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借金発覚 第24話「2度目の父との対決 前半・借金編」

0〜23話までのあらすじ

五十二歳で大手生保を早期退職した父は、退職金を元手に怪しい投資ビジネスを開始するが、一年も経たないうちに退職金は蒸発。一家は貧乏暮らしに転落。それから十八年後のある日、父の隠していた借金が発覚し、兄弟たちで大騒ぎになるが、「もうすぐ大金が入るから」と父は自己破産を拒否。そんな中、十四年間失踪していた三男が見つかり、三男は母との再会を果たす。その折、次男は実家で父の怪しい投資ビジネスの書類を押収し、詐欺色の強い書類の山に呆れ返る。そして2回目の父との話し合いの日がやってきた・・

主な登場人物

父・・・大手生保の営業マンだったが、五十二歳で早期退職。
母・・・農家出身で看護師。メンタルが弱い。
長男・・・五人兄弟の長子。既婚。地方都市に住む。
次男・・・五人兄弟の二番目。既婚。本書の主人公。
長女・・・五人兄弟の三番目。既婚。
三男・・・五人兄弟の四番目。独身の一人暮らし。
次女・・・五人兄弟の五番目。独身。父母と唯一同居。

十五年ぶりに兄弟五人が集合

兄弟五人が集合したのは十二月五日の午後一時だった。十四年ぶりに会う長男は三男を見ると
「よう」
と短く挨拶をして握手の手を差し出した。男兄弟の再開なんて、あっさりしたものだ。
その後すぐに妹二人と合流して、五人で近所のファミリーレストランに向かった。

「すごーい。兄弟五人で集まるの、十五年ぶりだね」
次女は嬉しそうに兄弟たちの写真を数枚撮った。
メニュー表を取ってランチを注文しようとすると、次女が慌ててお願いした。
「みんなごめーん、ここで注文するのは軽食にしてくれない? 実はお母さんが全員分のけんちん汁とお餅を用意しちゃってるのよ
「はあ? 今日はそんな一家団欒な雰囲気になる訳ないだろ」
「うーん、わたしもそう思ったんだけど、朝から作り始めちゃって」
母は長女の家で子供の面倒を見ることになっているため、実家にはいない。
「まあいいよ。俺、そんなにお腹空いてないから」

軽食を食べながら、前回同様、話の流れを確認する。前回と異なるのが、失踪していた三男が加わっていることと、話し合い用の資料が用意されていることだ。資料は僕が用意した。全十七頁にわたるもので、問題の経緯、概要、借金の総額、解決のオプションとその詳細、そして父の投資ビジネスについてがまとめられている。

「俺は父ちゃんの側について話を進めるから、資料は作ったお前が説明しろ。で、他の兄弟は必要に合わせて意見を言う」
今回も長男が進行役だ。これは本当に助かる。僕は父を責める憎まれ役である。これも仕方がない。僕から一つ提案を出した。
「Tさんから聞いた、和解交渉をして借金を大幅に減らす方法なんだけど、今日は出さないで、こちら側の最後の切り札に取って置いてもいいかな」
「分かった」
我々兄弟としては、基本的には自己破産で話をまとめたいところで、Tさんの解決案は行き詰まった時の最終手段として取って置きたかったのだ。
「じゃあ行くか」
約束の時間の十分前に僕らはファミリーレストランを出た。

***

父との2回目の話し合い

実家に入ると父が待っていた。父は三男を見ると嬉しそうに言った。
「壮観な顔つきになったなあ」
十四年ぶりの再会がこんな話し合いの場だとは何とも言えないが、これで全員が三男との再会を果たしたことになる。

実家はテーブルがなく、こたつを使っているため、父と我々五人はこたつを囲んで座った。父がこたつの奥に座り、僕と長男が父の左右斜め、三男は僕の横、二人の妹は父の正面に座った。前置きもそこそこに、長男が切り出した。
「七月に話に来たと思うんだけど、改めて前回の続きってことで。これ、次男が作った資料」
長男が僕が作った資料を父と、そして全員に配る。
「じゃあ、次男、説明よろしく」

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