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借金発覚 第28話「3度目の父との対決 」


前回までのあらすじ

五十二歳で大手生保を早期退職した父は、退職金を元手に怪しい投資ビジネスを開始するが、一年も経たないうちに退職金は蒸発。一家は貧乏暮らしに転落。それから十八年後のある日、父の隠していた借金が発覚。兄弟たちで大騒ぎになるが、「もうすぐ大金が入るから」と父は自己破産を拒否。父との話は平行線に終わるが、年内に大金が入らなければ持っている資料を出すと約束させる。話し合いの後、次男は父が騙されている証拠を集める。

主な登場人物

父・・・大手生保の営業マンだったが、五十二歳で早期退職。
母・・・農家出身で看護師。メンタルが弱い。
長男・・・五人兄弟の長子。既婚。地方都市に住む。
次男・・・五人兄弟の二番目。既婚。本書の主人公。
長女・・・五人兄弟の三番目。既婚。
三男・・・五人兄弟の四番目。独身の一人暮らし。
次女・・・五人兄弟の五番目。独身。父母と唯一同居。

Yが出てた

次女からラインで連絡が入ったのは、数週間後のことだった。インターネットの記事のリンクが貼ってあり、以下のコメントが。
「ね、ね、Yが出てたよ! お父さんが持っていた住民票の人だよね!」

Yというのは、父が持っていたR社の資料の中にあった、四人分の免許証や住民票、パスポートのコピーなどのうちの一人だった。

リンクに飛んで記事を読むと、Yがある社長からR社の株の売買をネタに、数十億円をだまし取ったという内容だった。
名前だけじゃなくて、お父さんが持っているYの銀行口座の残高の金額と一致してるの
僕が見ると、確かに一致している。もうクロではないか。この記事を次回の話し合いの時の証拠の一つにすることにした。

***

父との三度目の対決

父と兄弟たちで再び集まったのは、一月の最後の日曜日の夕方だった。もともと実家でまた会う予定だったが、新宿に変更になった。父から長男に「母と次女がインフルエンザに羅漢したので場所を変更して欲しい」と連絡が入ったからだ。

ゆっくり話ができる場所、ということで新宿南口から徒歩三分の貸し会議室を借りた。
前回同様、父と話し合う前に兄弟たちで事前相談をする予定になっていたので、四時に現地に到着した。貸し会議室はライオンズマンションの一室で、狭いワンルームにテーブルと椅子を置いただけの場所だった。

到着すると、驚いたことにインフルエンザで寝ているはずの次女が先に来て長男の横に座っていた
「どういうこと? 次女お前、インフルになったって聞いてたけど」
そんなのお父さんの嘘に決まってるじゃん。実家にお母さんがいるから、今日の話を聞かれたくなかったんだよ。確かにお母さんと二人でインフルになったけど、それもう一週間以上前の話で、私もお母さんも元気
呆れ顔で次女が言った。なるほど、父がやりそうなことだ。
長男が僕に声をかけた。
「三男が来れないんだっけ?」
「職場の人がインフルになって、急に出社しなくてはいけなくなったらしいよ。まあ、三男がいなくてもいいんじゃないかな」
そうこうしているうちに、長女も到着した。

***

父が到着したのは約束の丁度の時間だった。
「アジトみたいなところだな」
狭いワンルームのスペースをぐるりと見渡して父が言った。
全員が着席すると、兄が口を開いた。
前回の続きだけど、年末にお金が入るって言う話、どうなったの?

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