神託に感動するには
『アサシン クリード オデッセイ』だったか、ゲームの途中でデルフォイの神殿に行って神託を得るというミッションがあった。記憶は定かではないが、そのゲームでは、実はその神託は政治的に利用されていて、尋ねた人の行動を誘導するのに使われていた。そんなゲーム内設定だったようなに記憶している。
そういえば、先日、子どもが久しぶりに遊びに来て、「ところで父さん、陰謀論者になってないよね? 大丈夫だよね」と確認された。
「もちろん大丈夫だよ」と答えた。だって私が普段考えているのは、陰謀論ではなく、表面的には明らかにされていない真実の陰謀の話だから。ドロシーにはよく「さる筋からの情報なんだけど」と伝えていたことを、彼も子どもの頃から見聞きしているので、陰謀論と勘違いしたのだろう。
ゲーム内ストーリーのデルフォイの神託の話も面白いなと思った。さる筋の情報によると、『アサシン クリード オデッセイ』などのゲーム内ストーリーは事実を暗喩的に伝えるためのメッセージボードなのだ。
それにしても、ゲーム内の登場人物たちは、どのような気持ちで神託を受け止めていたのだろう。
昔、さる筋の占いをする知り合いは、「占いを受けたいと真剣に思っている人は、既にその人の中で答えを決めている。だから、その人が決めていることを引き出して、その肩を押してあげるの」と言っていた。コーチングの人みたいだ。コーチングが占いのようなものと言っているわけではない。人の心の機微の話をしているのだ。
つまり、ゲーム内の登場人物がデルフォイの神託によって政治的に誘導された行動を取ったとすれば、既にその前段階ですっかりお膳立てされていなければならないということになる。デルフォイの神託はその最後の総仕上げということになる。
ChatGPTすごい!と私たちがどういうときに感じるかというのも似ている。既に私たちはある程度の答えを持っていて、それと似た答えが出力されたとき、すごい!と感じるのだ。私たちの心は、訊ねる前にすべての答えを言語化してはいないので、ぼんやりとしか意識されていないその部分が追加的に言語化されると、「おお、それもあるか!」と感動できる。答えが自分の中にぼんやりとあったからこその感動なのだ。
ChatGPTの回答が政治的に既にゆがんだものであるとまでは思わない。なぜなら、私は陰謀論信者ではなく、正しい陰謀の話だけをしているだけだからだ。あまりはっきり書くと暗殺される可能性があるので、ここはぼんやりと伝えよう。
ChatGPTからの回答に「おおー!」と思うのは、既に私たちの心にぼんやりとその答えが用意されているからだとすれば、私たちが望む答えを言ってくれるほどに私たちは「おおー!おおー!」と嬉しくなる。
韓国ドラマやラノベや転生アニメが楽しい理由はそこにある。「今期のアニメはいまいち」と思うとき、それはあまりにも想定範囲でしかないときかもしれない。想定範囲をはみ出ずに、かつ、言語化されていない期待を言語化してくれるとき、「今期の○○はいい!」と叫びたくなる。
おそらく、いまやChatGPTは、キャンベルの『千の顔をもつ英雄』だけではなく、あらゆる映画やラノベやアニメのシナリオ、原稿、絵コンテなどを読み込んいるはずだ。そこから人々が望む《神託》的なニュアンスを回答の中に含めれば、私たちは感動し、熱狂し、ChatGPTを良きものとして受け入れていく。口に苦い良薬なんて私たちは求めていないのだから。
「ねぇ、ChatGPTくん、これって○○っていうことかなぁ~」と訊ねて、自分が気に入った答えが返ってくるまで繰り返す。恋愛シュミレーションゲームのように正しいルートが出てくるまで繰り返せるし、なんだかなぁ~と思ったら、リセット、リスタートもできる。こんなに居心地のよいことはない。究極の対話だ。
人が対話を渇望しているのは間違いない。ワークショップでちょっとしたレクチャーの後で「3分間ほど、隣の人と感想や疑問に思ったことをシェアしてみたください」と訊ねてみれば明らかだ。びっくりするほど会場はワーーーンと言う人の声であふれる。司会者は「質問はありますか?」なんて訊ねるからいけないのだ。「隣の人と・・・」でいい。人は間違いなく対話、会話を求めている。
「相手がChatGPTってのもね」と人はいうだろう。人は「インターネットでカードを使うなんて」と言っていたのだ。「電話ばっかりしやがって」と大人が苦い顔をしていた時代もあった。「オンラインじゃ仕事はできない」「書籍は紙派」はまだ絶滅していないが、時間の問題だろう。「相手がChatGPTってのもね」の違和感だって同じだ。風前のともしび、風とともに去りぬだ。2次元の嫁? テキストベースでもいいなら、すでに1.5次元、1次元の会話、利用可能な情報が制約されるので、チューリングテストもシンプルになる。
そう思わないかい? ChatGPTくん。