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エイジズムというバイアスからの開放

 人口減少社会を迎えたニッポンでは、多様な人財の活用が課題となっています。特に少子化で若年層の雇用確保が困難になっている昨今、シニア世代の戦力化が大きな課題です。

 株式会社マイナビ『ミドルシニア/シニア層の就労者実態調査(2021年)』によると、
◆65歳定年企業の割合
集計企業数全体で21.1%、労働者数301人以上の企業で13.7%、労働者数31~300人の企業で20.8%、労働者数21~30人の企業で24.1%となっています。

◆66歳以降の雇用の仕組みがある企業の割合(定年が65歳未満の企業も含まれる)集計企業数全体で38.3%、労働者数301人以上の企業で34.1%、労働者数31~300人の企業で37.8%、労働者数21~30人の企業で40.9%となっています。

◆企業における高年齢者雇用の課題
①組織人員構成の歪み
②総額人件費の上昇
③高年齢者層の生産性低下

◆60~64歳の半数以上が、「65歳を超えても働き続けたい」という意欲が見られた。

◆70代の84.4%が新しい仕事を始める際、“「年収、給与」を妥協できる”と回答。「職種、仕事内容」は年齢や雇用形態に関わらず譲歩は難しい。

◆70代で「現在の仕事に前向きに取り組める」、「現在の職場で長く働きたいと思える」は87.5%。年代が上がるほど現在の仕事や職場に良い印象を抱いている。

◆ミドルシニア・シニア層の就労目的は、「自分の生活費のため」が約7割と最も高い結果に。一方70代では“生活の充実”のため。

というデータがあります。

 法政大学の石山恒貴教授は、シニア世代が活き活き働き続けるためのポイントを次のように整理しています。
・シニアの能力は、一方的に衰えるものではない。
・シニアに関するエイジズム(年齢に基づいた偏見や差別、ステレオタイプ)とアンコンシャス・バイアスは、自己成就予言と悪いピグマリオン効果による悪影響がある。
・シニアの知能を高く保つコツは、「抑うつに陥らないこと」と「経験への開放性」。
・シニアにとっては心理的な要素としての「働き方の思考法」が重要。

 今回のコラムでは、エイジズムというキーワードに注目してみたいと思います。

 「エイジズム(Ageism)」とは、年齢に基づいた偏見や差別、ステレオタイプを指します。特定の世代や年齢の人々を十把一絡げに評価したり、差別的な行動を取ったりすることです。言わば、バイアスの一種です。高齢者に対してのみならず、若年層に対する偏見や差別も散見されます。例えば、

「あの人はもう年だから、新しいアイデアを出すのは難しいだろう」
「シニア社員は体力が落ちているから、体に負担のない仕事を任せるべき」
「若い世代は責任感が乏しいから、この仕事は任せられない」

 個人の特性を見ることなく、年齢だけでて決めつけてしまう場面が職場では多く見られます。一見ポジティブだと思われる、「若い人はバイタリティがあり、成長余地があるから、シニアより優秀だ」といった発言も、年齢のステレオタイプに基づいているので危険です。

 年齢に対する先入観が原因で、イノベーションの源泉を見逃したり、適材適所が実現できなかったりすることもあります。それでは、組織が停滞してしまうでしょう。

 ではどうすれば職場からエイジズム的発想(バイアス)を排除することができるのでしょうか。まずは、採用や昇進といった場面を振り返ってみましょう。公平性は確保できているでしょうか。選考プロセスを透明化し、候補者の評価基準を明確にします。年齢で候補者を評価することがないようにスキルや適性に焦点を当てた評価項目にしたり、そもそも年齢の項目を削除したりすることも直接的には有効です。

 選考プロセスの工夫と同時に、ダイバーシティを受け入れる組織文化の醸成も大切です。「多様なバックグラウンドの人財がいることは、組織の強みになる」などと、会社のメッセージとして伝えるとよいでしょう。異なる価値観を持つ人たちが一緒に働く上での衝突を想定した研修(コンフリクトマネジメント)や、評価からステレオタイプを取り除く仕組み、トレーニング(認知バイアスに対する行動変容トレーニング)も効果的です。

 エイジズムを職場から無くすことは、これまで年齢によって見逃されてきた貴重な経験や能力、スキルを再発見し、組織の多様性とパフォーマンスの向上に影響するでしょう。バイアスによって抑圧されてきた人たちがイキイキと働けるようになることで、従業員の組織に対するコミットメントやのワークンゲージメントの向上も期待できるかも知れません。

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