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E142:結局、誰が悪い?

今日は57日目です


普段とても温厚な女性の先輩が、
朝からちょっと機嫌が悪かった。

「もう、源太さん聞いてよ! 昨日は気分悪かったのよ!」
珍しいなと思った。とても穏やかな人だから。


「源太さん、例えば電車の中で小さい子と目があったらどうする?」

(あ、なるほど! なんとなく先が読めた…)
と思ったが、あえて何も言わなかった。

「うーん。どうしますかね? 先輩はどうされたんですか?」

はっきりと質問には答えずに、その先を聞いた。

「私ね、小さい子と目が合ったから、ニコッと笑ったんよ。そしたらね……」


その子は、後ろを振り返り、母親と思われる人物に、大きな声でその先輩を指差しながら、

「ねー、あのおばちゃん、どうしてこっち向いて笑ってるの?」


と聞いたのだと言う。

うん。なんとなく予想はしていたが、やはりか…。

母親は先輩を一瞥したあと、子どもにキツい口調でこう言ったのだという。

「目を合わしたらアカン!ほっときなさい!」


子どもと目が合って笑いかけてもいけない時代になったのか、と先輩は嘆いていた。

「私は不審者だって言うの?」
そう言って、先輩はため息をついた。  

その場にいないから、確かなことは言えないが、多分、子どもと先輩とのやりとりを、この母親は見ていなかったのだと思う。スマホか何かを見ていて、突然子どもにそんなふうに質問された。そこで、「目を合わせちゃダメ」というアドバイスになったものだと思われる…。

まぁ、それを先輩に聞こえるように言う母親も、どうかと思うけれど…。

先輩の気持ちはよくわかる。何故かと言うと、全く同じではないけれど、私も似たような経験をしているからだ。

私の場合は、自宅マンションでのこと。
小学生が「お父さん帰ってきたよ」とチャイムを押して話をしていて、父親が部屋から解錠ボタンを押した。そのタイミングで、私が後ろから入ってきたのである。解錠と同じタイミングで入ってしまったものだから、私は鍵を開けずに入ったことになる。そして、運悪くその時の父と子の会話が、はっきり聞こえたのである。聞きたくなかったけど、聞こえてしまったのである。

「おい、そのおじさんと同じエレベーターに乗るな!」


あらあら、今の聞こえましたけど? 苦笑

正直気分は良くない。
それこそさっきの先輩じゃないが 
(いや、失礼な!)という話である。

気分は悪いが、これは仕方ないと思う。その父親だって全住民を把握しているわけではないと思うし、子どもの事は必死で守らなければいけないし…。

子どもの後ろを通りかかったこの「おっさん」が、本当にこのマンションの住民かどうかなんて、父親は瞬時にモニター越しで判別などできない。

私はとっさに、郵便受けのところに行って、時間を稼いだ。自分からエレベーターに同乗しないように気を使ったのである。

気分は悪いけれども、それは私が我慢すれば良いことなのかな、と思っている。

正直もうこの国は、治安の良い国ではなくなった気がする。
もし自分が、小さい子どもを育てている立場だったら、慎重になるだろうなと思うし、それは仕方ないかな、と思う。

朝からテンションが下がるので、その先輩には言わなかったけれど、

本当のことを言うと、私はもう決して、電車の中で小さい子にむやみに笑いかけたりはしない。

マンションの中で、子どもに挨拶以外の言葉をかけたりはしない。(ただし挨拶を笑顔ですることは心がけている)

子どもに笑いかけるとしたら?
直接、母親が抱っこしている状況で
母親と目が合っている状態で
赤ん坊には笑いかけるかもしれない。

何かもし言うとしたら?
子どもが向こうから話しかけてきた時だけ、
その必要に応じて、話をするかもしれない。


実際、あるショッピングセンターで、大泣きしている子どもがいたが、私は直接行かず、近くのお店の女性に、代わりに対応してもらうようにお願いした。

本当は、ただの人見知りの臆病なおっさんなのだ。
でも、世間はそう思ってはくれない。子育て中の親御さんは、みんな子どもを守るために必死だ。

おっさんだというだけで、かなり警戒される。時にとても失礼な振る舞いをされる。悲しいけれど親御さんの気持ちや、若い女性の気持ちが推測できるときは、ある程度までは仕方がないと思って諦めている。人間ができていないので、腹も立つし限度はあるが…。

名札を隠し、ランドセルの横には防犯ブザーを。
そんな国にしてしまったのは、私たち大人だから。

【66日ライラン 57日目】

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