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E133: 良かれと思って…

今日は48日目です

私が中堅として、やっと仕事に慣れた頃、
そのチームの主任に石井(仮名)さんという女性がいた。

この石井さん
ベテランですごく仕事も出来るのに
何かの発表やプレゼン前は、自信なさげに
「どうしよう、どうしよう」
「うまく出来るかしら私」
と、いつもあたふたしているような人だった。

いつものことなので、みんなニコニコしながら
聞き流している。

ところが、その中に1人だけ
それを真に受けた人がいた。

その年の4月、院の修士課程を修め、
自信満々に(=私にはそのように見えた)
入ってきた新人、田中さん(仮名)である。

田中さんは、心配そうに
あたふたする石井主任を見つめたあと

意を決したように
分厚いファイルを取り出し、あろうことか
主任の机上にどーん!と並べた。


え?

ぽかーん…


全員が、あっけにとられ
固唾をのんで事態を見守る。

「主任よろしいですか?私は修士で○○について何本も論文を書いておりまして、先ほどの△△についてのご不安も、この論文を見れば解決出来ますし、それから……」

あらあら…

ど新人が、主任に仕事を教えようとしている…。
大変なことになってしまった!

みんなの視線が絡み合う
(さて、どうする?)
(新人が「暴走」しておるな)
(いや、悪気ないだろ?)
(悪気ないから、怖いんじゃないの!)
(いや、だからって、どうするのさ!)


しばらく様子を見ていると
「新人の新人による特別講座」を受けていた主任が
隙を見てこちらに視線を送る。

みんなは慌てて目をそらす。
彷徨う視線は、やがて私にたどり着いた。
その視線は語る。

(ねえ、源ちゃん、助けてよ!)


以下、
視線の送りあい、および心の会話


主任(源ちゃん、どうしよう……)
源太(そんなこと言われても……)
主(この子、止まらないわ……)
源(先輩がいつもの調子でやるからでしょ?)
主(だってぇ、そんなこと言わないで、やんわり言うてよ!)
源(なんで、その役目が私なんですか??)


石井主任は
トイレに立つ(フリ)をして
私に目配せをして、
その場から「逃亡」した。

みんなの視線が少しずつ私に集まる。

(だから、なんで俺なのよ…)



私はため息をついて田中さんを呼び寄せた。

「あのね田中さん、その資料、今すぐ片付けてね」

「はい? どうしてですか?」

「あなたは、一生懸命なのですよね」

「はい。主任が困ってらっしゃるから…」

「いや、困ってません。謙遜されていただけです」

「え? そうなんですか?」

「うん。じゃあね、試しに、その資料を全部片付けて、何も言わずに、今日1日過ごしてください。主任には何も言わず、あなたはあなたの仕事をしてください」

「でも、源太さん、まだご説明が…途中です」

「ええ、知ってますよ。それでもいいんです。主任が帰ってきても、この件は一切触れず、何事もなかったように、あなたはあなたの仕事をしてください」

「それでは…失礼ではありませんか」

「いいえ、言う通りやってみてください。それでも、主任はこれ以降、この件について一切あなたに質問する事はありません」

「え? なんでわかるんですか?」

「あなたは、良かれと思って、主任を助けようと思って、頑張った。そうですよね?それだけで十分なのです」

「本当にそれだけでいいんですか?本当に片付けていいんですか?」

「いいんです、大丈夫!」

…………………


さーて、noteなので白状します。

こんなふうに、
先輩ぶって、とてもカッコつけておりますが、
私がなんでこんなことを言えるかと言うと

まさに彼女と同じような失敗を
若い頃何回もしているからです。


先輩に偉そうにアドバイスした
新人の頃の私…。

本当に
穴があったら入りたい…


でもね、あの頃の私も、新人の田中さんも
共通しているのは

良かれと思って…ああ…

【66日ライラン 48日目】










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