見出し画像

借金発覚 第7話「昔の家、ローンの残が残っているようなの」

0〜6話までのあらすじ

五十二歳で大手生保を早期退職した父は、退職金を元手に怪しい投資ビジネスを開始するが、一年も経たないうちに退職金は蒸発。一家は郊外に引っ越し貧乏生活を始め、十八年の年月が流れる。老後の住居の心配をした次男は団地の購入を勧めるが、父は断り、「来年数千万円入る予定」と返事をする。

主な登場人物

父・・・大手生保の営業マンだったが、五十二歳で早期退職。
母・・・農家出身で看護師。メンタルが弱い。
長男・・・五人兄弟の長子。既婚。地方都市に住む。
次男・・・五人兄弟の二番目。既婚。本書の主人公。
長女・・・五人兄弟の三番目。既婚。
三男・・・五人兄弟の四番目。独身の一人暮らし。
次女・・・五人兄弟の五番目。独身。父母と唯一同居。

長女からのメッセージを読んで凍りついた

長女から僕宛に突然LINE メッセージが入ったのは、それから半年後の初夏の頃だった。

読んだ僕は凍りついた。
重大なお話しがあります。両親にはまだ秘密でいて欲しいのだけど、昔の家、完全に処分仕切れていなくて、ローンの残が残っているようなの
どうやら実家で同居している次女が父の書類を偶然見つけて発覚したらしい。LINEには二枚の書類の写真が添付されていた。

一つ目は「ご通知」と書かれたカバーレターで、ある金融機関から債権を譲り受けた債権回収会社からのものだった。内容は「一括弁済による和解に応じる」という旨で、一括弁済の条件として、債権の残元金のみを一括で支払えば、延滞遅延金は免除してくれる、というものだった。

二枚目の書類に、金額が記載されていた。

契約日:平成XX年X月X日
契約種別:求償権
残元金:金 八百万円
遅延損害金:金 六百万円
債権合計:一千四百万円

一千四百万円。金額を見て、血の気が引いた。
僕は、昔父が血相を変えて僕のところに来た時のことを思い出し、複雑な気持ちになった。

次女からのLINEには、次女が母にこのことを伝えた旨も書いてあったが、母は全く認識していなかったようで、
家のことは全部父に任せているので、何も分からない
という反応だったらしい。

丁度この時期、恒例の一族の集まりを計画していたが、こんな爆弾が見つかっては、呑気に楽しんでいる場合ではない。

LINEで最初に話し合われたのは、子供たちで借金の返済ができるのかどうか、ということだった。残念ながら、現在の兄弟たちの預金を集めても、一括は不可能だ。何年もかけて分割で支払うのなら可能かもしれないが、どの家も家計は楽ではない。さらに、今回発覚した借金は、考えたくもないが、氷山の一角である可能性もあるのだ。

***

父に直接問いただすしかない

各自がネットで調べた結果、返済できない場合の他のオプションとしては、自己破産、相続放棄という選択肢があるらしい、ということが分かった。

しかし、現状分からないことが多すぎる。相変わらず行方不明の三男を除いた兄弟四人で色々と話し合い、やはり父に直接問いただすしかない、ということになった。だが問題はどうやって父を話し合いのテーブルにつかせるのかだ。

兄弟全員で話に行くにしても、実家で話をする以上、お母さんにもちゃんと話を通しておかないとだめだよね
まず兄弟で確認したのは、きちんと母も交えて話し合いをする必要がある、ということだった。

そもそもね、原因の一端はお母さんにもあると思うのよ
普段から決してキレない長女が持論を言った。
お母さん、本当にいろいろ苦労してきたと思うけど、お父さんと家計を別にしてたっていうことが、背景の一つかと

確かにこれは、実に的を得た指摘だと思う。例えば、一万円を超える出費については、夫婦で合意したものだけを使う、というルールが夫婦の中にあれば、おかしなものに出資したり、無駄なものを購入して浪費するリスクをずっと抑えることができるはずだ。

***

父が母に相談なしに購入したもの

実家に住んでいたとき、時折父が高額なものを色々と購入してきたのを見てきたが、どれ一つを取ってしても、母親と相談した気配はなかった。

よく覚えている商品が、クラシック音楽のCD集で、三、四十万万円くらいする代物だった。営業先のお客さんに勧められたとかで、付き合いのために必要なんだ、との説明だった。もちろん、本人にクラシック音楽を嗜む趣味はなく、購入早々、CDが何十枚も収納されていた棚は、自宅の物置と化していた。

また、成功法則ナポレオンヒルプログラムも一式あったが、これは何と一式百万以上する代物。カセットテープとマニュアルで構成されていたが、父が聴いている姿は見たことがない。

車の購入も、母と相談したことは一度もなかった。子供が五人もいて七人家族なのに父が乗り続けていたのは常に五人乗りのセダン。
営業職の自分は家族向けのバンなど乗れない。男はセダン
これが父の持論だった。

しかし、父が勝手に購入したもので最大の買い物は、都心のワンルームマンションだろう。流石に額が大きすぎたため、発覚後母と口論になったのをよく覚えている。
ローンを完済すれば、その後の家賃収入は老後の年金になる。お前のことを思って買ったんだ
父はそう言って母をなだめていた。

今、僕自身結婚して家庭を持つようになって、こうした家計管理がいかに異常だったかよく分かる。我が家の場合は、どんなに高くても、相談なしに購入する上限は一万円前後だ。

***

母に借金のことを話す

まずは母ちゃんに借金のことを話すのは賛成だけど、誰が話すんだ
母はメンタルが弱く、若い頃から強いストレスを感じると鬱になる、ということを繰り返していた。
実は、今度お母さんがうちに泊まりにくることになってるから、その時に話してみようかな
長女が提案してくれたので、その案でいくことになった。

数日後、長女から報告が来た。
もう、大変だったわ。お母さん、パニックになっちゃって。その場でお父さんに携帯で連絡入れて問い詰め始めて
やはり恐れていた事態が起きた。ただ、先には進めたらしい。

何とか家族会議の事は了承して貰えたけど、これからが心配
一応外堀は埋めて、父との最初の対決の日を迎えることになった。

この記事が参加している募集

サポートしていただけると本当に助かります。サポートしていただいたお金は母の入院費に当てる予定です。