
「大変ですね…」
「何とかならないもんでしょうかねぇ」
「ほんと暑いですねー」


ある時、食堂で、別の先輩が
こっそり教えてくれた。


「源太くん、Aさんのアレな、君に言うてんやないのよ」 

「え?だって、明らかに僕に向かって言ってますやん?」

「そう思うやろ?」

「…はい」

「君はまだ若いから、ピンと来ないかも知れんけど、ある程度歳いったらな、心の声が漏れるんや」

「心の声が、…漏れてはるんですか! じゃぁ本当に呼びかけられてる場合と、心の声と、どうやって区別するんですか?」

「簡単やで、名前で呼んでくれるから。その時だけは返事すればええんや」

「なるほど…じゃあこれから僕は黙ってますね…」

いきなり無視すると目立つので、
それから1ヵ月かけて、私は相槌を減らしていった…。


1ヶ月後
状況は何も変わらず、相変わらずAさんの心の声は
漏れ放題だったけれど、おかげさまで
私の負担は格段に減った。

なるほど、漏れていただけなのか………。 
これは大変だなぁ、と思ったものだった。


…………………………

あれから30年近くの時が流れた。

これ以降、今日に至るまで、
私はたくさんの「漏れる人」と遭遇してきた。

でも、不思議に思うことがある。

「漏れる人」って、共通して
なんだか憎めない人たちばかりなのである……。

だから、確かにうるさく感じることもあるけど、ほとんどの場合は笑って許せてしまうのである。


ただ、例外もある。

以前の職場で、過去に1度だけ、

「うわー、おっきいの出たー」


という、「心の声」が
トイレの個室の方から漏れて来た時は
さすがに朝からゲンナリした…。


あんたは、3歳児か!


【66日ライラン 44日目】

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