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咀嚼するということはなかなかに大変なことだ:小林秀雄『様々なる意匠』

正直に告白すれば、小林秀雄が苦手だ。

若い頃にたぶん『様々なる意匠』は読んだと思う。改めて読みなおしてみて、苦手な理由が少しわかった。当時の私は小林秀雄のロジックを追えていなかったのだ。

では改めて読んで好きになったのかというと、まだ中途半端な気持ちだ。参加した読書会で、小林秀雄が苦手な人、得意な人、その他の方と話をして、私の中の小林秀雄と決着がつけられればと思っていたが、その目論見は十二分には果たせなかった。

私の中で小林秀雄は、実は作曲家の小林秀雄なのだ。私は長らく同じ人だと勘違いしていた。作曲家の方の小林秀雄はといえば、たとえば「落葉松」は歌の旋律もいいが、ピアノ伴奏もリリックで豪華で好きだ。

下記の演奏は歌はちょっと重い感じもして、本当はもっと軽く歌ってほしいなとは思うが、そこは私の個人としての好み・解釈・意見だ。

https://music.apple.com/us/album/karamatsu/1187770761?i=1187771273

「日記帳」も好きな曲だ。歌詞だけ読むと「おいおいおい!」と突っ込みどころ満載なのだけれど、曲がとても可愛いので、誤魔化されてしまう。可愛いは怖い。

いずれにせよ、有名な方の小林秀雄とは異なる戦略で、作曲家の小林秀夫もせめている。この人たちは異世界で、もうひとつのHUNTER ✕ HUNTERを戦っているのかもしれない。

作曲家の小林秀雄に対して、たぶん、より有名な方の小林秀雄は、もう少しガチな感じで、私にはちょっとかみ砕けないのだ。私はきっと顎の力が弱い。

ただ、知り合いで編集を仕事にしている人がいて、彼は「高校の授業で小林秀雄をやって、そのときに『国語って面白い』と目覚めたんですよね」と言っていた。

わたし的にはビックリポンだ。良い意味で人はさまざまなのだ。私には今ひとつでも彼には衝撃的なほど面白かったということだ。顎力の弱い私には謎が残る。

有名な方の小林秀雄のもう一つの最近の思い出は 『春宵十話』を書いた数学者の岡潔との対談『人間の建設』だ。

この対談での小林秀雄はとても理知的でバランスが取れていて素敵なのだ。岡潔のちょっと暴走機関車的な発言をやんわりと受けながら結構鋭いツッコミをいれてくる。

やんわりの受け流しも、実は岡潔よりも理系なことについてしっかりきちんと考えた上で、その思索の結果を、やみに振り回すこともせず、ぼんやりと受け流す。その感じが良い。

私の中で(有名な方の)小林秀雄に関する謎は深まるばかりだ。

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