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今さら朝ドラ勝手にレビュー:母ちゃんの優しさといふもの〜『ひよっこ』(2017年上半期4週22回目)

 みね子、時子、ミツオの卒業式の日。いつでもどこでも親が出てくる今日と異なり、昭和40年の地方の卒業式は、母ちゃんも父ちゃんも畑仕事していて「もう始まってるねぇ、卒業式」と話す。みんな忙しいのである。

 ミツオの「今日が最後の高校の登校日」なのに、相変わらず母ちゃん(キヨ)はつっけんどんに言う。
「さっさと帰ぇってきて手伝え!」と。
 にもかかわらずミツオは「今日までありがとうございました」と礼を尽くす。これがこの後のシーンの伏線である。

 忙しくはあるが、子供達の卒業式が気になる母親三人が囲炉裏のまわりに集まり、手休めしながら茶を飲む。そして、キヨがしんみりと語り出す。

 「あだし、あんたらみでぇに優しい母親でねぇがら。ミツオも、”さっさど働け”しか言わない母ちゃんのこと好きでねぇだろうし」

 「なんで?そんなごとねえよ?」(みね子の母:ミヨ子)

 「あるってぇ。だってぇ、そう思われようとしできだから。嫌われるぐれぇの方がいいんだって、思ってきたから。あいづぁ生まれてきたときから体弱ぐってよぉ。でも三男坊だし、いつか家出て行かなくちゃなんねぇがら、甘ったれだと、そんなごとできなくなっからよぉ、だがらぁ、何つぅかぁ、突き放してよ、”ああ、こんな家出てってせいせいしたっ!”て、そぉ思うぐれぇの方がいいんだって、だからあたし、文句ばっかじぇ言って、”おめは、ここ出て行く奴なんだ”って、そんなことばっかし言ってよ、・・・優しくしてやんなかったぁ。優しくぅ(涙)だからあいつは、母ちゃんのこと嫌ぇなんだ。」

 「(そんなこと)あるわけねぇよ。キヨさん!」

 「そうけぇ?(涙)」

 「そうだよ!」

 「母ちゃんに会いたいって思ってくれっぺかぁ?(涙)」

 セリフ書き起こしながら、もう泣いている。観るたびに。

 「優しい」ということが、どんな人間、どんな親子においても、ちゃんと”辛ぇごど”を含めてあること、母ちゃんの優しさは、「嫌われるぐれぇでないと、あいつがこの先強くなれねぇから」という切ない覚悟と自立への願いによって成立していること、それでも、遠く離れた野獣の街(東京)に行って、”母ちゃんにあいてぇなぁ”と言って欲しいという気持ちと、全部一体となってあることが、”イケズなババァ”をやらせたら右に出るものはいない苦労人の女優(柴田理恵)によって、圧倒的な説得力で表現された。

 そういう母ちゃんは、「世界史上例を見ないスピードで農村解体が生じた、あの日本の1960年代」にたくさんいたんだろうなぁ。

 自分が寂しくて、自分が不安だから、子供とずっと一緒にいたいなどということが、社会構造的にできなかった時代と場所に、人間の強さと優しさが垣間見られる。そしてそれが胸をうつ。

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