高校生へのメッセージ
久しぶりに丹野さんへのインタビューを見直した。大切なことだなぁと改めて思う。
このインタビューは、熊本県立第二高校の家庭科(当時)の田尻先生に頼まれて、熊本県下の高校31校をネットでつないだ対話のワークショップを行ったときのものだ。2020年の夏のことだ。田尻先生は、熊本県家庭科クラブ連盟のその年の事務局をされていた。
高校からの参加者は全体で158名で、そのうちの111人がZoomを使ったオンラインでの接続だった。Zoomを使った100名を超えるイベントはいまでこそ珍しくなくなりつつあるが、新型コロナが始まって間もない頃、100名を超える熊本県下の異なる高校の先生・生徒たちがZoomで接続し、しかもそこで異なる高校の人たちが対話のセッションをするという例は全国的にもなく、チャレンジングだったといえる。
山鹿市の認知症相談員をされていた山下さんが私たちのことを田尻先生に紹介してくれたという。当日は仙台の丹野さんにも手伝ってもらった。前半のワークショップには丹野さんにも普通に入ってもらったが、高校生たちは丹野さんを「どっかの高校の先生」と思っていたと後から聞いた。
ワークショップの後半で、39歳で若年性認知症と診断された丹野智文さんへのインタビューを高校生のみなさんにも聞いてもらい、そこで感じたことをお互いに対話してもらった。山下さんのインタビューは丹野さんの言葉を上手く引き出す素晴らしいものだった。熊本県山鹿市の山下力さんがとても丁寧に丹野さんの話を聞いている。丹野さんの話はわかりやすく端的で、淡々とした中に実感がある。その言葉は熊本の高校生たちにも強く響いたことだろう。
時間があれば、ぜひ下記のインタビューを観てほしい。時間は23分ほどで、本一冊読むほどの時間もかからないはずだ。
丹野さんの話しは高校生のみなさんにはとても印象的だったと思う。ワークショップの終了時に、生徒を代表して東稜高校の家庭クラブ生徒会長の橋本さんがまとめのことばを述べてくれた。丹野さんがワークショップに参加することは高校生には予め話してはいなかった。この文章は丹野さんが話した後に「すぐにお礼がしたいから」と書いたという。高校生ぐらいの年齢の人の力は本当にすごい。
大人である私たちはどうだろうか。
電話でときどき話をする佐藤雅彦さんは、自分が認知症になって2つの偏見に気づいたという。1つは『世間の偏見』。認知症になると、記憶力、判断力が鈍ったと思われ、一人の大人として扱ってくれなくなったという。もう1つは『自分の中にある偏見』。 認知症になると、何もわかなくなるという偏見。当初それを真にうけて、何もできなくなると信じ込み、次第に無気力になりだんだんできることがすくなくなっていったという。認知症の人は、この二重の偏見に苦しめられているのだという。
ワークショップ後、田尻先生が高校生に「丹野智文さんへお礼のお手紙を記述してください。丹野さんへお送りします」といって書いてもらったものを私にも送ってくれた。その言葉は、素朴だったり、言葉足らずなところもあるが、彼らが丹野さんの言葉を真摯に受け止めてくれたのは伝わってきた。
先日、丹野さんと話した。「最近、どう?」という私の問いに、「仙台ではお医者さんたちが変わってきてくれたのが一番うれしい」と話されていた。
2020年のあのとき、若い人があのとき何かを感じてくれたとすれば、それはひとつの希望だ。
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