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知らない人と話すということ

今日は都会で会社説明会だった。帰りのエレベーターに向かう。私は髪の長い女の子に話かける。何でもいい。今日の感想をお互いに共有したかった。そして、どんな人が受ける企業なのか知りたかった。

「このエレベーターってどこらへんに出るやつですか?」私は説明会会場から出たふたりの女の子が並んでるエレベーター前で、そう声かけた。2人のどちらかが私の方を向けばいいやとおもって。
「あ、駅の西側に多分出るやつです」
右側に立っていた長身で髪の長い女の子が私の問に答える。
「そうなんですか。私、反対側の入り口から来たからわからんくて」
どこに出るなんてどうでも良かったけれど、少しこの人は話をしてくれる様子だ。
「そうなんですね」
「ありがとうございます」
「ここのエレベーター来るの遅いですね」彼女はそう言いながらエレベーターの階数が6階になるのを見つけめている。
エレベーターが開いて下に降りる。他の人が入ってきて会話は途切れ途切れになるけれど、ぽつぽつと話を続ける。

「接客業とか受けてるんですか?」
「いや、私接客業とか興味無かったんですけど、ここはいいなって思って」
「そうなんや」
「あ、1階、降りるやんね?」
「あ、そうやうん」
彼女は、エレベーターの開くボタンを押して私を外に出してくれる。

説明会のビルを出て、「今の会社めっちゃ良かったね」私は素直な感想を彼女にぶつけてみた。正直モノづくりに対する姿勢考え方など素敵な会社だなぁと思ったし、多分この人も私のように感動しだろうと思った。こんな素敵な会社、みんな入りたいに決まってる。
彼女はうっすら茶色のロングヘアを束ねていたゴムをほどきながら、「面白い会社やね」と味のしない声で言った。

私は心底驚いた。面白いと思っていてそんな声がでるのか?何かの間違いだろうか。私は続けて「なんか、商品の思想とかがめっちゃいいよな」と言った。
私は、この言葉を言うと彼女が引っかかるはずだと思った。だって、私が逆の立場だったらその話題はこの会社のスーパーキラキラポイントであり、お互いにドキドキしながらお喋りできる話題であるはずだ。

彼女は少し傷んだ髪の毛をかきあげながら「そうやんなぁ。そういうところ面白いと思った」違う違う違う。面白いと思っているのに何でそんな味のない声がだせるんだ??

普通、この感じのことを言われたら、みんな目がキラキラして素敵やったよなぁと、声のリズムが変わるはずなのに。

彼女の大学を聞くと、高校の時苦手だった同級生が行った大学だった。そこでなんとなくハッとした。私の普通は、私の学校とかコミュニティの普通なんだなぁと。凄く久しぶりの感覚を感じた。自分と遠い感覚を持つ人との会話。自分の思うこと、感じることを全て共感されない世界。懐かしい。そしてこの会話が疲れることが分かった。私は、適当にピエロを演じて彼女をある程度持ち上げて適当に理由を付けてその場を離れた。

私は彼女と離れた後もドキドキして、久しぶりの知らない人との会話の感覚によく分からない高揚感を感じ、しばらく彼女のことで頭がいっぱいになった。今日の会社が良かったという高揚感を少しかき消すような勢いで、「あんな人いたんやなぁ」と人混みに紛れるように呟いた。

もしかしたら知らない人と話すってこういうことを言うのかもしれない。学内で知らない人に話かけても大体反応は2通りぐらいで、みんな真面目でピュアな憎めない仲間なのだけれど、何か知っている。それは多分似ているから。知らない人だけれど知っている。

知らない人と話すのが怖いとか、疲れるといった人のことを思い出した。こういう感覚のことをみんなは話していたのかもしれない。知らない人。自分の感覚では予測できない人。自分の感覚を共感されるかわからない人。

なんだか今日は2つの意味で面白い1日だった。家から出たくない私でも、外に出る意味を少し見つけられた1日だったかもしれない。

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