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「丁寧な暮らし」という呪い

私は数年前までフルタイム正社員という形で働いていた。フルタイム勤務を選んだ頃、娘と息子は保育園児。そりゃあもう、毎日がサバイバルだった。「今日も1日生き抜いたぜ!」そして翌日はまた戦いが始まる。

早い時には7時に家を出て保育園に1番乗り。遅出勤務の時は帰宅は22時を過ぎる。そのなかで毎日の衣食住を整えることは、なかなかのハードルの高さだった。


私はテキパキした人によく見られるのだが、基本的に手は遅い。なんとか3食用意して、明日着る服がなくならないように洗濯をする。それだけで精一杯。掃除機をかけたのなんていつ?そんな広い家でもなのに、いつもそんな状態だった。


そんな時に助けを求めるのが、書店に並ぶ雑誌たちだ。そこには「なんでそんなに美しいんだ!」というキラキラした女性の充実した「丁寧な暮らし」が描かれている。栄養バランスの取れたお料理、片付いたお部屋、そしてなんで食費が20000円なんだ!我が家と違いすぎる。同じ地球の日本人なのか?そう思わすにはいられないくらいに違うのだ。


でもプロフィールにはこう書かれている。「会社員:山田花子さん40歳」


そうなのだ。そのキラキラ女性の中には私と同じくフルタイム勤務の女性もいるのだ。「なぜ私はこんなにも出来が悪いのだ?」助けを求めて買ったはずの雑誌には、自分を責める材料ばかりだった。


自分で言うのもなんだが、私は真面目で完璧主義だ。だから3食作れない私、毎日掃除できない私を責めてきた。「雑誌に載ってるあの人は働きながらあんなにちゃんとしてるのに」と。しかしここに落とし穴がある。


「雑誌に載っているあの人は、トップアスリートだ」


私はセミナー講師として手帳の使い方をお伝えしている。その中で時間の使い方も皆さんと一緒に考える。すると過去の私のように「ちゃんと家事ができない」と自分を責めてしまう方がかなり多い。そこで私がお話しするのは「雑誌に載っているあの人は、トップアスリートだ」ということ。


たとえば雑誌に載っている芸能人、オリンピックに出場する選手、その人たちを見ても私たちはなんとも思わない。松嶋菜々子を見ながら「同じ女性で同い年なのに」と本気で凹んだりしない。(ちょっとは神様に恨み言を言いたい時もあるが)


だけど、雑誌に載ってるあの人の肩書きは「主婦・会社員」私と同じ。なぜかこの「主婦・会社員」のカテゴリーが同じだけで、同じことができるし同じことをしないといけない、と思ってしまうのが不思議なところだ。冷静に考えれば、雑誌に載るくらいだから家事が好きで得意でその人が突き抜けている、とわかるはず。そうトップアスリート並みに。


「丁寧な暮らし」正直めっちゃ憧れる。でも「丁寧な暮らし」は本当に私が望んでいることだろうか?


いや、今はほどほどでいい。「ほどほど丁寧な暮らし」今の私にはちょうどいい。


そう言う私も実は数年前、某雑誌に掲載していただいたことがある。記事テーマは「家事は2割でちょうどいい」2割だぜ、2割!そのときにはリビングに干されている洗濯物に囲まれた息子の写真や、朝食は各自準備するという我が家の状況を掲載していただいた。そのときの編集担当の方が口にした言葉が忘れられない。


「キラキラした主婦像を作ってきて、それで苦しんでいる人を増やしたかもしれない」


はーい!私です!苦しかった。同じ会社員・主婦なのに、完璧にできない私。もっともっとがんばらなきゃ、そう思って常に全力だった。だけど本当はほどほどでよかったんだ。


今はどうなのか?相変わらずだ。今はフルタイム勤務をしていないにも関わらず、毎日掃除機をかけるわけでもなく、お惣菜や冷食の助けを得ながら毎日を過ごしている。子たちが大きくなった今、それほどのサバイバル感はないが、それでもやはり忙しい。でも自分を責めることを少しずつやめようとしている。


今日は「あれ?掃除機かけてないや」と思いながらも、友人の手作り味噌のワークショップに参加した。うっかり昼寝をしている間に、夫はわんこの散歩を済ませていた。手作り醤油麹で夕食を作りながら、冷凍惣菜に助けもらったりもした。


そんな中途半端な丁寧な暮らしでもいいんじゃない?社会が作り上げた「丁寧な暮らし」という呪い。まんまと呪いにかかっていた私は今、ほどほどに丁寧に暮らしていると思う。必死の形相で完璧な丁寧な暮らしを目指していた時よりも、笑顔が増えたねと言っていただける今日この頃だ。

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